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in the dark  作者: ニヒケソイ
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闇に蠢く人の陰謀 その1

少年は崩れた道路の真ん中で立ち尽くし、道行く人を見ている。

家族を失った者、住む場所を失った者、莫大な富の全てを失った者、ここに行き交う人間の全ては等しくなにかを失っていた。


ぼんやりと一人の少年に焦点を合わせると、両親とはぐれたのだろうか、傷だらけの顔をくしゃくしゃに歪めて泣いている。


2年ほど前の自分もあんなだったのかと嫌気が刺して、その光景を見続けることはできなかった。


形見なのか高級そうな指輪を大事そうに持って倒れている少女は生きているのかどうかすらわからない。ただ、この状況下で幸せそうに笑っているのならマシだとは思った。


まだ元気がある集団はプラカードを持って叫んでいる。ここからではよく見えないが、書いてあるのは日本政府への文句に違いなかった。


ここにいる人は皆、被害者だ。

彼らは皆、全国各地から逃げるように首都東京へとやってきた。しかし、東京にはその全てを受け入れることは出来ず、被害者達は雨風を凌ぐ為に急遽作られた簡易テントに身を寄せ合うしかなかった。


フィクションのような地獄が少年の現実となっている。


ここには人としての尊厳と命を秤にかけて、命を選んだ人間だけが集まっていた。尊厳を選んだ者の末路は言うまでもない。


遠くで爆音が聞こえた。

恐らく今日も被害は増えるだろう。人は死ぬだろう。そして、人はゆっくりと絶望に心を腐らせていくのだ。

まだ、8歳の少年には自分がどうすればいいのかもわからない。


二ヶ月前に唐突に全世界に攻めてきた謎の生命体、仮称『エルドナード』、それらと人類の戦いは戦闘と呼べるものでは無かった。

高い耐久力に、戦車をひねり潰せるほどのパワー。

人類は、その人口を三分の一になるまで消耗することとなった。


北海道で起こった日本初の『エルドナード』の侵攻時、北海道で暮らしていた少年は訳も分からぬまま両親に避難用の電車に乗せられて、自宅のある東京へと送られた。

母親は、少年を強く抱きしめてから『待っててね』と言ってから、父親と共に歩いて行った。


しかし、待てど待てど両親が帰ってくることはなく、北海道が制圧されたと言うニュースの3日後に死体の無い葬儀が行われる旨が少年へと伝えられた。


両親が死んだ。


この事実を受け入れるのに数日をかけて、その間少年は、一言も発する事は無かった。


そして、その後『エルドナード』の侵攻は東京にまで至り、現在に至る。


少年には誰もいなかった。家族も知り合いも友達も、なにも残ってはいなかった。

このまま惨めに生き残るくらいならここで死んで両親に会いに行った方がいいと考えた。


時折流れるノイズ混じりのニュースでは世界の9割が既に『エルドナード』によって潰されたらしい。

恐らく、今ここで死んだってほんの少し、死ぬのを早くしただけにしかならないだろう。


そう考えると、不思議と死ぬことに対する恐怖が無くなっていくのがわかる。


少年が割れたガラスの破片を手に取り、自分の喉へと向けた瞬間、隣のビルが倒壊した。

道端の人間が全員崩れたビルの砂煙へと意識を向ける。


危険を察した人間が即座に軍に事態を知らせた。


砂けむりに少年が目を凝らすと、そこから4本足に巨大な翼を携えた漆黒の化け物が砂煙を引き裂いてこの世のものとは思えぬ雄叫びをあげる。

瞬間、その場の全ての人間が狂乱の渦へと巻き込まれた。

倒れた人を踏み越え、少しでも生にしがみつくべく、走り出す。


少年は震える足に力を込めて、立ち上がり、化け物へと歩き始めた。


そんな少年を気にするものは誰もいない。


ここで死ぬ気だったのであれば、両親を殺した化け物へと向かって行くのもいい。

自暴自棄な気持ちで少年が駆け出そうとした瞬間、遥か彼方、夕日が沈む山々の稜線から一機の戦闘機が飛び出してきた。


戦闘機は鉄の腹から、1発のミサイルを切り離し、発射。

切り離されたミサイルはロケットエンジンを点火し、猛烈な勢いで化け物へとぶつかる。突如、盛大な爆発が起こった。


激しい熱と衝撃波に体を打たれながらも、少年はなんとか目を『エルドナード』へと向ける。


すると、敵が足の半分と片手を失いながらも狂ったように暴れまわっている姿が見えた。


「これが.....エル....ード.....」


掠れた声でその名前を呼ぶ。

少年が『エルドナード』の驚異の生命力に驚いていた時、空から幾千もの光が走った。

その光に当てられた『エルドナード』は即座に光の粒子となり消えて行く。

そして、光が途絶えると輝く翼を携えた何かが崩れかけたビルの上へと立ち、静かに、しかし響き渡る声で言った。


「人類よ、剣を取りなさい。そのための準備は整いました」



怯えた人間達が立ち止まり、その言葉を聞いていた。

そして、立ち尽くす少年の前には一人の女性がが立っている。

その女性は美しかった。

白磁の髪にスラリと伸びた手足、全身を包む白い衣装がその存在感をさらに神々しく見せる。

そして、美しい女性は少年へと声をかけた。


「貴方は一人ですか?」


少年は無言で頷く、質問の意図がわからなかったが、自分がありとあらゆる意味で一人なのは純然たる事実だからだ。

すると、彼女は天使のように微笑んでから、少年を慈しむように言った。


「では、私と共に生きてみるのはどうですか?」


少年は少し考えてから、遠慮気味に首を縦に振った。








ある夏の日、うだるような暑さの中、顔を汗に濡らした強面のオッサンがその強面を目一杯近づけて、一人の少年へと詰め寄っていた。


「おいおい、俺たち『執行人エグゼ』の仕事は遊びじゃねえんだぞ?冷やかしなら帰んな」


詰め寄られた少年は視線を合わせないようにしながら、めんどくさそうに説明をする。


「とは言っても、冷やかしじゃねえよ、ほら、ライセンス」


鈍い銀色に輝くそのプレートを見せられれば、男も黙るしかない。

そのプレートは少年が遊びではなく、本当に仕事としてやっていることを示す証なのだ。


男はため息を吐くと、軽く手を差し出して、自己紹介を始めた。


「俺は序列10752位の相澤和樹だ、お前は?」


少年は汗まみれの手を握るのが嫌らしく、躊躇うが、その手をがっしりと男に掴まれ、げんなりしながらも、自己紹介を返す。


「序列30574位、岸浪涼夜、よろしく」


男、相澤は暑苦しい顔をニッコリと笑顔の形にしながら、「頼むぜ、涼夜」などと、親しげに言ってくる。

しかし、本題は忘れてないようで、しっかりと話を本筋に戻した。


「さて、仕事の話をしようか」


言ってチラリと見たのは今回の仕事現場、白い壁の所々の塗装が剥げた安っぽそうなアパートだ。外れかけているが、『アパートヤスダ』などという看板も見える。


「依頼内容は?」

「なにやら、無人のはずの部屋から声が聞こえるんだと、気のせいならいいが、不法侵入者がいたらそいつを逮捕。もし、『エルドナード』絡みだった場合のために俺たちが呼ばれたってわけだ。」

「うわー、それ『エルドナード』100%関係ないじゃないっすか」

「仕方ないだろ、序列5000くらいじゃねえとまともな依頼なんて回って来ねえよ。おら行くぞ」


8年前の『エルドナード侵攻』の折、自衛隊に多数の犠牲者を出した政府は苦肉の策として、『執行人エグゼ』と呼ばれる組織を設立した。

これはテストに合格さえすれば誰でも所属することができ、民間人から政府のお役人さんまで、だれからでも依頼を受けて金をもらうという一種の何でも屋だ。


「で、お前さんまだ学生だろ?どうしてこんなことしてんだ?アルバイトとかにしては危険すぎるだろ」

「俺は序列12位以内に入ってある人物に会わなきゃいけないんだ」


涼夜の言葉を聞くと、「でっけえ夢だな!はっはっは!」と、上体を振って笑う。現在30000位台の奴がこんなことを言ってるのだ。笑われるとしても仕方がない。

相澤は、一通り笑ってから、目尻のなみだをぬぐい、話の続きを促してくる。だが、涼夜としてもこれ以上話す気はない。

だから、適当に流して終わろうかと思った瞬間、腹の底に響くかのような重音が地響きのように伝わってくる。


「上の階、事件場所からじゃねえか?これ?」

「無駄話してる場合じゃなかったってことか!」


二人で走り出す。エレベーターを待つのももどかしく、二段飛ばしで階段を登り、音の発生場所であろう部屋の扉を開けようとする。しかし、帰ってくるのは硬い抵抗のみだった。


「なん......で鍵かかってんだ!」


相澤は半ギレでドアノブを回すが、扉は少し動くだけで開かない。

そんな様子を後ろから見てた涼夜に対して、「何か手伝え!マスターキー借りてきてくれ!」と、相澤が叫んだ瞬間、涼夜の構えて見るものを見て、相澤は言葉を失ってしまう。

そこにいたのは、あるものを構えた涼夜の姿であった。


「どいて!オッサン!」

「馬鹿!お前それ拳銃じゃねえか!ドラマの見過ぎだ!鍵壊したところで最近のは開かねえんだよ!」

「ちげえよ!ドアの構造くらい把握してるわ!いいからどけって、時間ねえんだろ?」


不承不承相澤がドアノブから手を離す。

そして、入れ替わる様に涼夜はドアノブの近くに行くと拳銃を鍵穴ではなく、ドアの接合部へと撃ち込む。

そして、二箇所の接合部に4発ずつ撃ち込んでから、ドアから離れる。

そして、武術の様な構えを取ると、コンクリートの床なのに少し離れた位置にいた相澤にすら振動が伝わるほど強く左足を踏み込み、腰の回転、腕の振り、全身を、使って渾身の蹴りを放つ。


「はあああっっ!!!」


気合い一閃、何かが爆発した様な轟音と共にドアが外れた。

そして、残心をとるかの様に構えを戻して息を吐く。


極練流拳闘術、竜線華


全身の動きを連動させ、力の全てを脚に集約させる。

人間に当てれば、一撃で殺すことすら可能な技だ。


隣では相澤があんぐりと口を開けて驚いている。


「さ、入りますよ」

「お、おう......」


相澤はなんでこいつが俺より序列下なんだと、ブツブツ言いながらもついてくる。

そして中にいたのは一匹の化け物だった。


歪なシルエットだが、2本脚で立ち、カマキリの様な腕を使って人を解剖している。さらに背中には悪魔の様な羽を生やし、口元はなんとなくだが、嗤っている様にすら見えた。


化け物が弄る死体は年数が経ったものとは異なり、先程まで生きていたかの様だ。

涼夜は依頼のダブルブッキングがあったのかと、頭の片隅で状況を把握する。恐らく先程の物音はこいつが化け物と戦ったせいだろう。


しかし、となるとなぜ鍵がかかっていたのかが気になる。

涼夜の疑問は次の瞬間、すぐに解決された。


「ヲ、マエは、ダれ、ダ?」

「ッッッ!?まさか、擬態型か!」


通常、『エルドナード』に人の言語は発せない。『エルドナード』の死体を解剖して見た結果、顎の形から人の言葉を話せないことがわかっている。

しかし、例外として擬態型と名付けられた奴らは人を解剖してその器官を模倣することにより、人の言葉を話せる。さらにそいつらは人の様な行動を取るということが、わかっている。


つまり、こいつは死体を解剖してから、人の習性を得て、鍵を掛けたのだろう。まあ、それを、鍵をかけるという意味を理解して行っていたのかどうかはわからないが。


「ちっ、マジで『エルドナード』が出やがるとはな、やるぞ!」


相澤は、自分の腰につけた拳銃を引き抜き発砲する。

放たれた弾丸は銀色に輝いていた。


『エルドナード』に通常の武装は効果が薄い。8年前の『エルドナード侵攻』の時、『エルドナード』を消し去った光と共に現れた存在、『天使』により加護を受けた武器でなければ、奴らに有効打を与えるものにはならないのだ。


弾丸は果たして、『エルドナード』に当たると、奴は苦しんでのたうちまわった。

人の声を出して叫び回るため、こちらの気分も悪くなってくる。

そこから更に5発の弾丸を撃ち込んだところで、銃の底がスライドして、弾切れを相澤に伝える。

彼がリロードした瞬間、涼夜は走り込み、木製の床を踏みしめる。

全身の力を集約して、放つは先程ドアを蹴破った技、竜線華。


彼の靴もまた『天使』の加護を受けた特別性であるため、蹴りが直撃すると、そいつは耳障りな声を上げて壁へと叩きつけられた。

人間は、強い衝撃を与えられた場合、決して声なんて出せない。だが、それでも平気で叫び声をあげる『エルドナード』は根本的に人間とは違うのだと、改めて思い知らされる。


そこにリロードが終わった相澤が追撃で銃を撃ちこみ、擬態型はついにその命を終わらせることとなった。

動かなくなるのが早いか、死体は即座に黒い粒子へと変わり、空気へと霧散する。

奴らは死後すぐに特殊な素材で加工しないと死体が消えてしまう。

あたかもこの世界にはいらないという風に。


『エルドナード』は殺した後に黒いかけらを残す。これを提出することによって涼夜達は国から報酬を受け取るのだ。

相澤が床に落ちたカケラを拾いに行こうとした瞬間、背後から彼の肩が撃ち抜かれた。


「ぐっ」

「誰だ!」


涼夜が振り返るとそこにいたのはゴスロリ調の服を着た人形の様な少女。

彼女は硝煙を上げる拳銃を軽く弄んでから、腰のホルダーに収めると、スカートを摘んで軽く持ち上げて淑女の様に自己紹介を始めた。


「ご機嫌ようお二方、私は黒子 凛奈、気安く、『りんな』とでもお呼びくださいな」

「突然、人の肩拳銃で撃ちやがって!なんだてめえは!」

「ですから、凛奈と名乗ってるじゃないですか」


どうにも会話が噛み合っていない。そんな状況で、凛奈と名乗る少女はこっちを向くとクスリと笑う。


「少し貴方に興味がありますの。私と同じ匂いを感じますわ」

「じゃあ、肩を撃ち抜いただけで、相澤のオッサンを殺さなかったのは」

「私の最大限の譲歩ですわ。本当は殺して派手に参上したかったんですけどね」


涼夜の頬を汗が伝う。隣で相澤が文句らしきものを言っているが何を言ってるかがわからない。


今まで出会った中でも1.2を争うレベルのクレイジーさだ。

この場を切り抜ける方法を頭の中で模索するが、色よい返事は返ってこない。

涼夜がせめて相澤だけでも逃がそうと、口を開く。


「このおっさんは逃してくれんのか?」

「まあ、少し気に入りませんが、貴方が踊ってくれるというならいいでしょう」

「だってよ、オッサン」

「てめえの逆ナンに俺を巻き込みやがって......死ぬんじゃねえぞ」

「.......努力するさ」


凛奈の横を通って相澤が走って逃げていく、そして、オッサンが部屋から出た瞬間、涼夜は一陣の風が如く、凛奈の懐へと潜り込み、叫んだ。


「燕飛!」

「っ!」


極練流拳闘術、燕飛。

全体重を乗せて放つ肘打ちだ、まともに食らえば、内臓がひっくり返るほどの一撃だが、涼夜の肘は、凛奈の掌により止められている。


「少しマナーが悪いのでは無くて?」

「俺とやるなら俺だけを見とけよ、おっさんは関係ないだろ」

「バレてましたの」


ひらり、スカートを翻しながら凛奈が高速の蹴りを放つ。

涼夜は避けようとするが、翻ったスカートのせいで視界を遮られて叶わない。


そして、凶悪な威力の蹴りを側頭部にモロに食らって、壁へと叩きつけられた。

笑いながら、凛奈が涼夜へと話しかけてくる。


「今、スカートの中覗きましたわね?そんな変態だから避けられる蹴りを避け損なうんですよ」

「るっせーな......」


涼夜は、蹴りのダメージなど感じさせない動きでぬるりと起き上がる。

蹴りを食らった感じで言えば、自分と彼女の身体能力は恐らく自分が勝っている。

それが涼夜の正直な感想だ。

そして、それならば対処は容易い。


ゆっくりと、左足を前にだし、左手を自分の肩の高さで構えて、右手は顎を守る位置に置く。


攻めにも受けにも即座に転じれる一番効率的な構え方だ。

敵の出方を伺おうと、すり足で距離を詰めた瞬間、凛奈が先に動いた。


「せい!」


先程よりも数段早い蹴り、それを危なげなしに左手で防ぎ、カウンターで右足の蹴りを放つ。

彼女はその細腕のどこにそんな力があるのか、蹴りを左手で受け止めた。

お互いの吐息が混ざるほどに近いクロスレンジに入る。

涼夜は即座に彼女の服の胸元に着いたヒラヒラを掴み、ついでに相手の右腕を掴む。

そのまま、右足で相手の左足を払い、体勢を崩すと、先程自分が叩きつけられた壁へと相手を叩きつけて、位置を入れ替える。

これで、自分がドア側に移った。

後は逃げるだけ、そんなことを考えていたら、ビリリッという、何か布のようなものが裂けた音が聞こえる。


背筋に悪寒が走り、自分の手のひらを開いてみれば、白と黒が入り混じる布があった。


「情熱的な夜にはまだ早いのでは無くて?」

「て、おい!胸隠せ!胸!」

「貴方が破ったくせに面白いことを言いますのね」


凛奈の衣服の胸元の布を投げた時の勢いで破ってしまったらしく、彼女は今、着痩せしてわかりづらかった豊満な胸を惜しげもなく晒す状態となってしまっていた。

しかも、彼女は隠す気が無いというのが、更に涼夜の純情な部分を煽る。


「ちっ、悪かったな!でも、ダンス会はこれで終わりだ!俺は逃げるぜ!」

「あら?」


布を投げ捨てて、部屋の外へと一目散に走る。

彼女の目的は不明だったが、涼夜としてはこれ以上関わりたくは無い。

しかし部屋から出る寸前、小さな影が入り口に立っていることに気づく。

近くの部屋の子供が物音で来てしまったのだろうか、気になるが今は気にかけてはやれない。

その頭上を飛び越えて、部屋を出ようとした瞬間、腹部に強烈な衝撃が加えられた。


「ガッ.....!!!」


再び部屋の中へと戻される。

部屋の中へと突っ込んだ際に床で何度かバウンドしたせいで全身が痛い。

衝撃の理由が分からず、玄関の方を見てみれば、小さな人影が立っているのが見える。


「ねえ、凛奈?普通に逃げられかけてるけど?」

「予想以上に強かったのだから仕方ないじゃないですの」


会話してるのを聞き、衝撃と共に、信じられないという思いが涼夜の頭の中を駆け巡った。

上体を起こすのも辛く、倒れたまま凛奈に問いかける。


「その子は、『愛し子』なのか?」

「よくわかりますわね、詳しく説明してさしあげましょうか?」

「『天使』の加護を直接受けた子供、驚異的な身体能力とある特殊能力を持っている、だろ?」

「よくお分かりで」

「だが、『愛し子』に戦闘を強制させるのは法律的に許されていねえだろうが!」


『愛し子』は、圧倒的な強さを誇るがその精神はまだ子供だ。

倫理的な観念から、そんな子供たちに戦闘を行わせることは許されていない。

しかし、そんな涼夜の知識を嘲笑うかのように、少女はこちらに向き直って言った。


「私がやりたいからやってるのよ」

「なっ....」

「もういい?さっさと連れてこうよ」


少女は既に興味を失ったとばかりに、倒れこむ涼夜から視線を外し、凛奈へと向いて、質問する。


「んー、そうですわね、とりあえず拘束して連れて行きましょうか」

「ん、てか、いつまで胸出してんのさ」

「そこな殿方に情熱的に迫られてしまいまして」

「はあ、またそういうことを......ま、とりあえず拘束させてもらうね、お兄さん」


言い終わるが早いか、動けない涼夜の腕を後ろに回し、縄で縛りはじめた。


「く、くそ.....」


一体どうなるか分からないが、ロクでもない結末しか見えない。

いくら動かそうと思っても動かない体に怒りを覚えた瞬間、玄関の方から元気な声が聞こえてきた。


「あー!りょーや!見つけた!」

「な、カナン!?」

「誰?」

「誰ですの?」


そこにいたのはパーカーを羽織り、短パンから健康的な美しさを備えた足を伸ばした白髪の少女であった。










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