十三仕事目
修学旅行。うちの班の男子勢たちの半分が下ネタを馬鹿みたいに連呼していて、ついていけないよ。
「う、ううぅ」
あれから更に数時間以上。もうすでに血まみれの浮遊状態のご主人様は意識を取り戻していました。
……意識を取り戻した時のご主人様は、ラインハルトは気絶して、自らは血まみれで浮遊して、私はエル様に撫でられていると言う混沌とした意味不明な状況に困惑していましたが、回復魔法を使い完璧に治っていました。
「あ、ラインハルトが起きそうだけど、どうする? またつぶす?」
しかし、このご主人様は気絶していたため私がエル様に効いた会話を聞いている訳もなく、しかも私が素直に指示に従っていると言うだけで、根拠のない安心を感じたようで何も聞かずにずっと待っていました。
なので、私達がリスキルが如く気絶から覚めたラインハルトをまた気絶させる、と言う鬼畜の所業としか思いようのない行為をすると思ってもおかしくはな……いえ、十分おかしいです。普通は「手当てする?」とかが普通の台詞なはずなのです。
やはり私はご主人様に染められてしまったようです。……そ、そっち系の意味では全く持ってないのですからね?
「はぁ、そんなお前のような馬鹿みたいなことをするとでも思ったのか」
そうなのです、正真正銘の、生まれながらにしての類まれなる奇特で特殊で、珍しい鬼畜のご主人様でない限りはそのような事は絶対にしないのです。……別にする人間はいるでしょうがそれは意図的にやっているので真面なのです。
それに引き換え、ご主人様は「男なんて死んでしまえ! しかもイケメンとか、その下についている『ピーッ』を『ピーッ』してやるぞ! この糞『ピーッ』野郎!」と言う風に、とても危険な台詞を叫びながら男の人の急所を狙って行きます。……別に男になった時はあるのに、何故そこまで嫌悪するのでしょうか?
「誰が馬鹿なんだよ、おかしいよ!」
なにやら、ご主人様が私やエル様が可笑しな顔をしていたことに不満があるようで、子供が自らの状態に気付いていない状況で、自らの事を悪くないと心から思っているような口調で話してきたので、見た目と合わさり、とても微笑ましいご主人様でした。
……精神的に考えると、全く持って微笑ましくはなく、それどころか完全に滑稽と言うか、愚かと言うか、救いようのないと言うか、とりあえず、ぶん殴りたいくらいの感情を抱く位には微笑ましい? ですね。
「少し黙れ、本気で殺すぞ」
そんな、いつもご主人様とずっといる私ですら、ぶん殴りたいと、もっと言えばミンチにしたいと思ってしまった位のご主人様の台詞には、あまり耐性の無いエル様は本気で、殺すような殺気を放ちつつもラインハルトの瞳を覗き込むように立っていた。
どうやらエル様がここに訪れた理由は本気でラインハルトのようで、ラインハルトの瞳を見ているエル様の瞳がせわしなく動いていた。……以前私もされた事が有るが、確か記憶やら知識を読んでいるらしいのだが、正直言って本当かは分かりません。
実際魔法で心を読むことはできません。……もしかしたら特殊な魔眼のような物を持っているのだとしたら分かりますが、オッドアイと言う事もないので、そう考えるのは難しいでしょう。
「……(´・ω・`)」
流石に、いつものふざけが通用しなく、しかも本気でキレられ殺気を放たれ、そして本気で殺すと言ったことが良く分かったのか、ご主人様がシュンと、もしくはしょぼんとしていて、それは年相応で可愛らしく、ご主人様の子供心の幼さを表している様で、本当に可愛らしい姿でした。……そんな事を言ってしまうと、カウンターしてくるので絶対に言いません。
……ラインハルトが正気ではなくてよかったのです。私とエル様のご主人様が男と言う汚い生命体に奪われかねません。今は完全に心も少女になりかけているので、恋心を抱いてしまうかもしれません。
「ふむ、そうか、やはり」
そんな中、どうやら先ほどエル様の言った「勘で来ただけ」と言う事が勘ではなく、またもやも事実に変わってしまいました。
ただ、そのエル様の目には長年の願いがかなったような、清々とした、しかし黒い闇に包まれたような瞳を見せ、少し私も、そして困惑とは程遠いと思っていたご主人様も困惑していました……やはり、ご主人様も、エル様の目的は知らない様です。
「――解呪」
そして、その中でずっと瞳をエル様に見られているラインハルトは、頬を赤く染め、耳まで赤く染めながら手を口をあわあわと動かしていた。……エル様はツリ目の美人さんで、胸は慎ましいサイズですが、ご主人様や私の様に幼いと言う印象抱かせる胸ではなく、スレンダーで美しい、というイメージが沸く胸です。
だから照れているのでしょう。野郎の照れた顔など見たくもありませんが。
「……で、なぜ貴様のような者がここに居るのだ」
「はい? それはどういう事で?」
何やら、エル様はラインハルトの正体を掴んだようですが、流石に隠そうとしている事を、無理矢理聞き出す気はないようで「ふん」と、少し見下しながらも、エル様はラインハルトから離れて行きました。
……少し、勿体無いような表情をしているラインハルトだけが残っていたので、蹴りを入れておきます。
「何蹴ってんだよ」
そんなふうに私が何故ラインハルトを蹴っているかを理解していないようで、文句を言われてしまいましたがそんな事は知らないのです。
……それで特殊な性癖に目覚めてしまうのなら流石にやめることも考えるのですけど、ラインハルトに限って、そんなことは無いと思います。……無いですよね?
「さあ、何故でしょうね? ご自分でお考えになったら如何でしょうか? それとも考える力が無いということですか?」
少しご主人様の様に、傍若無人というか、突拍子の無いと言うか理不尽と言うか、そんな感じで喋ったのですが「ふざけんな、マリネがベヨネッタみたいになったら終わりだろ」と言う風に言っていたので、正常なのです。……筈です。
「冗談です。急にご主人様の様に思慮のない行動を……いえ、なんでもないのです」
流石に私があそこまで思慮のない、浅い人間になるわけでは無いですし、なりたくも無いと思ってしまった結果、口を滑らせ、ニッコリと口を三日月の様に鋭く笑っていました。
ご主人様の目は、全く持って笑ってはいませんでした。
「貴様らは何をやっているんだ」
ゆっくりと、ほんの少しずつですが、ゆっくりと、その恐怖を感じる笑顔を一切変えずに、近づいて来ていましたが、エル様の声によってその歩みを止めました。
「来るぞ? 万が一あり得るが気を付けろ」
「「うん? 何が来るのです?(来るの?)」」
そしてなぜか意味ありげな発言をしたので、疑問に思ってしまいます、口に出したタイミングがご主人様とかぶってしまい、少し悔しいのですが、そんな事を思っている時間はないようです。
「王子がいたぞ! 誘拐犯共を捕らえろ!」
騎士の人々が、何故か家の中に侵入し、剣を構えてこちらに向かってきました。




