表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

望月vs中華鍋(魔人)

中華鍋を被せたような見た目をしたバケモノは、俺たちを見つけた瞬間凄い勢いで突進してきた。

顔面(?)は赤い玉が3つ配置されていて、口(?)からクワガタの角みたいな牙がでっかく生えている。中華鍋の取っ手の部分は、どうやら手のようだ。足というより下半身がなく、中華鍋の底の部分から青白い閃光が帯状に伸びている。

その奇っ怪と言うより滑稽な見た目をした中華鍋に、ものすごい視線を向ける望月。

「なんで魔人がここにいるの!?予想襲撃時刻までまだ時間あるのに!?」

どうやら予測していた事態となんか違ってきているらしい。

腕時計を見つめて叫ぶ望月を見て、なんとなく呑気にそんなことを思ってた俺。この事態にけっして驚いていないわけはないのだが、人間驚きすぎると逆にどうでもいいようなことを考えてしまうらしい。

そんな呑気なのか驚いてるのか曖昧な俺とは裏腹に、望月は緊張感のある声で独り言を呟いた。

「私1人でやるしかない!」

足を肩幅よりちょっと大きく拡げて望月は叫んだ。

「『空間魔法・弐式』! 」

どおぉぉ!

でっかい波みたいな音を立てて、俺の部屋はみるみるうちに砂漠に変わっていった。

「うわっ!? どうなってんだ!? ここどこだ!? 」

「空間魔法で一時的に創り出した別次元の空間です。周りに被害が出ないよう、ここの世界では空間魔法を行ってからしか私は戦えません」

微妙に説明不足だ。やっぱり分からん。

「あっ! この格好だと戦いにくいかなぁ」

そう言いながら自分の姿を見つめて、恥じらう様子もなく猫のコスプレを気にする望月。

「しょうがないか。『換装』! 」

望月がそう言うと、瞬きをするかしないかの短い時間に望月は服装をチェンジしていた。

が、ついさっき見たことあるようなそのセーラー服はうちの高校の制服じゃないか?まさかうちに転校でもする気か?

空間魔法とかいうやつで中華鍋と少し距離を置けた俺たちだが、またすぐ襲ってくるのでのんびりしていられるのも今のうちだと今さら感じた時に、中華鍋が襲ってきた。

デカい2本の牙をこっちに向けて俺の元へ来る。

「させるか! 『召喚』! 」

望月がそんなことを言ってると、いつの間にか望月の手に物騒な日本刀が収まっていた。大きさから見て小太刀といったところか。

こいつ剣術も使えるのか?

両足を縦に大きく開いて力を込めているようだ。アキレス腱を伸ばす準備体操でもしているのだろうか。

望月は相変わらず鋭い視線を中華鍋に送っている。

「『アクセルレイド・1』! 」

望月の足元から変な模様がかいてある赤い円が浮かび上がった。

魔法陣ってやつか?

バッ!

砂埃をあげまくって望月は飛び上がった。

目算およそ5メートルといったところか。走り幅跳びの選手になったらオリンピックだって夢じゃないな。

「やあぁぁぁ! 」

望月の繰り出す斬撃を中華鍋が牙で受け止め、もう一方の牙で攻撃を繰り出す。それを上手く刀で受ける。

目の前で行われている鍔迫り合いを要約するとこれの繰り返しだ。

刀1本で耐えるのもそろそろきつくなってきそうな望月の表情を見ると、実感のない不安にかられ始める。

何度も攻撃の軌道を変えつつ望月に猛攻しまくる中華鍋。それを素早く受け止め受け流しながら隙を伺う望月。

双方毎回違う攻撃を行いながら防御を行っている。

「くうっ! 」

望月が苦しそうな唸り声をあげる。

攻撃をくらったわけではないが、そろそろジリ貧になってきているようだ。

恐怖や不安で包まれていくが、やはり俺にはその実感がない。

突如望月が踏み込みなしで後ろに飛び退く。目算でおよそ8メートル。

どんな身体能力をしてるのだろうか。

「こうなったらっ!『アクセルレイド・2』!」

再び望月の足元から赤い魔法陣がうかびあがってくる。

望月のスピードが一気に増したように感じだ。

比喩とかではなく、目にも止まらぬスピードで望月の繰り出した斬撃が中華鍋を斬ったようだ。中華鍋にでっかい切り傷が出来たのを見て分かった。

「え!? 硬いっ! 」

手応えを感じてないのか、悔しそうに歯ぎしりする望月。

今度は足を踏み込んで力を入れているようだ。

「もう一回! 」

そう叫んで望月は消えた。比喩なんかじゃない。文字通り消えたのだ。

望月の姿を探して辺りをキョロキョロして見ようとした時、中華鍋の牙が2本ともスパッと切れた。そして目の前に望月が立っていた。

なにが起きたんだ?俺の動体視力が追いつかない間になにがあったんだ?

「下がってて。ここにいると危ないよ」

相変わらず口調には冷静で緊張感のただよう雰囲気がある。

しかしまあ、動くなとか下がれとかお前は結局俺にどうして欲しいんだ?

「いいから早く! 」

さっきまでのアホ面が発する言葉とは思えないようなことを言った望月の迫力に負け、俺はそそくさとその場から逃げることにした。

攻撃するための手段をなくした中華鍋は一体どうするつもりなのだろうか。

望月がトドメの1発を放とうとしているのか、小太刀みたいな刀を構えて再び文字通り消えた。

中華鍋は望月の動きが分かっているのか分からんが、凄まじいスピードこっちに向ってで直進してきた。

ビビりまくって腰を抜かす俺だったが、俺の目の前で中華鍋は動きを止めた。

そして中華鍋は二つに分かれていった。そのうちの1つがズルズルと地面に落ちた。

中華鍋は真っ二つに切れていたらしい。

「『我流・閃光奇襲斬り』」

中二病チックな技名を呟いて再び目の前に現れた望月は俺のほうを見て、

「ふぅーっ! やっと倒せた~っ! 」

リラックスした様子で気を抜き始める望月。

ふと中華鍋を見てみると、真っ二つに切られた中華鍋は真っ黒な煙をあげて消えていった。

「あっ! 『空間魔法・弐式』解除! 」

どおぉぉ!

再びでっかい波みたいな音を立てて砂漠が俺の部屋に変わっていった。

望月にさっきまでの冷静で緊張感のある顔つきはなくなり、元のアホ面に戻っていた。

なんてこった。こんなもん見せられたら信じるしかないだろ。

なにが起こったかほとんど頭の整理がおいついていないパニックに陥った俺を見て望月が俺にこう言ってきた。

「ね? これで信じてもらえますよね? マスターさん」

日本晴れの太陽のように明るく眩しい笑顔で俺に微笑みかける望月。

俺のあだ名を知ってるってことは、どうやら俺が拾ってきた可愛らしい子猫ちゃんもこいつの言う通り望月が魔法で変身した姿のようだ。西田との会話を聞いて俺のあだ名を覚えやがったな?

ってかこいつも俺のことをマスターって呼ぶのか。

「予測襲撃時刻よりも大幅に早く襲撃してきたことから考えると、おそらく魔人たちはいつどこで襲ってくるか分かりません。ここに住まわしてもらいますっ! 」

元気いっぱいの笑顔で俺と一緒に住むと言い出した望月。

俺だってさすがにちょっとどころかかなり動揺した。

こいつは普通にしていればけっこうな美人なのだ。おまけに童顔である。ヨーロッパ(とくにイタリアらへん)にいったら歩くたびにナンパにあいまくるに違いない。それくらいこいつは可愛いのだ。誇張とか一切なしだ。好意を抱いたわけでもない。というかこいつに好意なんか抱かないだろうし抱いてない。ここ重要だぞ。

「これからよろしくお願いしますねっ!マスターさんっ! 」

こいつは本当に俺の家に住みつくつもりらしい。

「なんで俺の家に住み込むんだ? 変な冗談はやめてくれ」

冷静に受け流すつもりだったが、

「冗談なんかじゃありません! 私はいつも大マジですよ?それにマスターさんとイヤらしいことをするつもりもないし、してきたら許さないです。とにかくっ! 私はこの家に住んでいつでもマスターさんの御守りになれるように頑張りますっ! 」

こうして始まった俺の2時間に及ぶ説得は無駄になり、

「わかったよ。住みたいんだったら好きにしろよ。もう」

という俺の言葉で終止符を打った。

「やったぁーっ! これからよろしくお願いしま~すっ! 」

「ところで一緒に住むんだったらその堅苦しい敬語は抜きにしないか? タメ口で話しかけてくれたほうが俺は気が楽になる。お前も変に気を使わないでもいいだろ」

「へ? だったら今日からよろしくねっ!マスターっ! 」

何のためらいもなく敬語からタメ口に変えて何度も聞いた挨拶の余韻に浸りながら思った。

これから毎日隣のババアにお詫びの品を届けなきゃならんようになるかもな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ