episode01
今日は天気がいいな。
普段はあまり太陽の光に当たりたくないのだが、今日はなんとなく外に出たい気分になった。
俺は久遠琉翔。
こういう外に出ないみたいな書き方してるけど別にニートとかじゃないからな。
平日は普通に学校行ってるし。休日になると家にこもるだけだ。
「・・・けて」
ん?今なんか聞こえた?
気のせいかな、ここら辺田舎だからそんなに人が通るような場所でもないし。
にしても、あまりにもいい天気だから日向ぼっこをしたくなった。
草の上に寝転んでみようかな。
よっこらしょ・・・ああ。気持ちいい。
たまには自ら進んで外に出てみるのも悪くない。
陽の光に当たるのと当たらないのとでは結構違うらしいしな。
あぁ、気持ち良すぎてこのまま寝そう。
「たす・・・け・・・」
んん・・・?いや、やっぱり何か聞こえるよな。
しかもちょっとやばい感じじゃないか?
助けてって聞こえた気がしたが、確実ではないためもう少し耳を澄ませてみる。
「たすけて・・・!」
今まで疑っていたものが一気に確信に変わった。
助けなければ、そう俺の中の何かが思った。
何があるのか、どうしたらいいのか、頭で考える前に声のする方へと俺の体は勝手に動いていた。
昔から俺は、いちいちあれこれ難しく考えるくらいなら行動してみた方がなんとかなるのではないかというわけのわからない考えを持っているところがある。
良くも悪くも、ここまでそのなんとかなる精神でやってこれている。
草木の生い茂る狭い道を走り抜け、少し開けたところに出る。
そこにいたのは傷だらけの猫。
一瞬、自分の聞いた声はやはり聞き間違いだったのかと思った。
だが、間違いか間違いでないかは今はどうでもいい。
それよりもこの傷だらけの猫をどうにかしてやらなければならない。
「おい大丈夫か?今病院に連れて行ってやるからな。
お前は俺が必ず助けてやるから、もう少し頑張れよ。」
ぐったりとしている猫を抱え走り出す。
もう少しで森を抜けるというところで気を失っていた猫が目を覚ます。
状況の把握ができていないのか、とても戸惑っている様子だったがすぐにハッとして俺の腕から飛び降りる。
おいおい、怪我してるのにそんなに動くと死ぬぞ・・・
「お願いします・・・!」
お願い?何をだ?病院に連れて行くことを改めてお願いされたのか?
はは、それもまたおかしな話だ。妙に礼儀の良い猫だな。
と感心していた俺だがあることに気づく。
こいつ・・・しゃべった!?
「お願いします、あなたは私共の国を守ることのできる選ばれし勇者様なのです!
私の国では今、大勢の仲間たちが死に、多くの女子供が怯えて暮らしている状態でございます。
このような状況を変えるために私は、この世界へ私共の国を救ってくださる勇者様を探しに参りました。
選ばれし勇者様と出会うとき、この水晶がそれを示すと書に記されておりました。
申し遅れましたが、私は精霊王国のシャルと申します。」
よくわからない話を目の前で急にされ、何一つ状況の飲み込めていない俺は言われるがままにシャルの持っている水晶とやらを見つめる。その水晶は淡いピンクの光を放っている。
どうやらこの光が、俺が選ばれし勇者だということを示しているようだ。
「まて、急に俺が勇者だの助けてくれだの言われても状況を整理しきれない。
なぜ国がそんな危機に陥っているんだ?俺がお前たちの国へ行ったとして何ができる?
聞きたいことがありすぎるんだ。
だが、お前の話を聞く限りそれをゆっくり聞いているような暇はないということが理解できた。
とりあえずその国へ連れて行ってほしい。
このままお前たちを見捨てるつもりは無いし、口でいろいろ説明されるより実際に目で見て確認する方がわかりやすい」
ここでもなんとかなる精神が発揮される。
それに俺はお人好しだとよく言われる。だが、俺自身悪いことだとは思っていない。
困っている人がいるなら助けたいし、今みたいに俺じゃなきゃだめだと言われて助けを求められたら断る理由なんてないだろう。
何もかもが急すぎて理解できていないことが8割ほどだし怖くないのかと言ったら嘘になる。
それでも俺はこいつの国を助けたいと思った。
「わかりました勇者様。助けていただけること、心より感謝いたします。
先ほどの森を北東へ進んむとその先に大きな杉の木があります。
その杉の木の根本に私の国へつながる空間がありますのでそこへ向かいます。ついてきて下さい。」
あれ、せっかくここまで抱えて連れてきたのにまた戻るのか。
まあいい、傷だらけだったシャルもいつの間にか元気に・・・
「お、おい。お前さっきまで傷だらけだったよな?
なんで何もなかったかのように元気になってるんだ!?」
「それはおそらく、勇者様が《ヒーリング》を身につけておられるからでしょう。
ヒーリングは傷ついた心を癒し、身体の傷を治療する効果がございます。
おそらく私と出会ったことで今まで眠っていた力が解放され始めているのだと思われます。」
ひーりんぐ・・・?
俺、そんな力使えたのか!?驚いた。
お人好しで人を助けたいという心から、これが一番に使えるようになったのかな。
俺としてはとても嬉しいし、誇れるスキルだ。
何はともあれ、元気になってくれたのならよかった。
今はとにかくあいつの国へ行って状況を確認しないといけない。
きっと危険な目にも合うだろう。
でもやっぱり俺はシャルの国を救いたい。
そう思いながらシャルに遅れをとらないよう走るスピードを上げた。