(幼心)
微熱の続き。
リオを看病するウィルのお話です。
(Twitterに投稿したものを修正してます)
──軽々とリオを抱き上げた、あいつのことが、嫌いだった。
暗い夜の中。ウィルは苦しげな親友の吐息を聞いていた。
身体を支えて水を飲ませ、額や首の汗を拭いてやり、声をかけては見守る。
ウィルには、それくらいのことしか出来なかった。
リオが倒れたのは、午後の訓練中のこと。
一番近くにいたのはウィルだった。
短距離を並んで走り、間もなく終えようとしていたその時に、突然、リオが転倒したのだ。ウィルはゴールしようとした足を止めて引き返し、倒れたリオに駆け寄った。
「リオ……! リオ……!?」
倒れたリオは返事もせず、きつく目を瞑ったまま、荒い息を繰り返していた。明らかに酸欠による呼吸ではない。ウィルはすぐにリオの額に手を当てた──朝もそうだったけれど──やっぱり、熱が上がっている。
舌打ちを堪えることができず、ウィルは怒鳴った。
「馬鹿! だから休めってあれほど──」
「どうしたんだい」
と、ウィルの怒号を遮って、担当教官のジャスティンが現れる。
ジャスティンはリオの側に膝をつき、汗ばんだ額に手を当てると、深く眉を寄せた。
ジャスティンの機嫌が悪い時の仕草だった。
低い声がする。
「……リオ、意識はある?」
「おい、んなもんあるわけ」
「あり、ます……」
ジャスティンの呼びかけに、リオが息も絶え絶えに声を上げる。
「よかった。医務室……は今いっぱいだから、部屋に運ぶよ」
言って、ジャスティンはリオの足裏と肩下に両腕を差し入れると、その身体を軽々と抱き上げた。熱で力が入らないのか、リオはぐったりとジャスティンに寄りかかっている。
ウィルはいてもたってもいられなくて、ジャスティンに怒鳴った。
「オレもいく」
「君は訓練中だろ。ほら、他の子も戻って。僕が帰るまでにあと二十本は走れるよね?」
ジャスティンは集まっていた少年たちを視線で蹴散らすと、すたすたと宿舎の方へ歩いていった。
「リオ、熱があったんだ」
「大丈夫かな」
テイルとジエンが、心配そうに呟く。
ウィルは遠ざかるジャスティンの背を睨むことしか出来なかった。
──オレが運んでやれたら良かったのに
そうしたら、あの嫌な教官の小言を聞くのも最小限で済んだだろうに。
ウィルは自分の細い手足を見つめて、拳を強く握り込んだ。
ウィルはまだ12歳になったばかりだった。悔しいけれど、自分ではあんなにしっかりと親友を抱き上げられない。だから、リオを奪い返せなかった。
「……ムカつく」
もともとあの教官の表面的な穏やかさや薄っぺらい騎士道は嫌いだった。
だけど今日は、もっと腹が立って仕方がなかった。越えられない力の差を見せつけられたようで──。
ウィルは深いため息を吐いて、リオのベッドに顔を埋めた。
早く大人になりたい。
幼い心で、そう、渇望した。




