四仕事目。
ごめんね!!! おくれたよぉぉっぉぉ!!!
私とただの不審者の男は私達の御屋敷から十分程度歩いた平原に来ています。
勿論、此処もご主人様の所有している土地であり、別にここで神代魔法を研究したり、ホムンクルスを製造したり、深淵魔法を行使したりしても何も問題はないのです! ……ま、まあ深淵魔法は、ばれたら普通に異端尋問に掛けられますけれどね。
まあ、ある程度の自由があるので、私はここを選ばせてもらいました。
「ここでいいでしょう。近くに水場もありますし、森もないので日もあまり移らないからね。ここなら本気を出しても構いませんよ」
「そうかい、じゃあ、先ずは嬢さんが打ったと同時に試合を開始しようじゃないか」
しかしながら、私の姿は十五歳程度の小娘です。そんな風に見下されると言うか、侮られると言う事は分かっていましたが……これは酷いですね。別に、その伸びきった鼻を折ればいいだけなんですけどね。
それに、侮っているのならば隙は当然あり、簡単に倒せると言う事も分かります。まあ、屠る方が簡単なのですが。
「一つ提案なのですが、この戦いで勝った方は負けた方に対して何でも命令できる。と言う物を追加しませんか? つまらないですし」
「別に、俺は嬢ちゃんが良いのならいいが」
……やはりかなり格下に見られている様ですね。ここで私が更に「三下が何言ってんだよぉ? 私を挑発してんのかぁ? ぶち殺すぞ?」と言う事を言ったら、もっと格下に見られると思うのです。だからそうやれば瞬間的に殺れるのですが……殺ることが目的ではないですからね。
「ふぅ、なら分かりました。私の全身全霊であなたを叩き潰してあげましょう」
「口だけならだれでもできるぞ?」
本当にこの男は、私の言っている台詞を子供が言う見栄を張っている発現と同一視している様です。……まあ、私自身純生命体ではないので、歳を取りません。それに体内の器官が老化することも、能力低下することもない。
記憶だって、魔導結晶の中に莫大な記憶領域があるため、あと二千年近くは忘れる事は無い。それに記憶領域を別の魔導結晶に移し替えることによって、実質的に忘れない、と言う事もできる。
「行きます!」
――魔導回路覚醒、魔導炉起動、記憶領域内の対象を半殺しにするために適している遠距離魔法を検索中。
――発見できませんでした。近接戦闘も検索に追加、再検索中。
――発見出来ました。これより『顕現、涅槃の槍』の発動を開始します。
私には、通常の思考用の魔導結晶、記憶領域用の魔導結晶などのほかにもう一つ、普段は使わない、けれどこの三つの中で一番大規模なものがあります。それが戦闘用魔導結晶です。
この戦闘用魔導結晶は、普通の人間が杖などを通し魔導結晶で魔法に変える、という作業をなくし、そして記憶領域との連携もして、戦闘するときは自動的にこれが起動します。
これを利用すると、自らの意志では動けませんが、行動を制止することくらいはできます。……こう言う所があると言う事を考えると、ご主人様が私を作り出した最初期の理由は人型決戦兵器なのだろう。
まあ、ホムンクルスと言う物の存在が認められなかったおかげで、私が戦争に利用されたり、居たかもしれない妹たちが利用させられると言う事は無かった。……そうなっていたら私は本当にどうなっていたんでしょうね。
「覚悟してくださいね?」
「な、なんだその槍は! ……まさか!? 魔導兵器!?」
なにやら驚いているようだが、私は無視して、この男を気絶させる、もしくは死なない程度に大けがを負わせて降参させる。それの方が優先的です、勿論、優先的とは言いましたが達成しない限り戦闘用の魔導結晶が延々と稼働し続けてしまうので、結局終わらせないといけません。
「まて! その武器はどこで拾ったんだ!」
しかしながら、本気でその男は困惑している、と言うかわめいている位の声を出しており、本気を出せない位には困惑していた。
……流石にこんなどうとも知れない男に対して、ニルヴァーナの事を言うのは嫌なのですが、こういう男は決まって口答えできるところがあると「この試合は無効だ! やり直しを頼む!」と言う風な事を言い出すのが定番なのです。
なので、まあ、一応教えておきますか。
「別に拾ったわけではありませんよ。魔法で顕現させているだけです。現に存在している魔法なので。「そんな魔法は存在しない! 失伝魔法だ!」等とはほざかないでください」
その言葉で男はこちらが大して説明したくないことも分かったようで、覚悟を決めたような表情でこちらを向きつつ、持っている私の身体の一,五倍程度の長さを持つ杖を構えた。
勿論、そんな構えられても、私がその男に対して手を抜くわけがなく、一瞬にしてその男は崩れおちた。
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「ふぅ、どうしましょうか」
あれから、少し経ち、私は先ほど私自身が気絶させた、一応お客人になっている男の目の前で困惑していた。と言うか困っていた。
理由は簡単な事で、お客人をこんなところに置いておくわけにはいかない、そういうメイドとして長年勤めてきて生まれた感情等ですが、流石にこのまま放置しておくのはいくら相手が無礼者だろうと、人間としてどうかしていると思うのです。
「うぅ、ですが、私は強化魔法は習得していませんし、元々の力は貧弱なので」
そう、私が一番困っている事は、今気絶している男の運搬方法についての事なのです。
実際、身体強化系の魔法は私が唯一苦手としている魔法で本当に全く持って使えません。……まあ、私が人間ではなく人造人間だからなのかもしれませんがね。
そして更に、私の筋力は見た目通り十三から十五歳程度の力しかない。だから大の大人を引っ張ることは難しい。
「はぁ、でも運ぶしかないですよね」
陰鬱になりながらも、私の体が本来持つ貧弱な筋肉を振り絞りながら、お屋敷と迷惑なお客人を運んだ。