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騎士団と嘘つき  作者: koma
<北軍編>
21/77

(リオ、喧嘩する)1

 その夜、リオは遅くまでテイル達の部屋にいた。

 初めて入る他者の部屋は、間取りは同じだったけれど不思議と独特の匂いがした。リオは、テイルとジエンと輪になるように木の床に座り込んで、色んな話をした。とは言っても、リオはほとんど聞き役だったけれど。

 話題はふたりの故郷の話から、英雄ディートハルト、この場の誰も知らない見たこともない都の話にまで及んだ。

 気が付くと消灯の合図が鳴らされて、リオは慌てて部屋を出たのだった。



「遅かったな」


 部屋に戻ると、随分と不機嫌そうな顔のウィルが、二段ベッドの下──リオのベッドに腰かけていた。腕には包帯が厚く巻かれている。


「ウィル、戻ってたんだ」


 良かった、とリオが歩み寄ろうとすると、ウィルは突き放すように言った。


「何処行ってたんだ?」

「え?」


 リオはきょとりと立ち止まる。 


「あ、ああ、テイル達のところ。色々話を聞いてたんだ」

「ふうん。またあのチビ達といたんだ」

「テイルはチビだけど、ジエンは高いよ」

「何話してたんだ?」

「え……別に。テイル達の家族のこととか、ディートハルトさんのこととか」

「こんな時間まで?」

「うん、話が盛り上がって、ギリギリになっちゃった。それより、腕大丈夫?面会に行ったんだけど、追い返されちゃって。今日は部屋に戻らないのかと思ったよ」

「……ちょっと、骨を痛めただけだ」

「折れてはないの?」


 ウィルが頷く。

 リオは胸をなでおろした。


「良かった、心配してたんだ。僕のせいで、ごめん」

「……ん」


 リオは部屋に入って、扉を閉めた。

 言いたいことは沢山あった。

 もう今日みたいに強制はして欲しくないことや

 ウィルはもっと友好的に動いた方がいいと思ったこと。

 けれど、今夜はもう遅い。そろそろ見回りの教官もやってくる。だからリオは、また明日言えばいいと思った。


「ウィル、腕痛むだろ?今日は下で寝なよ。僕が上で寝るから──灯り消すね」


 リオは窓辺に寄って、短い蝋燭の火に息をかけた。

 狭い部屋は一瞬で青白い月明りに満たされる。と、ウィルの低い声が背にかかった。


「お前さ」

「え?」


 振り返る。

 暗がりの中、ウィルはまだ不服そうだった。


「あんな低能な奴らといて、楽しいのか?」


 リオは眉をぴくりと動かした。


「……低能?」

「低能だろ。せっかくディートハルトさんが来たってのに、勝てないからってただぼうっと突っ立ってさ。なにしにここに来たんだっての」

「……低能って、テイル達のこと?」

「そうだよ」


 リオはむっと眉を寄せた。


「ウィル、その言い方はひどいよ」

「何処が?ああ、臆病っていいかえた方が分かりやすいか」

「ウィル」


 リオが声を荒げても、ウィルは呆れたように首を振っただけだった。


「勝てないなんて、オレだって分かってた。挑むことに意味があったんだ。どれだけ自分が弱いか、通用するか、しないのか。やってみなきゃ分からないだろ?実力が分かったら、次に進めるだろ?でも、あいつらはそれさえしなかった。とっくに諦めてるからだよ、騎士になることを──

なあリオ、あんな奴らといたら駄目だ。弱くなる。もう関わるの止めとけって」

「……嫌だ」

「リオ」

「ウィルは勘違いしてるよ、テイル達は臆病者なんかじゃない。勇気を使う場所がウィルと違うだけなんだ。実際僕は、もう何度も助けられてる」

「助けられてる?あいつらに?」

「そうだよ」


 リオはぐっと拳を握りしめた。


「僕が上級生に絡まれた時、テイルは教官を呼んでくれたし、今日だって僕の気持ちを分かって、ウィルを止めに入ってくれた」


 怖かったに違いない。テイルの表情も声も硬く、語尾はわずかに震えていた。あれを勇気と呼ばずしてなんと言うのか。


 ウィルの言葉と目つきが鋭くなる。


「つまり……オレが、無理やり参加させたって言いたいのかよ」

「違った?」

「っ!」


 ウィルがしびれを切らしたように立ち上がる。


「そりゃ、余計なことしたな!けど、オレは……っオレはお前のためになると思った!」

「そんなの頼んでない」

「ああ、そうかよ!」


 ウィルが力任せにベッドの柱を蹴った。振動でぐらぐらと揺れる。

 だが、リオも負けてはいられなかった。


()()()ウィルにはわからないよ。僕が今日、どれだけ怖かったかなんて。足は竦んだし、手は震えた。勝てっこないって逃げ出したくなってた。でも、ウィルに嫌だってはっきり言えなかった……臆病者がいるとしたら、僕のことだよ」

「違う!」


 ウィルの叫びが狭い部屋にこだまする。

 窓は開け放したままだったし、そうでなくとも宿舎の壁は薄い。喧嘩は、ダダ漏れだったろう。


 ウィルの表情は険しいままだった。


「お前は臆病なんかじゃない……初めて会った時、お前は、他の奴みたいに、オレを怖がらなかった!」

「そんなの当たり前だろ。ディートハルトさんに比べたら、ウィルなんか全然怖くないよ」

「なんだと……っ」


 ウィルが怪我をしていない方の手でリオの襟をつかんだ。リオも負けじとその手を握り返す。


「やめてよ、服が伸びるだろ」

「うるっせえな!弟分の分際で」

「ずっと思ってたけど、僕の方が背は高いよ!」

「ああ!?」

「だから、弟なんて言うのやめてよ!」

「っの、……クソガキ!」

「同い年だろ!」


 ウィルに強く身体を押され、リオは激しく壁にたたきつけられた。リオはキっとウィルを睨み返す。痛みより怒りが勝った。


「そうやって暴力ばっかりだから、テイル達に怖がられるんだ!」

「怖がるのは臆病だからだろ!」

「っ!だから違うって!」

「──煩いぞ!」 


 怒号と共に、勢いよく部屋の扉が開かれた。

 顔を出したのは、しかめつらのリヒルク教官だった。


「なに騒いでるんだ!」


 リヒルクは、ウィルとリオを引きはがすと、ふたりの頭上にゲンコツを食らわせた。程ほどに痛くて、リオは頭を押さえる。理不尽過ぎる。


「こんな時間に騒ぎやがって。喧嘩なら表でやれ」


 リオは涙目でウィルを見つめた。ウィルの目尻にも、涙が浮かんでいる。


「お前らふたりとも反省室だ!来い!」


 リヒルクに促され、ふたりは渋々部屋を出る。

 リオは前を行くウィルの背を、いつまでも睨んでいた。

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