episode02
言われるがまま北東の方向へ走り始めて5分ほど経った時、おそらくシャルの言っていたものであろう大きな杉が見えてくる。
「勇者様、あれでございます。」
やっぱりか。なんだかあの木だけ周囲の木と放つオーラっつーか、雰囲気が違うもんな。
大きな杉の元へ到着し根元を観察すると、なにやら大きな穴を発見した。
ここを通ると異世界のシャルたちの国へ行けるんだな。
俺に何ができるかはわからないが、必ず助けてやるから待ってろよ。
「ふぅ。よし、行こう。」
「はい、では参りましょう。
あ、勇者様。この空間を通るときは必ず私と手を繋いでおいてください。
そうでないと勇者様は他の異世界へ飛ばされてしまいます。」
俺だけほかに飛ばされるとか怖すぎかよ。シャルの手めっちゃ握っておこう。
あっ猫だから毛がもふもふもふ・・・(幸)
「あの勇者様・・・そんなに触られると・・・」
おっと俺としたことが。
べ、べつに猫とか好きじゃねえし。
シャルの手を軽く握り直す。
「ではいきます、多少息苦しさなど感じたりすることがあるかもしれませんが短時間なのでご了承ください。」
目をつぶってから1分ほど経っただろうか。
目を開けるとそこは、先ほどまで見ていた景色とは360°違っていた。
ここが精霊王国・・・か。
俺の目に飛び込んできたのは、想像していたものとは到底かけ離れた廃れきった王国だった。
驚いた、ここまで荒れているとは。
「我が王国はこのような有様でございます。
今いる国民たちはまだ襲われていない地域へ避難させております。
ご案内しますので私についてきてください。」
シャルに案内された場所は、先ほどより気持ちましにはなっていたがそれでも国民が住むには到底困難ではないのかと思われる場所であった。
こんなところに女子供でさえ寝泊りしているのか。
シャルが言うにはここが今ある住める地域の中では最も安全な場所なのだそうだ。
であれば、廃れていても安全に越したことはないからしょうがないか・・・。
「実際に目で見て大体の状況は把握できた。
まず、これほどまでに国が荒廃してしまった原因を話してもらえるか?」
「私がお話ししましょう。」
奥から国王様と皆から呼ばれる犬の姿のひげもじゃのおじいさんがでてきた。
おお、いかにも国王様って感じだな。
「この国が荒れ始めたのは3か月前のこと。
鬼霊軍の攻撃先が精霊王国になり、この国への侵入が始まった。
初めは国民に手を出さず脅す程度だったため甘く見ていたのがいけなかった。
わしらの態度に腹を立てたのか、鬼霊軍の攻撃は回数を重ねるごとにひどくなり現在は女子供さえなんの容赦もなく殺されるようになってしまった。
国は住む場所もなくなるほどに攻撃され、わずか3か月でここまで荒れてしまった」
鬼霊軍・・・血も涙もないやつらだな、許せない。
大体のことはわかった。
鬼霊軍というのはやはり名前の通り、鬼の霊たちが集まって形成されている軍なのだろうか。
霊を相手に物理攻撃が効くのか?
これは聞いておかねばならんな。
「じいさん、その鬼霊軍っていうのはやっぱり名前の通りの集団なんだよな?
霊ってことは刀とか剣とかの物理攻撃が効かないんじゃないのか?」
「その通りじゃ。
我が国の兵士たちは剣術においては他より秀でている一流の剣士ばかりだが、剣が効かないとなっては成す術がない。そのためお主には魔法を習得してもらわねばならん。」
まじか。いや魔法とかかっこいいけどこの国には剣が使えるやつしかいないんだろ?
どうやって魔法を身につけるんだ?まさか独学で・・・
「隣の国にアレンという魔術師がおる。
その者を訪ね、教えてもらうのが最も賢い方法だろう。
先ほども言ったがこの国には剣を使える者しかいないため教えることは不可能だ。」
魔法か。この国を救うためにはそれしかないんだな。
「よしわかった。それとじいさん、その鬼霊軍がこの国へ攻撃してくるのは一定の周期があるのか?それともいつ来るのかわからないのか?」
「あいつらが攻めてくるのはその月の1日じゃ。
次に攻めてくるまでには3週間強の時間がある。
魔術がどのくらいの期間で習得できるものなのかはわしらにはわからないし急にこのような危険なことに巻き込んでいる立場なのにこんなことを言えた義理ではないことはわかっている。
だが、どうかできるだけ早く魔術を習得し、この国を救ってほしい。
もうわしらにはお主しかおらん。」
わかってる、俺もできるだけ早く習得できるよう努力するつもりだ。
これ以上この国から犠牲者は出したくない。
「おう、まかせろ。
ところで隣の国へはどのくらいかかるんだ?」
「隣の国へはこのリュクを連れていくがよい。
こやつは空を飛ぶことのできる鳥の精霊。
スピードも同じ鳥の精霊の中ではダントツだから背中に乗っていけば5時間ほどで到着すると思うぞ。」
5時間か。今日はとりあえずここで休んで明日の早朝に出発ぐらいが丁度いいな。
「わかった、じゃあ今日はここで休ませてもらう。
一日にいろいろなことがありすぎて正直めちゃくちゃ疲れているんだ。
すまないが夕飯まで睡眠をとらせてもらってもいいか?
この国やお前たちについてはまだまだ聞きたいことがたくさんある、それは夕飯の時にでも聞かせてもらいたい。」
「わかりました。それではこちらで睡眠をとられてください。」
よほど疲れていたようだ。それはそうだよな、昨日まで普通の生活してたただの高校生が急に王国を救う勇者だぞ?
状況をすぐに飲み込めと言われても到底無理な話だ。
起きたらまたこれからのことについて皆と話そう。とりあえず休まなきゃ死ぬ。
俺の体がそう訴えているように感じた。
俺は案内された場所で、一瞬で眠りについた。