平凡軍人の非凡な才能。3
いよいよラストです。
平凡軍人の秘密が明らかに。
「あー……えっと」
しばらくの沈黙。
テロリストが立て篭もっているというのに
こんなことしてる場合なんだろうか。
そう思い、おそるおそる口を開きかけた瞬間
頬を、思いきり殴られた。
急なことに踏ん張りが効かず、ホワイトボードを巻き込みながら、壁に衝突する。
打ち付けた背中と頭が痛い。
口内に血の味が広がった。
「おいレリック!何をしている!」
大将グロックの怒鳴り声を
どこか冷静に聞く自分がいて。
ゆっくりと起き上がれば
力任せに、襟首を掴み上げられる。
「お前が指揮官だと……?
どんなコネ使いやがった!出来損ないが!」
耳元で聞こえる罵詈雑言も
隊員達の制止の声も
全てが遠く感じた。
あぁ、そうか。俺は
ーーーー苛立っているのか。
「うるせぇよ」
気づいた時にはもう、大将レリックの手を振り払っていた。
「簡単な優先順位もわからないのか、あんた」
「なにっ!?」
「使い古された台詞を連呼すんなって言ってんだよ」
目の前の巨体を押しのけると
大将以外の全員が、困惑に揺れている。
本当に情けない。
それでも世界最強かよ。
「ーー俺の名はトア・フィニス。
前線部隊『バールニア』の参謀長だった」
だから、縁がないと言ったのだ。
ここが『世界最強の防衛部隊』なら
俺がいたのは、『世界最強の前線部隊』だったのだから。
目立つのは嫌いだ。
この肩書きも、隠しておくつもりだった。
だが。
俺は、中傷されてまでおとなしくしている人間ではない。
……まぁ、ちょっとやり過ぎた感はある。
それでも
他の大将達が乗り気になってくれたなら上出来だ。
酷いことを言うようだが
今回、一番隊は必要ない。
「テロリスト全員生け捕りにする。
従うかどうかは自分で判断して下さい」
俺は、指揮用のヘッドホンを手に取った。
その後、テロリストは全員無傷で捕縛された。
真っ先に動いた三番隊が、手柄を総取りしたそうだ。
逆にレリックは降格処分らしい。
ざまぁみろ。
「いや〜、お手柄だったねトア。
あれは良い戦術だったよ」
「そうか。
俺は一発殴りたい気分だけどな」
「誰を?レリック『中佐』?」
「お前を」
「あはは。
直接戦って君に負ける気はしないなぁ」
言い返す言葉もない。
本当、そういうのだけは苦手なんだ。
「で、どうすんの?
昇進、受けるなら手続きしてあげるけど」
「……なぁ、アベル。
長い付き合いだから、わかってると思うが……」
「ん、なに?」
「俺、目立つのは嫌いなんだよ」
元帥執務室の高価なソファに腰掛け
澄んだ青い空を見上げて
手の中の、『昇進推薦書』を
勢いよく引き裂いた。
……ちょっとむちゃくちゃ過ぎましたかね。