(君と眠る冬)2
(君と眠る冬)から二年後、14歳くらいのウィルとリオの一幕です。
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まだリオが女の子だとバレてない時です。
──なんでだよ
その苛立ちは、ジャスティンと手合わせで負けたからでも、凍えるような寒さのためでもなかった。
ウィルは外套のポケットに両手を突っ込んだまま、不貞腐れるようにして北軍基地内を歩く。
朝から降り出していた雪は今なお止まず、間も無く消灯を迎えようとしている現在、ウィルの膝程まで積もっていた。北方の冬は厳しい。それらを押し出すように歩くだけで体力は奪われるし、雪と共に吹き荒ぶ豪風もウィルの体温を確実に下げつつあった。
しかし今のウィルにとって、その全ては些細な問題でしかなく──。
──リオのやつ
苛立ちを堪えながら戻る食堂から帰り道。
ウィルの脳内を占めるのは、太々しい親友のことだった。
問題が起きたのは昨夜。
いつもの通り、雪かきの当番を終えたウィルは急ぎ足で部屋へと戻り、先に眠っていたリオのベッドに潜り込もうとして────思い切り拒否されたのだった。
その時のリオの険悪さといったらなかった。今思えば微睡んでいたところを起こされて、怒っていたのかもしれないが、──ともかく、リオはいつになく機嫌が悪かった。
何歳だと思ってるの。
一人で寝てよ。
ウィル、大きくて寝にくいんだから。
今まで溜めていた不満を一斉に吐き出すかのように言って、リオはウィルに背を向けてベッドに潜ってしまった。そのあとはよるべもない。
ウィルが何を言っても起きてはくれず、喧嘩は翌朝、昼、そして現在まで続いていた。
「くそ」
ウィルはむしゃくしゃしながら部屋へと戻る。
今夜はリオが雪かきの当番で、だから部屋は寒々しくしんとしていた。
「……なんなんだよ、急に」
ウィルは忌々しく思いながら、二段ベッドの下、リオのスペースに腰を下ろした。
目をやった壁際、カーテンなど気の効いたもののない小窓の外は真っ暗で、ちらちらと雪が舞っている。
外は今夜も、寒いのだろう。
ウィルは小さく息をついた。
いくつの時だったかは覚えていないが、冬の寒さに耐えかねて、一緒に眠るようになったのは、自分がきっかけだった。
あの時もそう。雪かきを終えたばかりで、つま先も鼻先も、凍えるように寒くて、寒くて。ウィルは温もりを求めて、先にベッドに入っていたリオに身体をくっつけて眠ろうと思いついたのだ。
そういえばあの時もリオは最初嫌がってたっけ……。
ふとその時の様子を思い出して、ウィルは知らず微笑っていた。
冷たいとか。
僕の方が損してる気がするとか。
そんな文句をぶつぶつ言いながら、でもリオは、結局は一緒に眠ってくれた。温かくていい匂いがして、ウィルは心の底から安心して眠ることが出来たのだ。
だから、そんな冬が続くものだとばかり思っていたけれど。
「……んなわけねぇよな」
確かにウィルはここ数年で身長も伸びたし、リオだって成長している。
ただでさえ立派とは言い難い軍支給のベッドに、男二人が眠れるはずがないのだ。
ウィルは一抹の寂しさに、胸を痛めた。
リオの主張は正しい。
だからこの喧嘩は、自分が折れるべきなのだろう。
そう、苦しく思った瞬間だった。
雪かきを終えたリオが、部屋の扉を押してそっと顔を覗かせる。
雪を少し被ったその顔は、暗がりのせいか、いつもより幼く見えた。
ベッドの下段に腰を下ろしたままのウィルに気づいて、わずかに目を見開く。
「……ただいま」
「おかえり」
「まだ起きてたんだ」
「眠れなくて」
自分の部屋だというのに、リオは所在なげに立ち尽くす。今朝からずっと喧嘩をしていたため、気まずいのだろう。
ウィルはベッドに腰掛けたまま、リオを見上げた。
「リオ、きのうはごめん」
「……」
ウィルから謝ってくるとは思っていなかったのだろう。
リオはあからさまに驚いていた。
ウィルは苦笑で返す。
「冷静に考えたらおかしいよな。きのうはオレが悪かった。だから、ごめん」
「…………うん」
「仲直りしようぜ」
「……うん」
頷いたリオがやっと笑ってくれて、ウィルもようやく安堵する。
やっぱりリオには、笑顔でいてほしい。これからもずっと。ずっと。
「リオ」
ベッドから立ち上がったウィルは、そのまま親友に歩み寄ると、身長差の出来始めた、その体を抱きしめた。とたん、腕の中のリオがもがく。
「ウィ、ウィル……っ⁉︎」
「リオ、小さくなった?」
ぎゅうっと力を込めて抱きしめれば、リオはますますもがき始めた。その焦り具合が、なんだか面白かった。
「……っ! ウィルが大きくなったんだろ!」
「そっか。そうかもな」
「いいから離してよ」
「喧嘩の詫びにあっためてやる」
笑いながら言ったウィルは、今一度と、親友を抱きしめなおした。
冷えた小さな体。
でも、なぜだろう。
温かくもある。
視界の端に映った窓の外では、まだ雪が降り続いている。
だからウィルは、もう少しだけとリオを抱きしめた。
読んでくださってありがとうございました**




