(どうかあの子が泣きませんように)
北軍時代 ジャスティン視点SS
(Twitterより再掲になります)
「またリオが一番だ」
そう言って感嘆した年上の同僚──リヒルクに、ジャスティンはちらと視線を上げた。夕刻の教官室には、自分とリヒルクの他、数名の教官がデスクについて、事務仕事をこなしている。
「またですか」
少し離れた席から、飛ばされてきたばかりの若い士官が言った。困ったように眉を寄せている。
「前みたいにウィリアムが癇癪を起こさないといいですね」
「ああ、あれな。前に一番を取られた時もえらく腹をたててたものな」
ジャスティンの隣に座る教官が、同調して苦笑した。
散り散りに座って仕事をしている他の教官たちも、「あれは面倒でしたね」とペンを置いて笑い出す。
ジャスティンは一人、数度瞬きをした後、自分の仕事に戻った。
(あまり目立たない方がいいだろうに)
手元の採点用紙は、ちょうど話題に上がっているリオのものだった。辿々しい字で、正解が書き連ねてある。よほど勉強したに違いない──教えているのは、同室のウィリアムだろう。
(勝ちたいんだか負けたいんだか)
熱いコーヒーに口をつけながら、ジャスティンは両の目を細めた。
リオとウィリアムは反発しながらも、気が合うのか、このところずっと行動を共にしている。
同時にテイルやジエンらとも打ち解けたようで、リオには、少しずつ笑顔が増えていた。──あの宿にいた頃の、死んだ目の少女はもういない。
『他に行くところがないんです』
数ヶ月前、泣き腫らしながら身の上を明かし、ここに置いて欲しいと懇願してきた少女。
あの涙はずるい。
ジャスティンは思い出し、深いため息をこぼした。
あんなに泣かれて、男の相手までさせられそうになっていると聞いて、それでなお放り出せるほど、ジャスティンは非道な男ではなかった。
少しの間だけ。
そう自分とリオに言い聞かせて、ジャスティンは彼女を保護した。
そう長く置いてやることはできない。
ジャスティンは早々に、リオを軍から抜けさせるつもりだ。
守ってやるのも、誤魔化してやるのにも、限界がある。
だから。
「……そんなに頑張らなくてもいいのに」
君は女の子で、どうせ騎士になどなれないのだから。
ぽつりと呟いて、ジャスティンは満点の採点用紙に頭を悩ませた。
この子の努力が、実る未来があればよかったのに。
開け放した教官室の窓の外から、少年たちの笑い声が響く。
ジャスティンは寂寥に胸を痛めた。




