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騎士団と嘘つき  作者: koma
小話
70/78

(どうかあの子が泣きませんように)

北軍時代 ジャスティン視点SS

(Twitterより再掲になります)

「またリオが一番だ」


 そう言って感嘆した年上の同僚──リヒルクに、ジャスティンはちらと視線を上げた。夕刻の教官室には、自分とリヒルクの他、数名の教官がデスクについて、事務仕事をこなしている。


「またですか」


 少し離れた席から、飛ばされてきたばかりの若い士官が言った。困ったように眉を寄せている。


「前みたいにウィリアムが癇癪を起こさないといいですね」

「ああ、あれな。前に一番を取られた時もえらく腹をたててたものな」


 ジャスティンの隣に座る教官が、同調して苦笑した。

 散り散りに座って仕事をしている他の教官たちも、「あれは面倒でしたね」とペンを置いて笑い出す。

 ジャスティンは一人、数度瞬きをした後、自分の仕事に戻った。

(あまり目立たない方がいいだろうに)

 手元の採点用紙は、ちょうど話題に上がっているリオのものだった。辿々しい字で、正解が書き連ねてある。よほど勉強したに違いない──教えているのは、同室のウィリアムだろう。

(勝ちたいんだか負けたいんだか)

 熱いコーヒーに口をつけながら、ジャスティンは両の目を細めた。

 リオとウィリアムは反発しながらも、気が合うのか、このところずっと行動を共にしている。

 同時にテイルやジエンらとも打ち解けたようで、リオには、少しずつ笑顔が増えていた。──あの宿にいた頃の、死んだ目の少女はもういない。


『他に行くところがないんです』


 数ヶ月前、泣き腫らしながら身の上を明かし、ここに置いて欲しいと懇願してきた少女。

 あの涙はずるい。

 ジャスティンは思い出し、深いため息をこぼした。

 あんなに泣かれて、男の相手までさせられそうになっていると聞いて、それでなお放り出せるほど、ジャスティンは非道な男ではなかった。

 少しの間だけ。

 そう自分とリオに言い聞かせて、ジャスティンは彼女を保護した。

 そう長く置いてやることはできない。

 ジャスティンは早々に、リオを軍から抜けさせるつもりだ。

 守ってやるのも、誤魔化してやるのにも、限界がある。

 だから。


「……そんなに頑張らなくてもいいのに」


 君は女の子で、どうせ騎士になどなれないのだから。

 ぽつりと呟いて、ジャスティンは満点の採点用紙に頭を悩ませた。

 この子の努力が、実る未来があればよかったのに。


 開け放した教官室の窓の外から、少年たちの笑い声が響く。


 ジャスティンは寂寥に胸を痛めた。


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