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騎士団と嘘つき  作者: koma
<北軍編>
9/77

(二段ベッド)

「ところでさ、ウィル、一つ聞いてもいい?」

「なんだよ」


 ウィルは立ち上がると、自然と二段ベッドの梯子に足をかけ始めていた。

 ああ、私が下なんだ。

 リオはまあいいかと振り返ったウィルに近づく。


「今日、反省部屋に別の子がいれられてなかった?」


 ウィルは片眉をあげる。

 

「んー、反省部屋は、基本一人だからな」

「そうなの?」

「そう。釈放されるまでずっと独りぼっち。反省文をかかされて、これ、やられて」


 と、傷のついた背中をチラと見せた。


「まあ、だいたい三日くらいで放り出される。罪状によるけど」

「三日も」


 トマスは耐えられるかな。

 考え込んだリオに、今度はウィルが尋ねる番だった。


「どうしてそんな事聞くんだ?」

「あ、えっと」


 梯子にかけていた足を下ろして、ウィルはじっとリオを見つめた。

 リオは「あのね」とその視線を受け止める。


「今日の夕方、食堂で暴れてる子がいて。その子がその、反省部屋ってところに連れて行かれてたから、あの後どうなったのか、気になってて」

「ふうん、なんて名前?」

「トマスって呼ばれてた」


 ウィルは少し考えるように視線を逸らして、言った。 


「知らないな」


 だろうな。

 リオは頷く。

 

「そう、変なこと聞いてごめん。ありがと」

「別にいいぜ。なんでも聞けよ。分からないことばっかで、不安だろ?」


 ウィルが口の端をあげて微笑む。


「明日から、オレがここを案内してやるよ。訓練の事とか、農場の事も」


 その笑顔につられるように、リオの口角も上がっていた。

 

「ありがとう。すごく助かる」


 ウィルが感心したように言った。


「お前、素直だな」

「……そう、かな」


 そんなことを言われたのは初めてで、少し反応が遅れる。

 宿では大人たちに、可愛げがない、愛嬌がないと言われ続けてきたのに。

 しっくりこなくて戸惑うリオの頭上に、ウィルの手がすっと伸ばされた。そのまま、短くなった髪の毛をくしゃりと撫でられる。 


「お前が弟だったらよかったのに」

「え?」

「いや。本当の弟はいるんだけど、全然関わりなくって。弟ってどんな存在なのかなってずっと思ってたんだ。リオは、兄弟いる?」


 ふるふると首を横に振った。


「いない」

「なら、ちょうどよかった」

「何が?」

「兄貴ぶれるだろ」


 えっと。


「それはちょっと、考えさせてくれないかな」


 途端にウィルは膨れ面になる。「なんでだよ」と。

 ウィルの方が、だいぶ素直なんじゃないだろうか。

 心のままに喚くウィルを見て、リオは深くそう思った。




 *


 翌朝。宣言通りに兄貴ぶったウィルは、張り切ってリオを揺り起こした。


「リオ、リオ起きろ」

「……ん」


 眠気と戦い見上げた空はまだ薄暗い。太陽も上りきっていなかった。


「メシだ。いくぞ」


 中途半端に洗った顔のまま、リオは強く手を引かれて食堂へ向かった。


 食堂の前には、既に配膳待ちの列が出来ていた。傍でチっとウィルが舌打ちする。


「遅かったか……明日はもっと早く起きるぞ、リオ」

「うん」


 欠伸をかみ殺して頷く。


「……遅いとご飯って残らないんだっけ?」


 ウィルは「いや」と首を振る。


「待つのが嫌いなんだ」


 じゃあいいじゃないかと思いつつ、リオは前の列にそって足を進めた。

 その耳に、気になる言葉がチラホラと届く。


「おい、見ろよ」

「ウィリアムだぜ」

「もう出てきたのかよ」


 明らかに快くは思われていない囁きだった。

 リオが声のした方に顔を向けると、さっと視線を逸らされる。しかし中には忌々しそうにこちらを睨んでくる集団もいて、体格から見るに、上級生なのだろうと思われた。


「教官も何してんだよ」

「あんな奴野放しにするなよな」


 ひそひそと続けられる声に、リオは思わず眉を顰める。たぶん彼らはウィルに聞こえるように言っていた。


「おはよう、リオ」


 と、後ろから届いた声に、暗い思考がかき消える。

 振り返ればテイルとジエンが並んでいた。今日もテイルのクセ毛は四方に跳ねていて、ジエンの背は高かった。


「おはよう、テイル、ジエン」

「はよ」

「おはよ、ちゃんと眠れた?」

「うんぐっすり」

「なら良かった。今日はさ──」


 言いかけたテイルと眠そうだったジエンの顔が突然、ふっとこわばる。そうして幽霊でも見つけたかのように、一点──リオの背後を凝視していた。リオは、あ、と思い出す。


「リオ、そいつら誰?」


 テイルとジエンの視線を追えば、隣にいたウィルがきょとりと首を傾げているところだった。

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