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騎士団と嘘つき  作者: koma
小話
67/78

(微熱)

北軍時代、リオが熱を出すお話です。

(Twitter掲載SSを修正したものです)

 身体が熱い。

 頭が痛い。

 苦しい。


 リオは寮の自分のベッドに包まって、浅い呼吸を繰り返していた。

 そばにしゃがんだジャスティンは、若干──いやかなり怒っている。訓練中倒れたリオを抱き上げたその時から、彼はずっと真顔だった。


「どうしてすぐに言わなかったんだい?」


 穏やかぶっているいつもの仮面を剥がしたジャスティンが、手の平をリオの額に当てた。眉間の皺が、一層深くなり、とたん、蔑むように笑われた。


「尊敬するよ、よくこんな身体で走ってたね」


 リオはベッドの中からゆっくりと謝罪した。


「……すみません」

「本気で反省してるなら、体調がよくない時はちゃんと休んで……君は簡単に軍医に診せるわけにはいかないんだから」

「……はい……ごめん、なさい」


 リオは朦朧とする意識の中、ジャスティンを見上げる。

 彼の厳しい言葉も態度も慣れっ子のはずなのに、どうしてか今は、刺々しいそれが、いつもより深く深く胸に刺さった。

 身体が弱っているせいだろうか。

 リオは少し泣きそうになって、涙を堪えた。

 こんなことで追い出されたくはない。

 早く元気にならなくちゃ。


「……薬を取ってくるから、大人しく寝てるんだよ」


 難しそうな顔をしたまま、ジャスティンが部屋を出て行く。

 バタンと扉が閉まり、ひとりきりになると一気に孤独が押し寄せてきた。

 静まり返った部屋がこわかった。

 軍にいると、ひとりでいる時間が少ないからか、余計にそう感じてしまう。


 毎日、いつだって一緒にいてくれる口うるさい親友が、今はいない──それがこんなにも寂しい。


 リオは痛む頭を抱えながら、目を瞑った。目尻に、熱いものが溢れそうになって慌てて拭う。

 その時だった。閉じられていた扉がわずかに開いて、小さな影がすべりこんできたのは。


「リオ、大丈夫か?」

「え? ──ウィル……?」


 リオはぼんやりと、近づいてくるウィルを見つめた。


「……どうしたの、訓練中じゃないの? 怒られるよ」

「怒るのはこっちだ──あいつは?」

「……薬、取りに行ってくれた」

「じゃ、少しは大丈夫だな」


 ウィルはジャスティンがそうしていたように、リオの枕元にしゃがんだ。

 そうして、やっぱりおんなじようにリオの額に手を当ててくる。眉間に皺を寄せる仕草まで一緒だった。


「ったく。だから無理すんなって言ったのに」

「……ごめん」


 同室のウィルは、朝からリオの体調が悪かったことに気づいていた。

 それでもリオが「大丈夫」と彼の心配を振り切って訓練に参加してしまったのだ。


「今度から、気をつける」

「本当にな。約束だぞ」

「うん」

「次倒れたら、怒るからな」

「……うん」


 今も怒ってるくせに。

 リオは思いながら、目を瞑った。

 やさしい声がした。


「……寝るか?」

「うん、頭痛い」

「分かった。じゃあオレ、訓練に戻るな」


 ウィルの手が額から離れて、リオは目を開けた。

 立ち上がり、出ていこうとしていたウィルが、少しだけ笑う。


「なんだよ、寂しいの?」

「……うん。ひとりでいるの、つまんないよ」


 リオがぼうっとウィルを見つめる。

 ウィルはもう一度側に屈むと、リオの手を握った。


「早く良くなれよ。オレも、お前がいないと、つまんないから」

「……うん」


 リオは笑って、ウィルの手を握り返した。


 早く元気になって、また彼の隣を走りたいと、心からそう願った。



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