十一仕事目
「……何やってんだお前ら?」
それから少し経ち、リビングに、外に放置していたであろうラインハルトがやって来た。
ラインハルトは私達の雰囲気の悪さに何を企んでいるんだ、と言う様な表情を表に出していた。……別に私は何も企みませんよ。企むのはご主人様だけです。
「いえ、別に何もありませんが」
別に先ほどの痴態の事をこんな奴に報告するまでもないので適当に答えましたが、ラインハルトからは「お前、あのベヨネッタが居心地悪そうにしてんだぞ! あ・の、ベヨネッタが!」と言うように、正論を話していたが貶されているご主人様が怒っていました。
「ラインハルト! 私はお前の弟子なんだぞ! 失礼だ!」
「知らねぇよ! だから前から言ってるが、俺はマリネに弟子にしてくれって言ったんだよ!」
どうやらラインハルトのおかげで、と言うかラインハルトが究極的に馬鹿だったおかげで、言及される事は無かったですが、今度は厄介な師弟関係の喧嘩が始まってしまいました。こんな喧嘩するのなら他所でやって貰いたいですね。
「それに二年も弟子をやってるけど、まともな事を教えられてねえじゃん!」
更に今までの為ていたイラつきを爆発させている様で、今にも、と言うか現に椅子を持ち上げ暴れていたがご主人様の魔法によって動きを封じられており、どちらかと言えばご主人様の方が優勢ですが、小康状態になっています。
「弟子って言うもんはそういうもんでしょうが!」
「ちげぇよ!」
何だろうか、一瞬、見た目の事もあり、幼い少女の姿をしているご主人様が正当な事を言っているのかと思ってしまいますが、実際は椅子を振りかぶろうとしているラインハルトが正論を言っており、ご主人様はただの屑です。
「マリネちゃん! おかしいのは向こうだよね!」
そしてそんな中、今一番声を掛けられたくもないご主人様に声を掛けられました。勿論私的にはご主人様を推薦したい気分なのですが、流石にそれをするとラインハルトが不憫すぎるのです。二年間の無賃金労働。……ラインハルトがご主人様を訴えたら余裕で勝訴するでしょうね。まあ、力でねじ伏せられると思いますが。
「さぁ? でも頭がおかしい人は自分の事をおかしいと理解していない様ですよ?」
勿論、あんなことをほざいているご主人様に対し、私は満面の笑みを見せつつご主人様をオブラートに包んで頭がおかしい、と言ったのですが、ご主人様は意味不明な解釈をしてしまったようで、「ほら! マリネだってラインハルトの方が悪いって言ってんじゃん!」!と言う風な事を喚いていた。流石にそれには私も頭に手を当てるくらいの行動しかできなかった。
「違うだろ! お前マリネを見てみろよ! 頭に手を当てるだろ!」
「それは君の馬鹿さに失望しているんでしょ?」
いいえ、全く持って違います。ご主人様は何を考えているのですか。と言うか考えているのでしょうか。いくら何でも間抜けすぎます。……五百年前からこれなのによく生き残れていますよね。今のところ死亡例は寿命死しかない。病死もなく討ち死にもなく、自殺もなく。本当にこのご主人様は恵まれている。
「……何を貴様らはやっているんだ」
「うわっ!? エル様!?」
そうやってご主人様の馬鹿みたいな台詞と、残念ながら正論を力強く叫んでいるが圧倒的力量差にひねりつぶされてしまっているラインハルトと言う、革命を起こしても圧倒的力量差に破れてしまうと言う様な、現実の非情さを縮小化したようなものを、乾いた笑みを浮かべながら見ていると、背後から抱き着かれた。
その人はエル様でした。
……エル様と言う方はご主人様と一緒に私を作った方でいつも神出鬼没です。いつの間にか消えていたり、そしたらまた現れたりと、良く分からない人です。しかもこの人は転生しているようにも思えますが、容姿が一切変わっていないので多分転生していないのです。
それに多分この世界唯一この理不尽極まりないご主人様に勝てうる人です。
「あ、エルちゃん! 聞いてよ! こいつ頭おかしいこと言ってんだよ! 「弟子なのにまともなこと教えてねぇじゃん!」とか言ってんだよ? いかれてるでしょ?」
しかし、どうやらご主人様はいまだに私や、突如現れたエル様の事を味方側だと思っているらしいが、エル様は完全に溜息を吐いていた。
そして一言私に向かって「人間と言う物の師弟関係はこれが正常なのか?」と言う風に言った。……エル様はまあまあ真面ですが、非常に非常識な方です。ご主人様は論外ですがね。
「違いますね。あそこの男の人が正当な事を言っています」
「だろうな。あいつがする事等目に見えておるわ、あ奴ほどの阿呆は存在しないだろう」
でも、常識はずれですが、多分この中だとラインハルトとタメを張れる位まともな性格をしており、困った時に魔法をぶっ放したりはしません。威圧とかはしてきますがね。
「止めろ今すぐに、その人間は貴様の様に転生できるわけではないのだぞ」
その言葉をエル様がぽつりとつぶやくと、流石のご主人様も人殺しをしたい訳ではないのでぴたりと止まり、そしてそれと同時に「むぅ、なんでエルもお何時に味方するの」と言う風にぼやいていましたが、そのうちエル様の眼光に負けて頬を膨らませながら黙り込んでしまいました。
「……そう黙り込むな。お前はいつになったら精神的に大人になるのだ」
「永遠のじゅうご――はいっ、何でもありません」
一瞬だけ、すさまじい眼光を放っていたエル様に対し真っ向から冗談を言い王としていたご主人様でしたが、私に後ろから抱き着いているエル様の眼光が私にも察せるくらいとてつもなくなっている様で、あのご主人様も言う事をやめていました。や。やっぱりエル様は最強ですね。
……エル様が「マリネの教育に問題が出るからやめろ」と言う事を言っていましたが、別に間違いではないのですが……エル様もエル様で大概だと思うのです。




