オッパイチョコパイシッパイイッパイ
胸が大きいということは、羨ましがられることである。
胸囲の格差社会なんていう言葉もあるらしいし、人間社会では胸囲というものは、見た目に大きく優劣をつけるんだとか。
私、高田千代子も、その胸囲の格差社会においては勝ち組と言えるだろう。
だがしかし!
そんな社会で勝ったとは言えども、全然嬉しくない。
肩は凝るし重いし運動は苦手だし変なところで胸がつっかえるし。いいことなんてあんまりない。
みんなが胸ばっかり見てる気がして、私のことなんて『ただの胸がでかいやつ』としか見ていないんだろう。
いくら髪型を変えてもすれ違うたびに言われるのは『胸でけぇ』。
いくらメイクに力を入れてみても言われるのは『今の子の胸見た?』。
いくらおしゃれをしてみても言われるのは『あの服にあの胸は反則でしょ』。
もうこんな胸がなければ……と思ったこともたくさんある。
手術とかで小さくも出来るって話だけど、せっかく親からもらった身体を改造するのは申し訳なくて、開き直りもできずに、ただのコンプレックスとなって身体にくっついている。
そんな私にも友達はいる。
小学校からの幼馴染で、高校に入った今でも腐れ縁並の吸引力を発揮して、同じクラスで過ごしている。
「チョコー」
「ひゃっ! ちょ、またいきなり、やめてって言ってるでしょ!」
「だっておっきいから触りたくなるんだもーん」
今、私の後ろから胸を触ってきた……というよりは、揉みあげてきた彼女が、私の友達の千歳悠香。
きっと悠香のせいで、私の胸は大きくなったんだと思う。
小学校の高学年の頃から、まわりと比べて大きかった私の胸を、ただ『羨ましい』という理由で弄んできた悠香。それは中学に上がっても高校に入っても変わることはなかった。
その代わりといってはなんだが、悠香の胸は小さい。でも私はそこに憧れっぽい何かを感じていた。そう言う意味で『羨ましい』とは思っている。
でも人前で胸を揉むのはやめてほしい。エッチなビデオでもそこまではしないと思う。見たことないけど。
「チョコパイはいつ触っても重みがあって良いですな!」
「んもぅ……人前で触るのはやめてって言ってるでしょ」
「だって触られるような胸をしてるチョコが悪い!」
「触る方が悪いに決まってるでしょ!」
悠香は私のことを『チョコ』と呼ぶ。千代子だからチョコ。
「チョコは気にしすぎなんだよ。そんなに立派なものがついてるんだから、もっとアピールしていけばいいのにさー。私にも半分分けてよねー」
「分けれるもんならいくらでも分けてあげたい!」
「はいはい」
アピールなんてしたら、嫌な女だと思われるかもしれないじゃん。そんなこと誰が出来るかっての。
自分の胸に手を伸ばした悠香が、胸をモミモミしながら言う。
「私ももうちょっとあればモテたんだろうなー」
「悠香はそのままでいいと思うよ。カワイイし」
「何? 胸のサイズがカワイイって? ふざけてんのか!」
「ひゃぁっ!」
下から私の胸をペシーンと叩き上げてきた。その反動で、少し身体が前のめりになる。
すると、周りでそれを見ていた男子から『おぉ』という声が漏れたのが聞こえた。
「ううっ……」
「男子! チョコピは見世物じゃないんだぞ! 散れっ! 誰か塩を撒けぇい!」
立ち上がって塩をまくジェスチャーをする悠香。男子は視線をそらし、フンッと鼻息を荒くした悠香が座りなおす。
「まったく。男子ってば飢えた獣のような目でチョコのことを見るんだから! ぷんすか!」
「どう考えても悠香のせいだけどね」
「こう見えても私はチョコのこと心配してるんだよ?」
「えっ……悠香……」
急に真顔で言う悠香。
私は思わずあたふたしてしまい、あわあわとしてしまう。
そんな悠香が私の胸にポフッと顔を埋めてきた。
そんなに心配してくれていたなんて……ふざけてるばっかりだと思ってたけど、やっぱり持つべきものは友だと思っ…
「やべぇ……この乳に挟まれる感じ、やべぇ……」
…たのだが、平常運転の悠香だった。
見直して損したわ。
私は見えている後頭部をいい音がなるようにパシーンと叩いた。
「この胸は緩衝材にもなるな!」
「やかましい!!」
おしまい