(微熱)
北軍時代、リオが熱を出すお話です。
(Twitter掲載SSを修正したものです)
身体が熱い。
頭が痛い。
苦しい。
リオは寮の自分のベッドに包まって、浅い呼吸を繰り返していた。
そばにしゃがんだジャスティンは、若干──いやかなり怒っている。訓練中倒れたリオを抱き上げたその時から、彼はずっと真顔だった。
「どうしてすぐに言わなかったんだい?」
穏やかぶっているいつもの仮面を剥がしたジャスティンが、手の平をリオの額に当てた。眉間の皺が、一層深くなり、とたん、蔑むように笑われた。
「尊敬するよ、よくこんな身体で走ってたね」
リオはベッドの中からゆっくりと謝罪した。
「……すみません」
「本気で反省してるなら、体調がよくない時はちゃんと休んで……君は簡単に軍医に診せるわけにはいかないんだから」
「……はい……ごめん、なさい」
リオは朦朧とする意識の中、ジャスティンを見上げる。
彼の厳しい言葉も態度も慣れっ子のはずなのに、どうしてか今は、刺々しいそれが、いつもより深く深く胸に刺さった。
身体が弱っているせいだろうか。
リオは少し泣きそうになって、涙を堪えた。
こんなことで追い出されたくはない。
早く元気にならなくちゃ。
「……薬を取ってくるから、大人しく寝てるんだよ」
難しそうな顔をしたまま、ジャスティンが部屋を出て行く。
バタンと扉が閉まり、ひとりきりになると一気に孤独が押し寄せてきた。
静まり返った部屋がこわかった。
軍にいると、ひとりでいる時間が少ないからか、余計にそう感じてしまう。
毎日、いつだって一緒にいてくれる口うるさい親友が、今はいない──それがこんなにも寂しい。
リオは痛む頭を抱えながら、目を瞑った。目尻に、熱いものが溢れそうになって慌てて拭う。
その時だった。閉じられていた扉がわずかに開いて、小さな影がすべりこんできたのは。
「リオ、大丈夫か?」
「え? ──ウィル……?」
リオはぼんやりと、近づいてくるウィルを見つめた。
「……どうしたの、訓練中じゃないの? 怒られるよ」
「怒るのはこっちだ──あいつは?」
「……薬、取りに行ってくれた」
「じゃ、少しは大丈夫だな」
ウィルはジャスティンがそうしていたように、リオの枕元にしゃがんだ。
そうして、やっぱりおんなじようにリオの額に手を当ててくる。眉間に皺を寄せる仕草まで一緒だった。
「ったく。だから無理すんなって言ったのに」
「……ごめん」
同室のウィルは、朝からリオの体調が悪かったことに気づいていた。
それでもリオが「大丈夫」と彼の心配を振り切って訓練に参加してしまったのだ。
「今度から、気をつける」
「本当にな。約束だぞ」
「うん」
「次倒れたら、怒るからな」
「……うん」
今も怒ってるくせに。
リオは思いながら、目を瞑った。
やさしい声がした。
「……寝るか?」
「うん、頭痛い」
「分かった。じゃあオレ、訓練に戻るな」
ウィルの手が額から離れて、リオは目を開けた。
立ち上がり、出ていこうとしていたウィルが、少しだけ笑う。
「なんだよ、寂しいの?」
「……うん。ひとりでいるの、つまんないよ」
リオがぼうっとウィルを見つめる。
ウィルはもう一度側に屈むと、リオの手を握った。
「早く良くなれよ。オレも、お前がいないと、つまんないから」
「……うん」
リオは笑って、ウィルの手を握り返した。
早く元気になって、また彼の隣を走りたいと、心からそう願った。




