十四仕事目
「「な、なんで!?」」
そして、その騎士たちが発した言葉を認識するとともに、ご主人様と私は驚愕により声を抑えると言う事を忘れてしまいました。……ご主人様には抑えると言う言葉を知っているのかが疑問なのですが。とりあえず私はそのくらい驚いていました。
「何を言っているんだ貴様らは! 王族の誘拐は重罪だ! 今更とぼけても無駄だ!」
王族、王族と騎士は馬鹿みたいに宣っているのだが、実際誰が、そもそもどれに対して王族と言う風にさしているのかが分からないうちでは下手に動けません。……流石にエル様が王族と言う訳ではありません。それに私も王族と言う訳ではありません。
ご主人様はたまに荒唐無稽な事をし始めるのでないとは限らないのですが、驚いている時点で多分違う……訳でもないでしょうが、無いと信じたいですね。
そして最終的に残ってしまうのはラインハルトになるのですが、流石にそれはエル様以上にありえません。こんな奴がノブレス・オブリージュを掲げているとか言われても信用なりません。と言うかこんな王が即位したら革命が二日後に起きると思う位ひどい奴なのです。……具体的な場所を示すと特に頭なのです。
「ちょ、危ないよ!」
どうやら、そんなバカな事を考えている暇はない様なのです。いつの間にかご主人様が騎士の人間に剣を振りかかられており、従者としては失格と言う事が頭によぎり、行動へと動いた。
――魔導傀儡人形:|生成《クリエイト>――
久しぶりに私がそれを使用した感覚は全く衰えを感じず、本当に私のために傀儡人形が動いてくれている様にまで思えてしまう。実際は自らの意志で動かしているのですが、そう思えてしまう位には無駄のない動きが出来ていたのでした。
「マリオネット? なんでこんなものが」
私の一番の得意な攻撃形態である、マリオネットを利用して、もしくは人形を使い操り、そしてそれで攻撃、防御、偵察、斥候をするという事だ。勿論、魔導傀儡人形も姿形は大道芸人や傀儡士が受かっている傀儡人形と全く持って変わりない。
しかし、本質は魔力遠距離操縦式傀儡人形型汎用兵器こと魔導傀儡人形なのです。……勿論すさまじい位長い位の名前になってしまうのですが、簡単に言うと、魔力で遠くから動かせて、盾や剣などを装備して攻撃戦力や防衛戦力として利用したり、記録結晶を利用して偵察をしたり、危険物を処理させたりといろいろと出来る。
それに大きさは人形そのものだが、力は人間と大して相違ない為、小さくても騎士と相打ちできるくらいの筋力を持っている。
「な、なんだこれは!?」
実際、すごく外見からは強そうには思えない代物だが、数百年前位には凄く人気だった魔法なのだ。それに同時起動が得意な人にとってはそれの同時起動数はどんどんと多くなっていく。今までの鈍重なゴーレムとは違い、軽く動かしやすく、そして同時起動も楽なのです。
……残念ながら超範囲魔法で一掃されたり、大量のマリオネットを持っていなければいけないと言う問題点からどんどんと廃れていき、現在では知っている者がごく少数の魔法だ。利用している奴なんて私くらいだと思うのです。
「無駄な抵抗は止めろ! どうせ抵抗したとしても、軍隊がここに訪れるぞ!」
勿論、こちらも何故騎士の人達がここに訪れ、武力行使をしているかを未だに把握していないので抵抗するしかないのですが、別に大国の一個軍団程度なら私ですら倒せるのです。それにご主人様は一国軍と太刀打ちできますので、そんな脅しは効かないのです。
……エル様に関しては不明です。実際一度も戦ったことを目視したことはありませんが、多分弱いと言う事は無いでしょう。流石に私よりも長年の間生きているのですから。正直言ってエル様はご主人様以上の化け物だと思うのです。
「へぇ、じゃあ君たちをすべて消し去る。もしくは記憶を消し去る、はたまた君達の存在を世界から消し去り、そんな事をなかったことにする。と言う事もできるけど、誰がそんな中で軍部へ、上司へと伝える気なのかな?」
どうやら、剣を振りかかられてしまった事と、私にまで剣を振りかかっていたことを不愉快に思ったらしく、ご主人様は久しぶりに怒っていました。おこなのです。でなければあのご主人様がそんな完ぺきと言うか、隙の無い脅しを考えるわけがないのです。
……従者としては本当に失格レベルの考えなのですが、実際、いつもご主人様は抜けているとか言う次元ではない位に抜けているので、仕方ないと思います。私を恨む前に自分の阿呆さを恨んでほしいのです。
「ふん、小娘が何を言う! さっさと自首しろ!」
「そうか、貴様はそのような愚かな選択をしたのか、いいさ、では自分の選択を恨むと良い」
……本当に怒らせてしまったようです。
ご主人様は普段普通の平民と同じ様な口調をしますが、キレると何故か支配者階級がするような口調をして魔法を利用し威圧するのです。初めのうちは格好つけているのだろうと思っていましたが、元々ご主人様は支配者階級だったようです。
……類は友を呼ぶという言葉を思い出したのです。ラインハルトとか王子だったらまるでそうなのです。
「はぁ、そんなに貴様らはラインハルトを躍起になって隠したがるのか?」
そんな中今度はエル様が爆弾発言をしてしまい、先ほどまで威圧的に騎士の人達を威圧していたご主人様も、そして本当に馬鹿らしいことを考えていた私も、時が止まったように目を見開いたまま固まってしまいました。
……や、やはりラインハルトが王子と言う事でいいんですね。まあ、この中で男はラインハルトしかいないのですから、当たり前だとは思っていたんですけれどね。……現実逃避位許してもらいたいのです。
「えっ!? ラインハルトって王子なの!?」
しかしながら、やはりご主人様は抜けている様で、ラインハルトの事を未だに王子ではないと言う風に思っていたらしいのです。
……エル様もご主人様も、そして私も女です。別に騎士の人達数名が同じような幻覚を見ている訳でもありません。何故気付かなかったのですか。
「……お前、前に言っただろ。王族の名前はせめて覚えておけと、特にこの国は王族に使われる名前は男ならラインハルト、女ならレイミッシュ。そう決まっている」
……。
「だ、だってマリネだって教えてくれなかったんだもん!」
ご主人様は自らの問題責任を私に押し付けて来ましたが、私は非常に聡明なるご主人様ならばそれ位分かってくれているのだろうと信用して言わなかったのですが、まさか知らなかったとは……私の過失ですね。
いえ、別に私も知らなかったと言う事は無いのですよ? そんな事は確実にないのですよ。わざわざ強調して言いますが、そんな事実はあり得ないのです。それ以上言うと私のマジック・マリオネットが凄まじい勢いで、駆け付けていきますのでご注意してくださいね?
「おい、マリネ、まさか」
「……」
そして今度はご主人様に向けていた呆れの目を私に向けて、そしてそれに威圧感込みで、睨みつけれられてしまったので、無意識に目を逸らしてしまい、今度はエル様が頭を抱えていました。
「ワ、ワタクシハ、ソウメイナルゴシュジンサマヲシヨウシテイタダケデシラナカッタトイウワケデハナイノデスヨ?」
「そんないい方したら誰でも分かるぞ、何故マリネまでここまで間抜けになってしまったんだ」
……どうやら私はご主人様によって本当に染められている様ですね。自然と自らが道化師のような、もしくは芸人の様に滑稽な事をしてしまうとは、本当にご主人様は絶対的な悪ですね!
今すぐに討伐されるべき存在なのです! さあ! 今こそ討伐軍を率いるので――
「マリネ? まさか私に責任を押し付けようとはしてないよね? それに凄く失礼な事も考えてないよねぇ? ねぇ? ねぇ? 減刑は場合によってはするんだけど?」
そして、エル様の視界から外されたご主人様は、まるで水を経た魚の様に生き生きとしながら、私に満面の笑みを浮かべながら、先ほど私がご主人様に責任を押し付けたことと、心の中で思っていたことが何故かばれてしまったようで、私の手を握りながら威圧してきました。
……な、なんて卑怯な人なんでしょうか! 雑魚な人がやりそうな手段に驚きながらも、私はご主人様に対して睨む事しかできませんでした。




