(不穏な食堂)
ああ、そうだ。テイルもジエンも、ウィルの事を反抗的な恐い子だと誤解しているんだった。
なんか、困ったな
リオは妙に焦りつつ双方の間に立った。
とにかく今は自分しか橋渡しにはなれない。
動揺しつつも、ウィルにふたりを紹介する。
「えっと、テイルとジエンだよ。昨日知り合って、色々教えてくれたんだ」
「へえ」
ウィルはそう言って、テイルとジエンに改めて目を向けた。
その真顔からは、これといった感情は読み取れない。
何とも思っていないのか、そもそも興味がないのか。ウィルはそれ以上口を開こうとはしなかった。
その間にも、配膳の列は進む。
と、ぎこちなく手を差し出したのは、テイルだった。
「よ、よろしく、ウィリアム君」
その声も、思いのほか小さい。
「オレの名前、知ってるんだ」
テイルから差し出された手を握り返すことはなく、ウィルは言った。テイルは、「まあ」とやはりぎこちない声を絞り出す。
「君、成績順でいつも一番だからさ。名前くらいは覚えちゃうよ」
「あと反省部屋にばっかり行ってる暴力野郎だって?」
ウィルの一言に、場が一気に緊張した。
リオは知らず、シャツの裾を握りしめる。ウィルからピリピリとした空気が流れてくるのが分かった。
「ウィル、あのさ──」
「なんだよ、勝手にびくびくしやがって。オレは何にもしてないぜ。普通に話せよな。弱虫チビ」
テイルの顔はいよいよ青ざめる。
リオは、ウィルの腕を掴んでいた。
「止めなよ。テイルは弱虫なんかじゃないよ」
「なんだ、お前もこいつの肩持つの? 離せよ」
ウィルはばっとリオの手を振り払うと、列を抜けた。
「ウィル……! 待って」
けれど、ウィルは振り返りもせずに寮生たちの間をすり抜け食堂から出て行こうとする。追いかけようとするリオに、テイルが手を伸ばす。
「リオ……! ちょっと」
「なに」
「なんであいつと一緒にいるの? 昨日言ったじゃないか。ほんとに危ないんだって」
「どこが? どこが危ないのか僕にはわからないよ」
早く追いかけないと。
そう思うのに、テイルの手はぐっと力を増す。
「もしかして、同室になったの?」
「うん、そうだよ」
憐れむように目を細められた。
「リヒルク教官に言って部屋を変えてもらおう。前の同室の奴は、いびきがうるさいって理由だけで怒鳴られたって」
「いや、オレは腹を蹴られたって聞いたぞ」
ジエンまでそんな事を言ってくる。
見たわけでもないのだろうに。
テイルは言った。
「それにさっきの見たろ? あのいやな目つき」
「テイル」
リオは声を張り上げていた。
「それを言うならテイルだって、いやな目だったよ」
「リオ……!」
リオはテイルを振り切って、食堂を抜け出した。
たぶん、ウィルは傷ついていたから。




