(ふたり)
番外編2
北軍にいた頃、15歳ぐらいのリオとウィルの一幕です。
新緑の香る、春と夏の隙間。
山の水は、冷たかった。
「リオ、足出せ」
適当な岩に腰かけていたリオに、沢から戻ってきたウィルが言った。リオは、気まずそうに裸足の右足を伸ばす。
「……大したことないのに」
「あるだろ」
ズボンを膝までまくりあげたリオの足首を、片膝をついてしゃがんだウィルがそっと掴んだ。そうして上目遣いになる。
「痛むか?」
「……少し」
「冷やすぞ」
「うん」
ウィルが濡らしてきた手巾をリオの足首に当てる。ひんやりと気持ちがよく、リオは息を吐いた。痛みが引いていくようだった。
「ごめんね」
山の中での任務の最中、川を渡ろうとしていたリオは湿った苔に気づくことができず、派手にこけた。少し前のことである。
「捻ってるみたいだな」
ウィルが自身の曲げた膝の上に、リオの足先を乗せた。
「ウィル……?」
「応急処置だけしとく」
言って、ウィルは絹の手巾を歯で千切って裂いた。なんだか申し訳なくなって、リオは足を引こうとする。
「もう、いいよ。歩けるし」
「いいから、動かすなって」
じとりと睨まれ、リオは葛藤しながら抵抗を諦めた。
ウィルには過保護な面があった。
自分の怪我には無頓着なクセに、リオや他の兵士の怪我には「ちゃんと治せ」と面倒なくらい怒ってくる。兄貴面をしたい気持ちもあるのだろうが、本気で心配してくれているのも分かっているから、リオはおとなしく足を委ねた。
ウィルが器用に裂いた手巾をリオの足首に巻き付けていく。そうして、少し呆れたように言った。
「しかしお前、足細いな」
「そうかな」
リオは自分の足を眺め下ろして首を傾げた。
ウィルとそう変わらないと思うけれど。
手巾を巻き終えたウィルが、リオのまくりあがっていたズボンを下ろす。
「もっと鍛えろよ。たくさん肉食えって」
「ウィルはもっと野菜を食べるべきだよ」
「……よし、そろそろ戻るか」
都合が悪くなるとすぐこれだ。
リオは岩に手をつきながら立ち上がる。
山から宿舎までは、まだ結構な距離があった。
だからだろう。ウィルは当然のようにリオの前にしゃがんだ。
「乗れよ、早く帰ろうぜ」
「歩けるってば」
「遅くなるだろ」
有無を言わさず、ウィルはリオの手を引いて自身の背に乗せる。
広くて温かい背中に、リオは大人しくしがみつく。
この頃、ウィルといると息が詰まって苦しくなる。
なんでだろう。
リオは思いながら、心地いい揺れに身を任せた。
まだ恋を自覚してない頃。
いつも仲良しだったらいいな。と思います。




