十二仕事目
一応改定終わったよ!
「はぁ、マリネだけが私の心の癒しだぁ」
あれから数分後、血まみれになったご主人様の体が空中に浮遊していて、更にラインハルトは気絶させられていて倒れているこの部屋で私はエル様に頭を撫でられて、目を細めていました。……何はあったかは効かないでもらえると嬉しいです。少しだけ言ってみるとご主人様がすべて悪い、と言う事です。
「はわぁ」
しかし、どうやらこのエル様にとってご主人様が血まみれになって浮遊している事も、ラインハルトが気絶している事も私の頭を撫でる事よりも重要性は下回っている様です。この人はご主人様よりも私にぞっこんなのです。……別に撫でられるのは気持ちが良いのですが、先ほどまでのスプラッターを思い返してしまうと気持ちが悪いのです。
それに何故ご主人様は血まみれで浮遊しているのでしょうか? 絶対に触れてはいけない部分だとは察していますが、気になります。
「エル様? そう言えば今日は何故こちらに?」
勿論、撫でられるのは気持ちが良いです。気持ちが良いのですが、少し血がついている手で撫でられると恐怖感しか感じないので、会話を変え、一度やめてもらうように仕向けたのですが、私を撫でるのに夢中で、そもそも私の声が聞こえていない様でした。
時々「ヒューニスの猫輪でも使おうかな?」と言う凄く危ない台詞が聞こえましたが聞こえないふりをしておきます。……正真正銘あれはご主人様が世の中に作った最強の魔法兵器なのです。エル様の魔法などもすべて封じ込め、人間の言葉が離せなくなり、急激に弱体化までしてしまいます。
一度使われましたが、もう二度とつかわれたくはありません。
「エル様!」
「ん? 何?」
二度目で強く叫ぶような大声を上げると、どうやら私が読んでいたことに気付いたようで何事もなかったように、撫でる事をやめ正気を保っているようにしている様でしたが、目がキラキラと輝いているので正気とは思えません。
一応、言葉が通じるくらいには正気に戻ってくれたのはうれしいのですが、そのまま猫輪を持ってこられてしまうと、私だってエル様に魔法を仕掛けて私は逃げます。……逃げた所できっと何一つ変わりないと思うのですがね。
「今日は何をしにいらしたんですか?」
私が先ほどと同じ様に聞いてみると、上の空になりながらもエル様は「んー、マリネに合うためかな?」と言い、私に抱き着きながらすんすんと鼻を鳴らしながら私の首元の匂いを嗅いできました。本当に恥ずかしいのでやめてもらいたいのです。
……まあ、この一連の流れはいつも通りなので、少し離れてしまっているのですが、こんなカオスな状況に慣れてしまっているという私自身が恨めしいです。
「……はぁ、エル様って言う人は」
別に、ムカつくことをしてくるご主人様とは違い、私も心地よくなるのでどちらにも不利益を被らないので良いのですが、少し私の矜持が傷付いてしまいます。
「ふぅ、マリネを堪能できた」
そしてようやく私を撫でることに満足したようで、そんな事を言いながら立ち上がり、そして私に対して笑顔を見せながら「今日はその男に用があるんだ」と言いながらラインハルトの事を指差した。
どうやら嘘を言っている様ではない様ですが、何故ラインハルトに用があるのかが分かりません。そもそも、私はあまりエル様の事を知りません。何故唐突にいなくなったり出て来たりを繰り返しているのかさえ知りません。
「理由と言う理由は無いのだがな」
……本当にこの人が何を考えているのか分かりませんし、何故大して関わりを持っていないはずのエル様に思考が読み取られてしまうのかもわかりません。ただこの人の印象はご主人様の様に分かりやすい訳ではないけれど、分かりやすいようにも思えてしまう、掴み所の無い人、という印象です。
「まあ、勘で来ただけだ」
この人が言う勘は、私達の言う確定的な根拠がある、と言う事と同義と考えるべきなのです。以前この人が、「これは私の勘でしかないのだが、二日後この国は滅びる」と昔言った。
そしてその時は二日後に叛乱軍が王城へと攻め入りその国は本当に滅びてしまった。それ以外にも二度三度同じ事が有り、『エル様の勘=確定的に起きうる未来の事実』と言う風に思っています。
なので今回も何かしらの確定的な何かがありラインハルトに近付いたのだと思います。
「エル様、ラインハルトは通常の人間なのであと数時間は気絶していると思いますが」
そのままいつまでも待っていそうな気がしたのでエル様にそう言ったのですが、エル様は「だろうね、まあ意識が朦朧としているときの方がしやすいからな」と、良く分からない事をつぶやきつつもまた私の頭を撫でる、と言う事を再開した。
普通に、やめてもらいたいのですが、多分止めさせてしまうと、今度は空中に浮遊しているご主人様に何かをしだすことも目に見えているので、流石にそんな事を言う勇気はないのです。……それに死に体のご主人様に手を出しかねないところを放置するほど鬼畜ではないのです。
「エル様は何故ラインハルトに用があるのですか? それに勘の根拠は」
少し暇になり、エル様に一番聞きたかったことを聞いてみましたが、一瞬だけ顔をしかめるだけで、その後は一般的な笑顔をしながら私の頭を撫で続けていましたが、どうやらあまり触れてほしくはない部分らしいのです。
……多分ご主人様にも言っていないのだろうと思います。
そんな、色々なエル様の事について考察をしながら、撫でられまくり、時間は過ぎて行った。




