【SS】余命確定
新しい病気が世界に蔓延しつつある。
若返りの病。別名、余命確定病。
ゆっくり、徐々に発症してゆき、いくら若作りでもありえないだろう!という、診断がつく頃になるともはや手遅れ。加速度的に病状は進み、最終的には受精卵にまで逆戻り、消滅してしまう。治療法はいまだない。
このメカニズムからして不明な病に、僕の母親もかかってしまったらしい。もともと若ぶりな人だったが、今年五十歳のはずが二十代にしか見えなかった。僕の二十二歳になる妻とは、姉妹のように仲がいい。
「まぁ、残りの人生を楽しむわよ」
あっけらかんと母は言う。この病気の患者は概して前向きだ。必死で病気を解明しようとする僕ら医療関係者は、しばしば悩まなければならない。
日に日に若返ってゆく母は、確実に死へと向かっているというのに明るかった。
病状は急速に進んでゆく。
「患者を前にシケた顔をするもんじゃないわよ? 悲しむことはないわ、あんたたちのもとに生まれ変わってきてあげるから」
きゃっきゃっと甲高い笑い声が、二世帯住宅のリビングにこだました。
縮んでゆく母を抱きしめた妻が、泣きそうなのをこらえて僕を見やる。
僕はといえば、そんな妻を母ごと抱きしめるしかなかった。
やがて妻が妊娠し、十月十日をへて、ぶじ子どもが生まれた。
妻のたっての希望で、母の名を受け継いだ僕の娘のアルバムと、背表紙の色あせた母のアルバムは、隣り合ってリビングの本棚におさまっている。
*おわり*




