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in the dark  作者: ニヒケソイ
6/10

闇に蠢く人の陰謀 その6

「虎撃!」


姉が放つ掌底は衝撃波を伴い50メートル近くまで射程がある。

『虎撃』は、四方八方からそれを連発して相手の動きを止めながらダメージを与える技だが、歩みを止めつつも微笑んだままの凛奈には効いている様子が見えない。


だが、問題ないだろう。『虎撃』の本当の狙いは本気をだすための準備運動をすることだ。


それを察して涼夜は少し距離を開ける。たったの100メートル離れた程度では姉の技に巻き込まれてしまうためだ。


そして、その後すぐに、なんとか目で追えていた姉の姿が完璧に消える。

余裕を持っていた凛奈も一瞬目を見張り、警戒するが、もう遅い。

彼女は突如横合いから加えられた衝撃により、たたらを踏むことになった。


「ッ!速いですわね!」


初撃を凌げなかった時点で彼女の敗北は決定した。

初撃こそがこの技唯一の弱点だ。何故なら、そこではカウンターを合わせられた場合躱すことが出来ないから、しかし、二撃目以降は相手の動き見てから攻撃の軌道を変えられる。

つまり、姉より速く動けでもしない限りは捕らえられない。


そして、俺の経験則上、いかに『神化』していようと、三つの扉を開けた姉には追いつけない。


「そこ!」


驚異的な身体能力をもって姉の姿を捉えたのか、凛奈が蹴りを放つが、姉に当たった気配は無い。


躱されたことに驚愕する暇もなく、凛奈の顎が跳ねあげられる。


そして、そこから姉の一方的な攻撃が始まった。

縦横無尽に迫る影に反応すらできずに凛奈の体が棒立ちになる。


「相変わらずとんでもねえな.......だが、そろそろ時間が.....」

「後、17秒よ」

「へ?」


いつのまにか姉が涼夜の隣でクラウチングスタートの構えをとっていた。

驚異的な速さだ、と驚愕したのも束の間彼女が言ってきた。


「私じゃあれは仕留めきれないから、とりあえず逃げるための時間を稼ぐ」

「やっぱりか.....ん、わかった」


『神化』の最大の利点は耐久力と自己治癒能力の高さにある。

千切れた腕くらいならば、即座にくっつく程の治癒能力があっては流石の姉も拳打のみでは倒しきれないと判断したのだろう。


「『龍牙』」


姉が呟くと同時にその姿を眩ませる。

瞬間、ドンッという車がぶつかったのかと思うほどの音と同時に凛奈が空高く吹き飛ばされた。

同時に肩が外れるかと思うほどの衝撃が右肩に襲いかかる。


「速く逃げるよ!」


姉が俺の腕を掴んで引っ張ったらしい、そう認識してから10秒ほど移動すると、急にスピードが落ちる。

見てみれば、姉が膝に手をつき肩で息をしていた。


「ごめ......後よろしく」

「おっけー」


涼夜は姉をお姫様抱っこで持ち上げて、家まで走る。

今回の件で自分の認識の甘さを再確認した。

どうやら、自分の拘りはそろそろ捨てるべきらしい。家族を守るためにもーーー






「ただいまー」


家に着く。

腕の中の姉は極度の疲労で眠っている。首を垂らすと首を痛めてしまうため、少し気を使った持ち方をしたから少し腕が疲れた。


靴を脱いで玄関に上がると奥の方から銀色の髪を揺らしながらカナンが走ってきた。


「おかえり、ってお姉ちゃんどうかしたの?」

「うん?寝てるだけだよ、ほら怪我とか無いだろ?」

「お姉ちゃん、意外とお茶目なところあるねー」

「そうだな」


姉の名誉の為に何か言っとくべきかと思うが、上手い言い訳を思いつかないので、そのまま流す。

廊下を歩き、リビングの方へ行こうとしたらカナンが袖を引っ張ってくる。


「なんか今ね、やな人が来てるからリビングはダメなの」

「やな人?」

「うん」


彼女の言うことが気になり、こっそりとリビングをのぞいて見ることにする。

少しの隙間から見えるのは完璧な作り笑顔で話す春香と、やたらと楽しそうに話すメガネをかけた金髪の優男の姿であった。


「あれって、春香のボディーガード連中のトップだよな.....何してんだ?」

「大方母さん狙いでしょうよ」

「て、姉貴、起きてたのか。ん?春香さん狙い?......ああ、そういうことね。無駄なことを」


春香は20代前半で未婚の女性だ。本来ならまだ結婚を焦る時期では無いのだが、彼女の立場上、彼女の遺伝子を持った子孫が残らず、彼女が、死んでしまった場合、日本の頭がいなくなることになり、まずい。

よって国の方からも結婚し、子供を残すよう圧力をかけられているそうだが本人曰く、「あなた方が紹介した中に好きな人はいません。実は私、好きな人いるんです。今努力してるので待ってください」だそうだ。


しかし、その見た目の麗しさから幾度となく婚約の誘い、お付き合いの申し込みなどが大量に来ている。恐らく今回の彼も同じような手合いだろう。


「母さんの子供は私達なのに......」

「血の繋がったが抜けてるだろ、そういうことだよ」


涼夜達は家族ではあるが彼女の血を引いているわけではない。

今の日本に求められるのは血筋なのだ。


「っと、そろそろ話も終わりそうだから、逃げようぜ」


二人が席を立ち上がったのを見て、涼夜達も扉から離れる。

別に問題は無いだろうが、そもそも涼夜達側があの男とは会いたくない事情もある。


とりあえず姉を休ませる為に二階の部屋へと行くことにした。


「姉貴の部屋、入ってもいいか?」

「.......駄目、涼夜の部屋でいい」

「さいですか」

「私、自分の部屋行ってるね〜。ご飯になったら呼んでー」

「わかった、多分今日は俺が作ることになりそうだからなんか食べたいものあるか?冷蔵庫ん中、沢山物あったから多分大体作れるが」

「じゃあ、オムライスにしてー」

「よし。任せとけ」


走って自分の部屋へと行ってしまったカナンの後ろ姿を見送ってから自分の部屋へと入ろうとするが、両手が塞がっていることに気づく。


「自分で立てる?ちょっとドア開けたいんだけど」

「無理、指一本も動かせそうに無い」

「いや、ドアが.......」

「ほい」


ガチャリとドアが開けられる。

見てみれば、腕の中の姉がドアを開ける為に腕を伸ばしていた。


「いや、姉貴、絶対動けるでしょ!」

「間違った、指一本じゃない、足が動かない」

「ハイハイそれでいいですよ」


電気のついていない自分の部屋へ入る。

趣味という訳ではないが習わせられた中で一番得意であったピアノと個人的に好きなヴァイオリン、それと楽器の手入れ用の道具以外はベッドと机、エアコンしかない部屋だ。

まあ、俺の年くらいの男子の部屋としては殺風景、枯れているといってもいい部屋だろう。


夏場の為、薄いブランケットと、毛布しか置いていないベッドの上へと姉を下ろす。


「涼夜、最近寝てない?」

「げ、なんでバレたんだ?掃除とかはしてんだが」

「涼夜の匂いがしない」

「え、俺臭う?」

「ううん、涼夜っていつもアロマ?みたいないい香りがするよ。でも、枕から洗剤の匂いしかしないから」

「そっか......」


確かにここ最近ベッドでは寝てない。しかし、昨日は確実に姉のせいなのだが、流石にそれを今口にするほど、野暮ではなかった。


「ねえ、あれやって?」

「あれ?」

「マッサージ」

「え.......」
















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