闇に蠢く人の陰謀 その10
学校が終わり、未だ昼の残暑が残る道を歩く。
隣の姉は日傘をさし、首元を煽っている。
「あっつ.......」
「文句言うなよ.....ってまあ、姉貴は文句言わなきゃやってらんないだろうけど」
姉は暑さ、というか日光が苦手だ。
苦手、というよりも身体的に受け付けないと言った方が正しい。具体的には直射日光に長時間晒されると倒れる。
二人で歩いているとまるで先日のリピートを見ているかのようにあの二人の姿があった。
「ご機嫌よう、お二方」
「今回は待っていたんだけどね」
「あー、やっぱいるよな」
学校はやはり狙われている時に行くもんじゃないなと、心の中で舌打ちをする。
「ねえ、そこのお姉さん。名前は?」
「アリサ......」
「アリサ、この前はやられたけど、今回は私も本気でやってやる。もう一度勝負だ」
「ネイラ、早々にケリをつけなさい。私が涼夜さんを殺してしまう前に、ね」
二人の化け物がゆっくりと距離を詰めてくる。
しかし、涼夜は不敵に笑うと一歩前に出た。
「姉貴が出るまでもねえ.........俺一人で十分だ。二人いっぺんにかかってきな」
「面白いことを仰いますのね」
「私一人にも勝てなかった奴が何を言っている!」
ネイラの小さな身体が弾丸の如く突っ込んでくる。
昨日までの涼夜であれば、認識は出来ても体がついていかなかったその一撃を止める。
トラックがぶつかってきたのではないかというほどの衝撃と共に地面が放射状に砕け散った。
だが、涼夜にはダメージが見られない。
「なっ!」
驚愕し、目を見開くネイラ。彼女は涼夜が鋭い蹴りを飛ばすと、なすすべも無く吹き飛ばされた。
ネイラほどではないが驚愕の表情をした凛奈が呟く。
「驚きましたわね、まさか貴方も『神化』を」
「前回までは事情があって使えなかったんだがな、昨日までの俺と同一視はしないほうが身のためだぜ」
嘯く涼夜の右目は黒く染まり闇を纏っている。凛奈と起き上がったネイラは戦闘態勢を整えた。
そして、戦闘の口火を切ったのは涼夜であった。
真っ直ぐ突っ込み、フェイントを放つとほぼ同時に背後へと回り込む、その一連の動作を超人的な速度で行う。
しかし、凛奈もまた只人では無い。
後頭部に放たれた手刀を紙一重で躱し、その手首を掴む。
一本背負いの動作に入るフリを見せて、鳩尾に肘を叩き込むが、涼夜は掴まれていない方の掌でその一撃を止めた。
「やりますわね」
「あんたもな」
お互い均衡状態に入る。
涼夜も肘を離さず、凛奈も手首を離さない。
しかし、それも長くは続かず、ネイラが涼夜へと蹴りを放つと同時に涼夜が掴まれた腕を回転させながら戻し、離脱した。
「やるねえあんたら」
一度距離を開け、気を抜いた涼夜が賞賛の言葉を口にした瞬間、ネイラが腕を虚空に向けて振った。
同時に背筋に悪寒が走り、涼夜がその場を飛び退くと、同時に頰に暖かい液体が触れたのを感じる。
「なっ....」
思わず驚愕に目を見開いた。それもそのはず、液体が飛んできた方を向いてみれば、先程まで身体の一部であった右手が無くなっていたのだからーーーーー
「なるほどね、それがその子の固有能力か」
「《空間切断》、私が見えている範囲であれば、何処でも斬り裂ける。それが私の能力よ」
「見えている範囲が射程距離の斬撃、しかも防御不可能。いい能力だな」
「それはどうも!」
再び腕が振り抜かれる。だが、今度は綺麗に躱してみせた。
しかし、三度振り抜かれた攻撃を避けきれずに、肘から先が無くなっていた腕を肩先から失うことになった。
「降参する?」
ネイラが問いかけるが、完璧に無視して涼夜は全神経を集中。
「はあああああああ!!!!」
分断された二の腕と肘から先の切断部から闇色のイバラのような物が飛び出し、涼夜の腕へと繋がるとそのまま切断部同士が癒着する。
涼夜は再び繋がった右手を軽く動かしてから不敵に笑う。
「なかなかやるじゃん。でも、弱点二つ見つけたぜ」
「強がりを......」
ネイラが言葉を言い切る前に涼夜は全力で走り出した。
「っ!!甘い!」
「まず一つ目」
その手が振り抜かれるより早く、涼夜の目の前に涼夜の体から放たれた闇色の帳が膜のように張られ、その帳が切り裂かれるが中の涼夜には傷が無い。
「くっ!」
「間に何かがあると、背後の物は切り裂けない」
涼夜の蹴りでその小さな体が宙に浮く。
それでもなお、その腕を振るが涼夜はそれを躱し、ネイラの背後に回り込む。
「弱点二つ目、腕の振りがデカすぎ」
「っ!!」
涼夜の右腕が振り抜かれようとした瞬間、横合いから放たれた闇のオーラにより、涼夜が吹き飛ばされる。
「油断しましたわね、ネイラ」
「ごめん、凛奈」
オーラの主、凛奈が薄く笑う。
オーラにより吹き飛ばされ、道路に倒れこんでいた涼夜がムクリと起き上がるが、その動作は緩慢で、ダメージを隠しきれていない。
「私が『神化』した際に得た能力を教えていませんでしたわね。」
「.........」
「不思議でしょう?大したダメージは食らっていないはずなのに体はもう悲鳴を上げ始める。」
「......《侵食》ってところか?」
「いえいえ、そんな物ではありません、私の能力は《侵朽》、触れたものを侵し、朽ち果てさせる能力ですわ」
「ちっ、めんどくせえ能力だな」
軽く舌打ちしてから、全身に闇のオーラを巡らせ、へばりつくように残る凛奈のオーラを吹き飛ばす。
すると、皮膚が剥がれ筋肉が剥き出しになったボロボロの腕が露わになり、即座に再生が始まった。
「さて、じゃあお二人の能力も分かったことだし、今度は俺の能力を見せてやる」
涼夜が全快しつつある腕を向けて、能力を発動しようとした瞬間、涼夜の腕が弾け飛んだ。




