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とある神官の話

 この世の神とは、世界を守り支える星獣である。

 八体この世にいる星獣のうち、この大空を支え、天候を支配している星獣こそがこの世を総べるべきである。天を支配し、大地の国々を遙か高みから見下ろす存在こそ、神。

 その教えを受けて成長してきた。確かに天候を支配しているということは、生きていくうえで必要な食物に直結する力である。理屈として納得はしているし、実際この天翼国において奇跡を信じないのは無理な話だ。

 むしろ大地という言葉こそが伝説に語られる場所。天空にある巨大な嵐によって隠された土地。それこそが天翼国だったのだから。






***






 年中日が当たる中庭はお気に入りの場所だった。この国において、いくつかの飛び島はあれど国の大部分は一か所に固まっている。そのため、大きく気候が崩れることもなければ、天候が変わることもない。

 まるで生ぬるい水の中に浸かっているようだ。


「そう思わなくていいだろ!」


 うっすらと目を開けるとそこには幼児が一人、腹の上に乗っかって大声で文句を垂れ流していた。


「気候が安定するのは俺の責じゃないぞ。雲の上にあるし、太陽は輝いているし、気持ちがいいならそれがいいじゃないか! あ、こら、ジュン、話を聞いてないな! 寝るなー!」

「うるさいぞ、テン。俺の昼寝の時間を邪魔しない……」

「邪魔じゃないぞ! これは教育だ!」


 教育なんて、見た目五歳にも満たない幼児にされたくないわ、とさらに無視して昼寝を決め込む。

 それによって騒々しさを増す幼児だったが、周囲がそれに気付くことはなかった。


「あー! こら! だから寝るな! お前はまったく力にあふれておるのに努力をしない! こらああああ!」


 休日くらい寝かせてくれてもいいじゃないか。そんな言い訳は通じない。

 この幼児、なんとジュンにしか見えていないらしく、下手に会話をすると胡乱げな目で見られることになる。幼児のほうはそれにお構いなくジュンに声をかけてくるから困ったものだった。

 神官とは正しく神に仕える者だ。そして、この世の神として天翼国であがめられているのが白い羽をもつ星獣だ。

 ほかの国がどうかは知らないが、数十年かに一度降臨とやらをして姿を見せているので、あれは神だ! と崇められているらしい。

 確かに太陽を背に、神々しく光り輝きながら舞い降りてくる羽をもった何かが厳かに予言めいたことを言えば、信者も増えるだろう。実際、ジュンも信じていた時期はある。

 だが、ある日をきっかけに、具体的に言ってしまえばジュンにしか見えない子どもに会ってから、そうした奇跡のたびに様々なことを言われ続け、そうした奇跡が逆にしらけてくるのだ。


――――今のは魔術と道具を組み合わせたものだぞ。ほら、原始的な方法だが鏡で光を反射するなんぞ誰にでもできる。


――――羽? 羽なんぞそのあたりに飛んでいる鳥からむしり取って舞い散らせばわかるまい。意外にお前も頭が固いな。


――――星獣のことをかけらも信じておらぬくせに、こういうときだけ崇める輩が俺は嫌いだ。実際、あの神官長は強欲で、祈りの間に人がいないと思ってあんなことやそんなことを愚痴っておるんだぞ。


 そんなことを神殿での祈りだとか、神話学の時間だとか、講義の合間に延々聞いてみよう。そういう見方もできるなあ、と種明かしを聞いてしまったがために、星獣に対する信仰心など時の彼方に捨て置いた。さらに小姑よろしくぶつぶつと勉強している隣でつぶやかれ続けたら、匙を投げても仕方ない。

 確かに、この天翼国がなんらかの要因で大空を浮遊しているのは事実である。だが、だからといって大地にある国々よりも地位が高いというのはおかしな話だ。

 ほかの四極の国々に行くことも禁じられていれば、四洛に下りることも禁止されていた。だが、このテンのいう抜け道を使えば、わりと簡単に四洛に下りることができ、かつ天翼国に戻ってくることもできた。

 神官の教育の過程で聞いた話とは全く違った。

 四洛の人々はすでに星獣の声を聴くことも存在すらも忘れ、伝説すらもあやふやに伝わっている。だからこそ、正しい道を、天翼国に住まうものは示さなくてはならない。神官として星獣に仕えれば、寿命は延び、長い生を生きることができる。

 それが天翼国の神官たちの言い分だ。


「現実は、四洛の国は富んでいる」


 ぽつり、と呟くとテンは黙り込んだ。

 星獣のことなどとっくの昔に忘れた四洛の国々は大地に確かに根付いている。そのため、人々に食物は十二分にいきわたり、大きな都市には活気があった。


「むしろ、星獣がいないと大事になるのは四極の国だよな……」

「……」


 ジュンは独り言としてつぶやいている。テンもまた、それに対して反応はしない。

 天空にある国、といえば聞こえはいいが、つまり過酷な条件下を無理やり星獣の力によって正している。そう考えると、恵まれた条件下に存在し、星獣の伝説すら忘れている四洛の国々に劣っているとも考えられるのだ。

 テンに出会えたことはジュンにとって運が良かったのだろう。神官たちの言うことを鵜呑みにせず、真実を知ることができる。四洛の国々に行くことで見聞も広まる。

ただ、それによって何かを成そうとは思っていない。神官としての地位にも興味はない。この国で何かを動かすためには神官になるのが手っ取り早いがそれ以上にわずらわしさが多いのだ。


「……お前、旅に行かぬか」

「旅?」


 テンはことあるごとにジュンにいろんなことを教えてきた。それは五歳児の外見に見合わないことだったが、おもしろいと話を聞いてきた。

 だが、今まで一度だってこの国から出て行くようなことを示唆されたことはない。


「旅って、どこに?」

「終わりのない旅だ」

「そりゃ旅って言わないだろ。家出? 出家? えっと、脱獄……じゃなくて、なんていうんだこの場合」

「だが、旅だ。この国から出て、四洛へ行こう」

「突然言い出したねえ」


 この少年の正体をジュンは知らないし、この先も知るつもりはない。この関係はテンからの一方的なものであり、ジュンはたまたまそれを知って利用しているだけだ。


「お前は努力することは嫌いだが、好きなことや興味のあることに関しては手間を惜しまない」

「そりゃな。生きているんだったら楽したほうがいい気がする」

「この国で知りたいと願ったことはすべて知っただろう? どうだ、四洛に行かぬか。お前がまだまだ知らないことがあふれているぞ!」

「……なに、その胡散臭い勧誘」

「な! だからそういうところが捻くれておると言っている! 本当は行ってもいいかな、とか思っているくせに、面倒だから動きたくないのだろう!」

「そこまでわかっておきながらまだ粘るテンのことを褒めてあげよう」

「ぐぬぬぬぬぬ!」


 顔を真っ赤にして唸るテンを横目に、ジュンはふっと笑って目を閉じた。まだ昼寝の時間は続いている。

 寝るなー! と怒声が聞こえたが知らないふりをした。

 テンは言った。行ってもいいかな、と思っているくせに、と。そこまでわかっておきながら、どうしてからかわれていると気付かないのだろうか。


「こら! ジュン! お前、……全く……」


 目を閉じて本格的に眠りに入る。

 目が覚めて、もしテンがいたら、そのときは了承してやろうと思いながら。


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