始まりはこの日
自分にとってここまで長い物は初めてになりました。
この話はプロローグ的なものになります。
これからの話に入るための準備のような物です。
だからって内容がグダグダでいい訳じゃあないんですがね……
秋も始まりかけた日の、時刻は大体1時ごろ。
辺りの草や建物や生き物を、全てを焼き尽くすかのようにサンサンと夏の日差しが降り注いでいる。
一通り夏は終わった……はずなのだが、今日は異常に暑い。
その辺りを歩いている人たちは、この世が終わるのではないかというような酷い顔になっている。
こんなに暑くなければ見てて笑えるのだろうが、残念なことに俺にそんな余裕はない。
それに、俺も同じ顔をしているだろうから他人のことを言えないだろう。
あんまりにも暑くて俺の頭が茹で上がる気がする。もしくは、音を立てて爆発する気がする。爆発したらどうしよう……
全身から汗がダラダラと流れ落ち、両手に持っている買い物袋を伝って地面に汗をたらしていく。頭にはキャップのついた黒の帽子を被っているが、黒色というおかげで日差しをより一層吸い込んでいる気がする。
しかし、キャップがついているので目には直接日差しが入ってこないのが救いか。
そんな一長一短(?)の帽子を被りつつ、帰路につく。
一歩ずつ、確実に家に近づきながら小腹のすいた俺にいいアイディアが思い浮かぶ。
「……この暑さなら目玉焼き作れるんじゃないか?」
両手に持っている買い物袋を荒々しく地面に落とした後、中から買ってきたばかりの卵パックを取り出し、
適当に開けて卵を一つ持つ。
そして、生卵をアスファルトの上に落としたところで我に返る。……何をしてるんだ、俺は。
落とされた卵はグシャリと音を立てて、地面に白と黄色の模様を描いていく。
ボーっとその様子を卵パックを持ちながら、直視している俺。なんともシュールな光景だろうな。
まさか暑さにやられてここまでするとは。早く家に帰ろう。
開いている卵パックを買い物袋に適当に戻すと、両手に持ち直して、ゆっくりと一歩ずつ歩くことを再開する。
どのくらい歩いただろうか。
ここまで暑くなければ自宅までがこんなに長く感じることはなかっただろうな。
だがそれももう終わりだ。俺の目の前には念願の自宅が佇んでいる。きっと中はこの地獄のような暑さとは打って変わって、天国のように涼しいだろう。
ちなみに俺の家、外見は特に変わったところはない。別にそこら辺にある二階立での家となんら変わりはないだろう。
外見……だけはなぁ……
出しておいた自宅の鍵を玄関の扉に差込んで……ここからが他の家と違うであろうところ。
右に半回転、左に一回転、さらに右に一回転半させると、ガチャリと音がなって鍵が開く。
「普通ここまでしないだろ」
ボソッと呟くと、買い物袋に苦戦しつつ、ドアノブを掴んで扉を開く。
さて、さっさと風呂に入ってサッパリして、着替えてエアコンの前で涼もうか。できることならアイスを昼食にしたいぐらいだ。
「ただいまー。」
少し声を張り上げてお決まりの単語を放つ。両手を楽にするために買い物袋を降ろすと、
家の極楽のような涼しさに目を閉じて浸る。周りの空気が穏やかに流れているのを感じることができ、
さっきまでの痛いぐらいの日差しは突き刺さらない。大きく息を吸って深呼吸をすると、
まるで焼け焦げた魚の様な香りがする。あぁ、なんて素晴らしいんだろう。涼しいだけじゃなくて
焦げた魚の香り付きだなんて……
あれ?焦げた魚の香り?いや、匂い?魚を焦がすなんてことするのは……咲姉ちゃんか!
「ああ、浩介。お帰りー。」
「あ、ただいまーって呑気に言ってないで!魚焦げてる!魚!」
「え?あ、ホントだ……って秋刀魚ーーーーー!!」
慌てて俺の目の前から台所に直行していく咲姉ちゃん。この咲姉ちゃんは料理好きだが料理オンチという
悲しき運命を背負っている。あぁ、今日もまた家族の分の秋刀魚が犠牲になったのだ……
小さくため息をつくと、ふと、服や帽子が汗で酷いことになっているのを思い出す。
これを洗濯機に入れて、さっさと風呂に入ろうかな。
そう考えたなら即行動。買い物袋をそのままにして靴を脱ぎ、自分の部屋へと向かう。
玄関からリビングは短い廊下で繋がっており、廊下の左手には二階へと繋がっている階段が。
右手には小さめの、物置となっている部屋がある。俺の部屋は階段を上ってすぐ右手にある部屋だ。
少し説明しておくと、二階にはまっすぐな廊下と、その左右に二つずつ、奥に一つの計五つの部屋がある。
料理オンチな咲姉ちゃんの部屋は、俺の向かい側の部屋だ。二階の構造はホテルを想像してもらうと分かりやすい。
家族構成は俺が末っ子、兄が一人。姉が三人。それに両親で全員含めて七人家族だ。
他の家と比べると多いほうだと思う。それだけハプニングやらなにやらがあるわけで……
話が少しずれたが、とりあえず俺の部屋に入る。部屋に入ると気を利かせていてくれたのか、
クーラーがついていて涼しくなっていた。ありがたいと思いつつ、左の方にあるタンスを開けて、
着替えを取り出せ……ない。なぜか着替えが無い。why?
「あっはっはっはっは!着替えは貰った!返してほしくば……」
軽快に後ろのベッドの下から飛び出してくる、この声は、亮介兄ちゃん。
「宿題やれとか、言わないよね?」
あからさまに嫌そうな顔をして振り返る。
「う、い、いや、違うぞ!宿題じゃない!課題だ!」
くだらない屁理屈を。まぁいいや。なんでもいいからさっさと着替えを返してもらって、
風呂に入ろう。
「あぁ、はいはい。課題ね、課題。後で手伝うから着替え返して。」
「やった!マジでか。いや~、さすがは俺の弟。優しいな~。」
ハハハと心地良く笑っている亮介兄ちゃんだが、今の発言はおかしいだろう。まぁツッコむの疲れるので、
ベッドの下に隠しているのがちらりと見えた着替えを回収する。そのまま部屋をでて風呂に直行。
後ろから「ちゃんと手伝えよ~!」とか聞こえた。
この亮介兄ちゃんは何かにつけて課題を手伝えと言って来る。年の差が一つしかないので、基本問題なら
少し俺でも解けるのだ。だからって、末っ子である俺に頼むのもどうかと思う。
なんで上の姉ちゃんたちに頼まないんだ?……断られたとか、そんなんかな。
疑問を自己解決しつつ、脱衣所のドアを開ける。ドアを開けた瞬間にモワっとした熱気が中からあふれ出出る。すぐ横にある風呂場へのドアを開けると、さらに熱い熱気に加えて、視界が白くボヤける。風呂にはお湯が張られていることをハッキリと示している。
素早く服を脱ぎ、洗濯カゴに放り込むと、風呂場に入る。
さて、買い物の疲れをゆっくりとるとするか……
いい気持ちになって風呂に浸かりながら、鼻歌を歌い始めた。途端に、
「あれ?誰か入ってんの?」
高めの声が風呂場に響く。
俺はいきなり声をかけられたので一瞬戸惑ったが、なんとか返事をする。
「あ、ああ。俺が入ってるよー。」
「あら、浩介?帰ってたの?」
「弟が帰ってきてるのに気づかないっていうのも酷いじゃないか、美紀姉ちゃん。」
「ゴメン、ゴメン。地下にいたからさ。上のことが分からなかったんだよ。」
「地下に……ってまた何か訳のわからない実験してたのか?」
そう、ウチには地下室があるのだ。しかも家の土地分の広さはあるから結構広い。
美紀姉ちゃんともう一人、四季姉ちゃんがこの地下室にこもって訳のわからない実験をしているのだ。
この地下があるっていうのも周りの家と変わっている点かな?
「おおっと、訳がわからないっていうのは頂けないわねぇ。寝ている間にスーちゃんけしかけるわよ?」
「う、わかったよ。」
寝ている間にスーちゃん、でかい青大将をけしかけられるのは命に関わるからやめてほしい。
ていうか、外に出ない程度に自由にさせるのもやめてほしい。
「うん、わかればよろしい。で、お風呂。私も入るから、早めに出てね?」
「はいはい。」
大きくため息をついたところで何も変わらない。風呂を堪能するのは終わりにして、さっさと体を洗って出なきゃならないのか……
渋々と湯船からあがり、体を洗うためにシャワーの栓をひねって、ボディソープとシャンプーを取ろうとしたのだが、
「あれ?何……これ?」
思わず声を出してしまうほどに、明らかに昨日までには無かった容器が追加されているのだ。
えーと、外見は他のシャンプーの容器とかと比べて、一際目立つ紫色。さらにさらに、表面には
注意書きらしきものとして、「絶対に飲まないでね!絶対だからね!(特に浩介) 四季より」なんて書いてあるが、少なくとも飲ませない気は無いだろう。本当に飲ませたくないんだったら風呂場に置かないしな……
これは飲めるのかどうか、という点よりも飲まなかった場合どうなるかを想定してみなきゃならない。
1.スーちゃんに襲われる。
2.訳のわからない実験の手伝いをさせられる。
3.四季姉ちゃんから直々にストレートが飛んでくる。
……これは、飲まないと酷いことになりそうだな。まぁ飲んだ後の効果も知らないからもしかしたら大差無いかもしれないが。
ゆっくりと派手な紫色の容器を手に取り、蓋を開けて匂いを確認してみる。……うん。無臭だから少なくとも鼻にダメージは来ないわけだ。次に軽く口にしてみる。……甘っ!超甘い!思わずむせるほどに甘いんですけど!……でも不味くはないかな?
右手に得体の知れない四季姉ちゃん特性の何かを持って、自分を落ち着かせる。
落ち着け。大丈夫だから。飲んだって死ぬことはない。逆に飲まなかった方が死ぬかもしれないんだぞ?
二、三度大きく深呼吸をして、一気に……飲み干す!
もの凄く甘い味が口の中に広がって、その余韻を残しつつ喉から胃へと流れていくのがわかる。
体の上半身が内側から甘くなったところで、謎の液体が無くなった。俺は軽くむせました。
「ちゃんと飲んだみたいね~?」
また、突然に声をかけられる。少し独特な、女性にしては低めの声……四季姉ちゃんの声が響く。
「う、ん。飲んだけど……効果は……?」
「ああ、それは今日中には分かるでしょう。分からなかったら実験は失敗だから、安心していいわよ。」
「その口調から察するに、あんまりよろしくないものなんじゃない?」
「さぁね。それは人によるでしょうし。あ、美紀に飲ませればよかったかな……」
「美紀姉ちゃんに関係してるってことだね?」
「まぁ、推理して楽しむこった。そいじゃ、ね。」
弟を実験台にしているというのに、罪悪感というものをあの姉は持っていないのだろうか。
しかも俺の質問には答えてくれないし。四季姉ちゃんは薬を作っているというのは聞いたけど、まさか本当に作っているなんてなぁ……しかも弟が実験台とか、普通は無い。
そこまで考えて、俺は体を洗おうとしていたことを思い出す。
このままだと冷えるから、どんな薬か推理するのは後にして、さっさと風呂からあがってしまおう。
風呂からあがってから、別に薬の効果らしきものは表れず、亮介兄ちゃんの課題を手伝ったり、
地下室を覗こうとして四季姉ちゃんからストレートを食らったり、両親も帰ってきたので夕飯を食べたり、夕飯の時の秋刀魚が苦くて皆辛そうだったりと何も変わらずに過ごせた。
「薬は失敗かな?」
「う~ん、うまくいったと思ったんだけど……」
居間のソファーに座りながら首を捻って考える四季姉ちゃん。
俺は床に座っていて、少し見上げる形になっている。だから四季姉ちゃんの表情がよく見えるのだが、
凄い悔しそうにしている。それほどの自信作だったのかな?
「そんなに自信作だったの?」
「そりゃあ、まぁね。だって弟を実験台にするぐらいには出来たんだもの。」
「出来た「はず」じゃ、ないの?」
ニヤニヤしながら実験台にされた恨みを持ちつつ皮肉を言ってみる。が、まるで反応しない。
どうやら本当に落ち込んでいるみたいなので、俺は「おやすみ。」と一言声をかけると、明日に備えて眠るために自分の部屋へと向かうことにした。
俺は今、内心何も起きなくて良かったという気持ちと、成功したらどんな効果が表れるのかちょっと気になるという気持ちが入り混じった状態で階段を上っている。最初は成功しなくて良かったという気持ちが大きかったのだが、次第に好奇心の方が押してきている。体に異変はなかったのだし、こうなったらやっぱり気になってくるのが人間ってやつだろう。
今度は無謀にも自分から実験台になろうかと考えつつ、部屋のドアノブに手をかけたところで、ふと誰かに呼ばれた気がした。
「誰?」
廊下の奥にはスーちゃんが一匹。他には誰もいない。下から聞こえた音でも、部屋から聞こえた音でもない。
「……気のせい……だよな。うん。」
スーちゃんから目を離して、ドアノブにかけている手を捻って、部屋を開けた時。
「浩介。」
「……!!」
今度はハッキリと聞こえた。この家族の誰でもない、聞いたことの無い声が。ハッキリと俺の名前を呼んだ。背筋が凍るとはまさにこのことだろうか。昼間の時とはまた違った汗がダラダラと流れているのが分かった。
「……聞こえていないのか?それとも無視しているのか?どっちなんだ?」
「ひ……」
情けない声を出して背筋を伸ばす。緊張して体が動かないし、助けてもらおうにも全く声が出ない。
誰に話しかけられているのか分からないこと、それに俺の名前を知っていることが怖かった。
このまま殺されるんじゃないかと、頭の中で最悪の考えが巡る。
「ああ、そのなんだ。別に取って食おうとしてる訳じゃないし、そんなに怖がらなくてもいいと思うぞ?」
取って食おう、という言葉が引っかかった。人間、ギリギリまでいくと逆に冷静になるらしい。怖くて体が動かないのに、頭だけはしっかりと働いているようだ。
「取って食う……?」
「ああ、だからそんなことはしないと言って……もしかして俺が誰だか分からないとか言うのか?」
「あなた誰なんですか!?」
名前が聞けるチャンスができた瞬間、何か大切な糸が切れて、大きな声を張り上げてしまった。
「っ……ビックリした。いきなり叫ばないでくれるか?」
「叫びたくもなりますよ!いきなり聞き覚えのない声をかけられて取って食われないとかいう状況になって動けないんですから!」
もう半分パニックになって意味が通じない言葉の羅列を叫んだ。
「浩介!?どうしたの!?」
「おい!何があったんだ!?」
部屋から咲姉ちゃんと亮介兄ちゃんが勢いよく飛び出してきてくれた。
「助けて!知らない人が後ろに!!」
大きく叫んだ後に、沈黙。なんで動いてくれないんだろう?早く、早く助けて欲しいのに!
「浩介。お前寝ぼけてるのか?」
「後ろにいるのは……スーちゃんよ?」
「え?」
ゆっくりと顔を後ろに向けると、そこには呆れた顔をした二人と一匹がいた。
「え……だって、後ろから聞き覚えのない声かけられて、怖くなって動けなくて、それで……」
頭の中がゴチャゴチャしてきた。うまく考えがまとまらなくって、しばらく呆けていた。
「ねえ!成功したの!?」
「キタ!よっしゃ!失敗はしていなかったんだよ!!」
下の階からいきなり地下室コンビがとんで来た。その様子といったらまるで新しい玩具を貰った幼い子供の様で、ちょっと笑えた。
「ちょっと、浩介!成功したの!?スーちゃんの声聞こえたの!?」
「……スーちゃんってもしかして雄?」
「あら、家族の性別を知らないなんて、ちょっと酷くないかしら?」
「へ~、スーちゃんって雄だったのか。初めて知ったぜ。」
「スーちゃんって呼ばれているからてっきり私も雌だとばかり……」
皆して思い思いのことを言ってるけど、俺が答えるのは一つだけだよな。
一つ深呼吸をして、一番テンション上げてる四季姉ちゃんに向かって、俺が導き出した答えを言ってみる。
「もしかしてさ、薬って……スーちゃんの声が聞こえる…とか?」
「う~ん、80点!正解は動物と会話できるようになる薬よ!成功したみたいね?」
周りが一気にざわつく。「四季姉ちゃんスゲェ!」とか「やったわね、四季!」とか「すごいですねぇ~。四季も美紀もやれば出来る子よね!」とか「……大丈夫か?浩介。いきなりで悪かったな。」とか。
ああ、意識が遠のいていくのが自分でも分かる。
無闇に明るい亮介兄ちゃんと。地下室にこもって薬を作ってる四季姉ちゃんと。青大将を家族に加えて、尚且つ四季姉ちゃんと一緒に地下にこもる美紀姉ちゃんと。料理好きで料理オンチなどこか抜けてる咲姉ちゃんと。鍵を何重にもしたりする防犯大好きな両親と。さらには動物と話せる俺、ときたもんだ。こんな家族は他にいないだろうな。
唯一普通であった学校も、明日から普通ではなくなるかもしれない。
あぁ、もう。普通の家に憧れるよ……どうやったらウチみたいになるんだ?
俺の意識はそのままゆっくりと途切れていくのだった。
ハイ、こんな小説を読んでくださった方にまずは感謝の言葉を!ありがとうございます!
ここまで書くのは始めてでした。キツかったです……
ダラダラになっちゃってます。スミマセン。
それに、終わり方が雑で本当にスミマセン。
この次から動物との掛け合いを入れていきたいと思っています。
意見やアドバイスや駄目出し等をくださる方がいらっしゃれば、宜しくお願いします。