「異世界娼館の支配人」 ―Another end― 恋する女たちの決意
支配人が三人三様の姿で寝ているルナマリア、リスティア、ローラに毛布を掛けて、そっと部屋から出てゆく。
扉が完全に閉まったことを確認して、三人同時に体を起こした。
三人とも狸寝入りをしていたのだ。
「はー。今日もダメだったねー。支配人相変わらず鉄壁だわー」
ローラが相変わらず間延びした声で敗北宣言をする。
本人が今日「も」と言っているように、彼女らが何回さりげなく、あるいは露骨にアプローチをかけても支配人がのってきたことは一度たりともない。
今の狸寝入りだって、支配人がうたた寝したのを確認してから、それぞれが自分が必殺と思っている扇情的なポーズで待ち構えていたのだ。
それを見て手を出さないばかりか、苦笑交じりに毛布懸けられると来たら、女としての沽券にかかわる。
かかわるのだが、過去幾度も壮絶に敗北している三人は、そろそろこれくらいでは動じなくなりつつある。
「私が泣いても怯むだけで、手を出してきたりしないんですよね……自信失くします」
人間の男であれば、それでイチコロのはずなのにと、実は「雪女」であるリスティアが嘆く。
「私の魅了もまるで通じぬし、一回こっそり血を吸ってやろうと思ったが、支配人の魔力範囲で悪さをしようにも、必ず気付かれるしの」
こちらは実は「吸血鬼」であるルナマリアが物騒な事を言い出した。
「吸血鬼」として人を従え、下僕とする魅了がまったく支配人に通用しない事をいぶかしんでいる。
「何てことするのよールナルナ。ルール違反じゃないのー」
ローラがルナマリアを批難するが、そもそもルールとはなんだという話だ。
「ローラとて淫夢見せたり、あまつさえその夢の中に侵入したりしているではないか。知っておるぞ私は」
「あはははー、そこでも相手してくんないんだよね、支配人。おかしいなー、私が夢を自由にできない筈ないんだけどなー」
ローラの正体は「淫魔」だ。
批難したルナマリアに、自分も違反していることを指摘され、笑ってごまかしている。
当初のルールでは、各々の能力を使わずに、誰が一番最初に支配人を落すかという、ルールでありゲームであったのだ。
最初は低俗なものだった。
いろいろあって自分達を強制的に使い魔としている、強大な魔法使いである所有者。
それが大事にしている幼い子供を、自分の魅力でどろどろにしてやれば、胸がすくだろうという程度だったのだ。
その筈が、まさか三人ともが最初の数ヶ月で本気になり、出し抜くためにルールなんて知らないを三人ともが実行した上で撃沈することになるなど、当時は夢にも思っていなかった。
なぜか支配人には、自分たちの強力な筈のスキルがまるで通用しない。
所有者の加護か、見たこともない不思議な魔法を使うせいか、それとも魔力だけは無限と言っても過言でないほどあるためか。
強力な「魔なる者」でもある三人は、魔力であろうとあたりを付けているが、だからと言って自分たちのスキルが通用するようになるわけでもない。
純粋に女としての魅力だけで落とさねばならないという状況に、戸惑いながらも楽しんでいる一面があるのも否定できない事実だ。
だがそれも年単位となってくると、笑ってもいられなくなる。
「あー。支配人今日もやってるねえ、街全体に浄化魔法かけるの。何回感知しても信じられないわあ。あれ普通の人間がやったら、十分の一の範囲位で干からびるよねー」
「まあのう。支配人は自分の事を本気でさえない魔法使いと思っとるようだが、とんでもないの」
「あれだけの魔力量をたとえば結界魔法に使ったら、百年単位で稼働しますよね」
支配人の魔法発動をそれぞれで感知して、何度目でもあせない驚きに心を動かす三人。
「というか気付いとるぞ、グレン王。まあそうでなければ娼館に第一王女と第二王女行かせるなんて真似を許さぬであろうが」
「だよねー。シルヴェリアちゃんとカリンちゃんは天然っぽいけど、アレン君は気付いてるよねー」
「王国にとっては戦略級の魔法使いですものね、支配人。シルヴェリア王女でもカリン王女でも、支配人が手を出してくれれば望むところですよね」
グレン王国が、娼館に王族が出入りすることを黙認している理由を三人は理解している。
支配人が冴えないと認識しているユニーク魔法は、人間社会にとっては戦略級の兵器になり得る。
魔物相手や、直接の戦闘には効果が無くても、国家間の争いというのは戦争だけではない。
疫病が流行った時の対処や、過酷な開拓地で人民を健康に保全できるという事実。
極端な話をすれば、敵国の王族男性全員を「使い物にならなくする」だけで、大概の案件はあっさり片が付く。
三人に言わせれば、その気になれば支配人はこの世の男全てを「使い物にならなくする」事すら可能な魔力を持っているのだ。
ある意味においては「世界を滅ぼすぞ」と言い放てる存在なのである。
冒険者として魔物と行う単純な戦闘ではなく、あらゆる意味での国家の戦争という舞台に上がれば、支配人は過去に存在したことが無いレベルでの脅威だ。
国が欲しがっても全く不思議はない。
「搦め手できてるのは、所有者怒らせると怖いからだよねー」
「それに私たちも常に傍に居ますしね。王宮は気付いてますよね、私たちの正体」
「まちがいないの。そうでなければこんなまだるっこしいことはしておるまいよ、あの傭兵王が。じゃが支配人が心を許してくれた後の私たちは、事実上無敵じゃしな」
支配人が意味がないと思っている、三人に最後にかけて行った魔法は、魔力を保有するものにとっては、自身を無敵にするといっても過言ではない魔法なのだ。
絆魔法。
文字通り、支配人とそれをかけた相手に絆を繋ぐ魔法。
これは支配人から見れば、本人がそう思っている通り何の変化ももたらさない魔法であることは確かだ。
劇的な変化を得るのは、かけられた側である。
かけられた側は、支配人の魔力を自分の物として使用できるようになる。
無限に等しい支配人の魔力を自由に使えるという事は、消費の大きい強力な魔法を何の遠慮もなく使い続けられるという事だ。
絆の太さが決まっているのか、消費してから供給される速度の上限はあるにせよ、事実上魔力切れが無くなるという事実は大きい。
それがルナマリアをして、無敵と言わせる理由である。
狸寝入りする前に話していた、四人で冒険者という夢は、結構あっさり実現できるものなのだ。
支配人にその気さえあれば。
「でも所有者いってたよねー。支配人の体液取り込んだら、絆の上限無くなるってー」
「効果時間は短いらしいがの。それが真実であれば、効果がある間中魔力が一切減らないというバカバカしい状態になる。知られたら世界中の国家が支配人を欲しがるぞ。絆魔法だけでも同じことじゃとは思うが」
「……大人のキスすらもしてくれませんものね、支配人」
所有者の言う事実を、三人ともに雁首並べて年単位で共に過ごしながら誰も確認できていない事実に、俄かに落ち込む。
支配人から受ける恩恵云々は実際どうでもよく、女としての自分に手を出してこない事こそが最重要課題なのだ。
「うぬう、実は支配人、処女好きなのではないのか。妙にシルヴェリア王女には優しいと思うのじゃが」
「ええー、そうなったら私達全員アウトじゃないの―」
「た、確かにその疑いはありますね。カリン王女殿下にもなにかと文句言いながらやさしいですし」
俄かに支配人にユニコーン疑惑がかけられる。
そうであれば自分たちが娼婦である時点で話にならない。
傍に居るための、キャラ設定を間違えていると言わざるを得ない。
「そんなことないと思うよー。支配人は娼館の仕事に誇り持ってると思うし、私たち含めた娼婦を蔑んだり嫌ったりはないと思うんだけどなー」
別にローラだけではなく、ルナマリアもリスティアも百戦錬磨の娼婦である。
支配人の瞳にそういう色があれば、どう取り繕おうが見抜ける。
見抜けてしまう。
お客様でも、街で暮らす普通の人々でも、たとえそれが支配人であってもわかってしまうのだ。
それは三人が「魔なる者」であることとは関係が無い。
一度でも己を売ったことがあるものなら、それはわかるようになる。
娼婦になるという事は、そういう事だ。
「いえそれは間違いなくそうなのですが、お仕事とプライベートは違うといいますか、こ、恋人として考えると、という事で……」
「ありそうじゃな。というか普通はそうか……」
リスティアの考えはもっともかもしれないと他の二人も思う。
同僚として尊敬されることと、恋人として愛されることは別なのだ。
中にはそれが一致している人もいるだろうが、支配人は仕事とプライベートをきっちり別けるタイプな気もする三人。
もとより「娼婦」というものは、恋人として選ばれるには不利だといわざるを得ない。
仕事として認める認めないとは、また違った問題なのだ。
そもそも娼婦どうこうよりも、所有者に張り倒されて支配人に惚れるまでの自分たちは、人間などただの餌くらいにしか思っていなかった。
「魔なる者」とは、明確な人類の敵なのだ。
種族的に生きていくためには人の精気が必須で、その為に時に肌を合わせることを特に何とも思っていなかった。
そこまでする必要が無かったから命までは取らないという「種」としては変り種だったため、所有者にぶち転がされた際に滅ぼされず、使い魔として支配下に置かれたに過ぎない。
それが今は、強力な魔法使いとはいえ、ただの人間である支配人に女として選ばれない事が、なによりも怖い。
そしてそんな自分を気に入ってしまっている。
恋は盲目というのは、何も人間に限った事ではないらしい。
「魔なる者」としての己も、毎夜正当な対価を得て身体と時間、技を売る己も、恥ずかしいとは思わない。
支配人がそんなことで自分達を蔑んだり、嫌ったりすることが無いという自信もある。
だがそれが理由で他の誰かに遅れを取り、自分が選ばれないことはものすごく怖い。
最大の問題は支配人が「恋人としては処女一択」という考えだった場合、自分達が完全に対象外になってしまう事だ。
どうしたって種族も過去も変えられないし、何より今現在も三人は「胡蝶の夢」のトップ3という事実がある。
毎夜客を取るのは当然で、過去と違うのは精力の代わりにお金を貰っていることくらいだ。
害にならない範囲で精力も貰ってはいるが。
種族特性的に、男を悦ばすことは別に嫌いじゃない。
だがその結果、意中に相手の選択外になるのであれば話は別になる。
「というかねー。私たちを抱いた、ううん、現在進行形で抱いている男の人がたくさんいるのが問題な気がするんだー。汚らわしいとかそういうのじゃなくてね?」
「ああ、支配人は間違いなく新品じゃからのう。比べられるのが怖いとかそういうあれか。それに人の男は嫉妬深いというのはこの数年でよくわかったしの。金で買うておる女に対してですらあれじゃ。恋人となるとなおさらか」
「比べられるのは私も怖いですよう。でもルナちゃん、それ絶対に支配人に言っちゃだめだよ? せっかくしゃべり方とかも雰囲気出して、酸いも甘いもかみ分けた渋いキャラクター演じてるんだから、一生懸命」
支配人という立場、それにまつわる責任。
それを過不足なく果たそうとして、気合が空回りしているところがあるのだろう。
それが本来の自分のキャラクターとはほど遠い、支配人が思う理想の娼館の支配人らしい言葉遣いにさせている。
枯れた中年の様に振る舞うのも、支配人の中での理想像がそれだという事だ。
「そうは言うても、まだ十四歳じゃろうが、支配人は。支配人になったのが二年前、所有者に助けられたのが五年前じゃ」
実際は線の細い、リスティアと同じ黒髪黒眼の美少年な訳だが。
「あの頃の支配人は、あれはあれでかわいかったよねー、今思えば―」
「最初は何とも思っていませんでしたから、惜しいことしましたよね。あの頃に付け込んでおけば今頃……」
「後の祭りじゃのう。おかげで私たちは、未だに所有者に勝てん」
支配人の前に「使い魔」として姿を現していた頃は、主人のおまけ位にしか思っていなかったのだ。
まさか数年後に、自分達が三人揃ってその好意を得たくてのたうち回ることになるなど、夢にも思っていなかった。
「最後の手段はあるにはあるよねー」
ぽつりとローラ嬢が口にする。
既に長き時を生きている「魔なる者」である自分達には、今自分たちが想定している支配人の選択肢に入る方法が、確かにあるにはある。
かなりのリスクが伴うものではあるし、その上そうしたからといって支配人に選ばれるという保障も無い、切り札とも呼べぬものではあるが。
「わ、私は嫌じゃぞ? 一時的にとはいえ支配人との記憶を忘れるつもりなぞない。そんなことをするくらいなら、今のままで支配人を口説き落として見せる。や、約束もしてもろうたことじゃし、それまで待ってもよいし……」
「身体だけ処女に戻っても、それで良しとなるかどうかが問題ですよね。いずれ記憶も戻る訳ですし、私たちの過去を消せるというわけじゃありませんし」
長い刻を生きた「魔なる者」は、肉体よりもその心が悠久の時に耐えられなくなった際、それまで得たほぼ全ての力と引き換えに幼体へと還り、今の己を記憶として引き継ぐことが可能だ。
「再誕」
本来は共に永遠を生きる伴侶を得た際、お互いを失わぬようにどちらかが再度強大な「魔なる者」に成長するまで見守るのが常だが、常命の者である人に対してそれを行ったという話は三人も聞いたことが無い。
何しろ普通の人よりは少し強い程度、肉体年齢も人基準で六、七歳程度に戻ってしまうのだ。
そこからまともな「魔なる者」になるのでも十年はかかるし、それとても永い刻を生きた今の自分の力には遠く及ばない。
それを守護するものも無い状況で行うのは、常に人に狩られる対象となっている身には自殺行為だ。
「それでも私は、私の初めてを支配人に奪ってもらいたいかなー。記憶が戻るキーは、支配人に抱かれることにしておけばいいしー」
「それ、いいアイデアですね。厳密には初めてじゃないですけど肉体的にはそうですし、抱かれた後に記憶が戻るようにしておけば私たちにとっても初体験ですよね? ね?」
だが信頼できる相手の下で成長できるというのであれば、それは普通の人間と何も変わらない。
特別な力はなくしても、支配人の元で成長できるならそれは有りだと、ローラ嬢とリスティア嬢は思っている。
当然成長した暁には、女として支配人に選んでもらうという野望があっての事だ。
「問題はそれでも支配人に選んでもらえなかった場合だよねー。もしそうなったら笑える―」
「わ、笑えないです。笑えませんよ?」
冗談めかしてはいるが、そこまで覚悟してでもやる意志はあるという事だろう。
そして無力になった自分達を、支配人が世話してくれるという自信位はある。
女として選ばれるかどうかは置いても、そこは揺らがない。
「だ、だが支配人の護衛という面はどうするのじゃ。私たちがいなくなれば、傭兵王をはじめ他国もどう動くかわかったものではないぞ」
「それは確かにねー。支配人自分で思ってるよりお人よしだしなー」
「そこがネックなのは事実ですね。私達としても支配人を無防備にするのは望むところではありませんし……」
ルナマリアの言葉に、二人も考え込む。
自分達が支配人の庇護を信じて一時的に無力化することは許容できても、そのせいで肝心の支配人を無防備にすることは許容できない。
自分達の恋心の成就よりも支配人の安全を優先するのは、三人にとって考えるまでも無く当然のことなのだ。
だからこそ、ローラも「最後の手段」と称したのだろう。
あるにはあるが、そう簡単に使えない手なのである。
順番に「再誕」を行うという手もあるが、そうすると三人で三十年、二人が同時にしたとしても二十年かかることになる。
女として戦える状態に戻った時、支配人が四十四歳もしくは三十四歳というのはまあ三人にとって大きな問題にはならないが、先に「再誕」した者が有利という不公平が生まれる。
後になった自分を、恋人同士となった二人に娘のように育てられては堪ったものではない。
「再誕」をするのであれば、恨みっこ無しの三人同時だ。
「今の私が負けた上のことであれば是非も無い。だが弱くなった私のせいで支配人に何かあるなど、私には耐えられぬ。魅力的な選択であることは認めるが、やはり現実的とは言えぬのではないか」
幼体、人で言うところの少女に戻って支配人に育てられ、育ってからは女として傍に居る。
肉体的なものに過ぎぬかもしれないが初めても捧げられるし、それまでは支配人への好意を覚えているだけの、新しい自分だ。
今の自分もやがて記憶として戻るのであれば、本来躊躇うことは無い。
今この瞬間に「再誕」を行えば、自分達が今の姿に戻る頃には、支配人は二十四歳。
理想的といえる。
問題はルナマリアの言うとおり、支配人の安全だ。
「えっと、あの、それについては三人の意思が一致すれば手が無いわけでもないかと……」
おずおずという様子でリスティアが手を挙げる。
「そんな手あるのー?」
「……ま、まさかリスティアお主……」
ローラはピンと来ないようだが、ルナマリアはリスティアが言わんとすることの予想が付いたようだ。
「私たち三人が「胡蝶の夢」で稼いだお金って、結構な額になりますよね?」
「やっぱりそれか……」
「なるほどー、その手は確かにあるよねー」
ここまで具体的に言われれば、ローラも気付く。
大陸一、いや世界一といっていい娼館である「胡蝶の夢」のトップ3として、ここ数年で三人が稼いだ金額はちょっととんでもない額である。
それを三人分あわせれば、大概のものは買えるだろう。
元々贅沢に興味がある三人ではなし、たまに支配人と呑むお酒やつまみ、その際に身につける衣装や小物以外にはほとんど使わないから溜まる一方である。
仕事で着る服は高価なものではあるが店支給だ。
支配人は高価なものを送ると嫌な顔しかしないので、実際のところそれくらいしか使い道が無い。
それを全部つぎ込んで、自分達より信頼できる護衛を雇う。
そんな存在は世界で一人だけ、つまりは所有者だ。
所有者は飛びっきりの冒険者で、その名に恥じぬまだ見ぬ地への冒険をこよなく愛する規格外だが、対価を払えば冒険者としてしっかり仕事はしてくれる。
それは身内である自分達が相手であっても同じだろう。
そしてその信頼度は、自分たち三人が束になるよりも高い。
「えーっと十年間所有者雇うとなるとギリギリー?」
「支配人に残す我々三人分の生活費を除いても、何とかなるじゃろうが……」
「所有者はその辺まけてくれませんものね」
その計画が不可能でないことを確認する三人。
やろうと思えば可能だという結論が出る。
「しかし薮蛇にならぬか?」
「その可能性はあるよねー」
「支配人をパパ、所有者をママと呼びながら育ってから記憶が戻ったら悶絶しそうですね……」
ある意味最も手ごわい相手を自ら呼び戻す行為になることに腰が引ける三人である。
長き刻を経て得た力と、この数年間で得たお金。
それら全てをかけて少女へと戻り、支配人に選んでもらえる可能性に賭けるか。
大人の女として、これから青年へと成長する支配人を籠絡して見せるか。
どちらにしても茨の道な気がする三人である。
だからといってその先にあるものを諦め、そこを歩まない訳にも行かない。
欲しい物を得るには、何時だって代償が必要だ。
「胡蝶の夢」に来るお客様方も、普通の人々が目をむくような金を払って一夜の夢を見せてくれる女達の体と時間、技を手に入れる。
欲しいものが、己にとって唯一無二の想い人の心だというのであれば、なおさらそうだろう。
躊躇ったり怯んだりして、手に入るほど容易なものではない。
それなりに楽しい今の日々を続けるだけならばいいが、本当に欲しい物を手に入れるためには覚悟が必要だ。
そして覚悟を決めるべきタイミングはいつだってシビアで、時は待ってくれない。
恋する女たち三人がひとつの決意をするのは、そう遠くない未来。
だけど、それはまた別のお話。
―Another end― fin




