第七話 首都防衛戦と暗黒 1955.12
……ここ……れだ。…………るよ。……ミラ……………………
「……ㇻ……ラ……ミラ……ミラッ!」
ミラが目を覚ますと目の前にはルークがいた。
「だ、大丈夫か? 随分うなされてたぞ……。……また、夢を見たのか?」
ルークが心配そうに訊ねた。
「ぅ、うん。とてもむなしい、さびしい夢。誰かの声? ……でも、それ以上は思い出せない。思い出そうとしたら心が……イタイ」
ミラはものすごい汗をかいている。
「なら思い出さなくてもいい。無理に思い出さなくていいんだ」
ルークが優しく包むようにそういった。
「うん。わかった。……ところでここは……どこ?」
「ああ。首都に向かっている道のりにいるんだが、お前が急に横になって眠り出すからテントを張って小休憩をしているところだ。今日は早く起きたからな。疲れたんだろ」
「わ、私そんな迷惑なことを……ごめんなさい」
「いいんだよ。首都まで少しだし、みんなも疲れ気味だったから、偵察も兼ねてここで待機しているところだよ。……それにみんなの体調も気にしていなかった俺の方が悪い。まあもうすぐ偵察隊も帰ってくるだろうから準備でもしておけよ」
「へー。ルークにも優しいところあるんだぁ」
「べ、別に隊の事を気にするのは当たり前だからな」
ルークが慌てて応えた。
「ふーん。当たり前なんだ。……ホントにそれだけの理由で?」
「ほ、他に何があるって……」
ルークが顔を赤くして応えていると、偵察に行っていたジャックがテントに入ってきた。
「隊長、ただいま帰還しました……って何やっているんですか?」
ジャックは二人をジロジロと見た。
「ハッハーン。隊長もなかなか隅に置けないですね。じゃあ僕は失礼しまーす」
ジャックは笑い顔で外に出て行った。
「お、おいまてっ。偵察の報告は?」
顔を真っ赤にさせたルークはあわててあとを追いかけて外に出た。
残されたミラは何が起こったのか訳がわからなかった。が、とりあえずルークの恥ずかしいことを言われたのだなと他人事のように勝手に解釈した。
「それで状況は?」
「敵はまだ到着していよーだぜ。探してみるとここから三キロ手前に敵部隊らしき動きを発見。数は小隊二つ分ほどだ。それと士官生たちについてだが、どうやら外にはいないようだ」
ルークの問いにジャックが応えた。そこにはミラ以外の部員が集まっていた。
「なに? では首都の周りには味方がいないのか?」
「おそらく旧王城の中に配置されていんじゃないかって……。俺的にはわざとそうしているようにも思えたんだがな」
「やっぱりか。……どうやら軍上層部の誰かが敵側に情報を流出しているんだ」
「ろ、漏えい?」
「報告ありがとう。……よし。全員準備をしろ。我々は士官生を援護しつつ、敵とコンタクトをとっている思われる軍上層部を見つけ出し確保する。おそらく攻めてくる敵は手ごわいだろう。みんな心して作戦にかかれ」
ルークの合図でミラを含む十数名の少数の部隊が配置についた。
ミッション情報 ミッション名「首都防衛戦」1955.12
ブルー小隊を二つにわける。一つはコゼット率いる上級生部隊、もう一人はルーク率いる新人部隊。
まずコゼットたちが首都中心部にある旧王城の前で待機、敵が攻めてくれば交戦。次にルークたちは旧王城の中にある旧王室前で待機。旧王室にはいまだに大統領がいる。また他にも士官候補生からなる小隊が3部隊に大統領の護衛軍が少数いるので協力する事。
現在、他の政府関係者及び民間人は地下に避難しているので優先的に大統領を死守。
以上 Rook Anjir
ガイア中尉 「こちらエドワード・ガイア。敵軍が首都に入り、城前にある直線の大通りに来た。敵との距離は三十メートル。……たった今交戦準備を終了した。いつでも戦える。また敵の数が判明した。中隊が一部隊、歩兵五十ほどに戦車も見つけられる。敵戦車はコゼットの乗っているケーニッヒ号で対応する。以上だ」
アンジール少佐 「了解した。ではケーニッヒ号を先頭に、歩兵を後方に配列し、まずは敵陣形を崩せ。できるだけ戦車を盾にしながら戦え。また敵戦車の動きに注目しながら戦え。……では戦闘開始」
クロウ大尉 「では早速この榴弾砲で蹴散らすぜェ」
ルークの合図とともに戦いが始まった。まずはコゼットがケーニッヒ号に積んである榴弾を発射して歩兵を半分程度に減らした。
クロウ大尉 「よし。フレッド、クジャ兄弟。両サイドからのコンビネーションアタック(CA)だ」
F.コーズ中尉、K.コーズ少尉「よっしゃー。いっくゼェー」
フレッド・コーズとクジャ・コーズは大通りの両サイドから敵陣に向かって突っ込んだ。二人とも息が合い動きが速く、敵の的が定まらず弾があたらなかった。敵歩兵が攪乱しているうちに二人はCA「ブラザーファイヤー」で敵のサイドから一気に中までえぐり込み近接戦を開始した。
クロウ大尉 「マイト。二人の援護にまわってくれ」
カネリアス中尉「了解した。私の命中力は百発百中だ」
城の屋上にいたマイト・カネリアスはそういうとスナイパーライフルの引き金に指を掛け、クジャの後ろから襲ってくる敵兵の頭を見事に当ててみせた。
K.コーズ少尉 「ありがとー。マイト中尉」
カネリアス中尉 「問題ない」
クロウ大尉 「さ、これからは俺の出番だ。後ろにいる戦車さんよぉ。出てきてくれないかな?」
フレア 「フフッ……、誰かが私を呼んでいるようだな。では行ってみようか、我が戦車と共にな」
一般兵 「大将。ここは我らに任せて下さい」
フレア 「わかった。ではBチームは我が戦車の後ろにつけ。これより城内への強行突破を開始する」
轟音と共に戦車はスピードを上げてコゼットの乗るケーニッヒ号と城に向けて動き出した。
クロウ大尉 「そんな突っ込んで来られたら攻撃しちゃうよっ……と」
バッッッコーーーン
そういうとコゼットは主砲のM25MBを発射した。辺りは爆発的な音により一時的に静かになった。そしてすぐに銃撃戦の音が聞こえだし、砂ぼこりで視界が悪くなった。
クロウ大尉 「さーて敵はどこに消えたんだ?」
フレア 「フハハハハ、……かゆいかゆい。そんな火力じゃこの防御は崩せんよ。
砂ぼこりからはにぶく赤色に輝くフレアの戦車が出てきた。
クロウ大尉 「ま、まさかガルンを含んだ戦車だと!?……どうして大国側がガルンを持っているんだ?」
フレア 「ハハハハハ、……さあこれで終わりだ」
ルークは無線からの連絡が途絶えたことに気づき、城内の部隊に戦闘態勢をとるように指示した。
その途端、城の扉が戦車の突撃により破壊され、後ろからは敵兵三十人ほどが入り込んできた。
アンジール少佐 「ネオッ。援護してくれ」
シャドゥール准尉 「……」
ルークは格闘戦に持ち込みながらネオに要請した。うつ伏せの状態で2階から狙っていたネオは、スナイパーライフルについた光学照準器から覗き込んだ。そしてルークの背後にいた敵兵を無言で倒した。さらにオートマチック(自動装填)方式であったため、リロードの時間を最小限にしながら敵を撃っていった。
また突撃兵のマーガレットは肩に弾を被弾するも、ひるむことなく機関銃で撃ち続けた。
ファミリア准尉「マーガレット。救急キッドを持ってきたわ」
パラ准尉「感謝しますわ、ミラ准尉。……では次のリロードの時にお願いできるかしら?」
ファミリア准尉「ええ、任せて」
そういってミラはマーガレットの傷を治す。
城内は静かになった。侵入してきた敵はすべて倒し、残るは戦車の中にいる敵のみとなったからだ。しかし、中からは誰も出て来ず、ルークたちは一階に集まった。
「出てこい。貴様は完全に包囲されている」
ルークがけん制しながら言った。
「貴様か、レオンの言っていたガキとは……」
そういってフレアは固く閉ざされた戦車の扉をあけ、中からその大きな巨体を出した。
「まずは手を挙げろ」
「ハハハッ。レオンが誰なのか知らないだろ? あの時、あの中部司令部の作戦で一人の女を殺したのは俺の部下だよ」
フレアは見下ろしながらあざ笑うかのように言った。そしてミラはとっさにルークの顔を見た。彼の顔は目を見開いて、怒りが具現化されたようだった。
……だがルークは歯を食いしばって怒りを精一杯抑え込んだ。
「……もう一度言う。手を挙げろ」
ルークはゆっくりとそしてはっきりといった。
「そうキレるなって、ほら挙げたろ? これでいいんだろ?」
「そのまま妙な動きはするなよ」
「あぁ、そちらさんが何にもしなければこちらからは何にもしないよ」
「まずは貴様の名前と階級を名乗れ」
「おうおう。俺の階級聞いたらぶったまげるぜ? 俺の名はフレア・シャドゥールだ。大国軍の大将だ。……つまり、軍の一番上にいる元帥の次の階級だ」
フレアの言葉を聞いたネオがスナイパーライフルを捨てた。そして小銃をとり出しフレアに向けて構えた。
その行動を見たルークはネオのファミリーネームがシャドゥールだったという事に即座に気づいた。
「ネオ、銃をおろせ。あれは別人かもしれないんだぞ」
しかしネオの耳にはルークの声は聞こえなかった。
「おいおい、銃をおろせって言ったのはてめーらだろ? そんな妙なことをしたら俺も反撃しちゃうぜ」
フレアも武器をつかむ準備をした。
「ま、待ってくれ。フレア大将といったな。すぐに戦車に入ってここから出て行ってくれ」
「ルークなんてこと言うの?」
「ミラ、今は仕方のないことなんだ」
「?」
「ホホォ。なかなか奇抜のアイディアだな。だがそれはできぬ相談だ」
すると銃を構えていたネオが銃口を下げた。
「……お前には……家族はいるか?」
ネオは顔を下げて小さな声で言った。
「あぁ? 俺に家族だと……? いたよ。10年ほど前にな。それがどうしたというのだ?」
「やっと……やっとこの時が来た。俺はようやく“オマエ”に復讐する時が来た」
ネオは大きな声でそう叫ぶとフレアに向かって走っていった。
「やめろ! ネオッ!! ……ぐぅあぁ」
クルトはネオを止めようと右足を踏み込んだが、以前被弾した右足首から突然激痛がきてその場に倒れてしまった。
「ルーク!? どうしたの?」
慌ててミラがルークのところに駆け寄る。
「ネオ……。やめろぉ……。やめろぉぉぉぉぉぉ……」
倒れながらでもルークは大きな声で叫んだ。
ターーン カランカラン
乾いた銃声が鳴り響いた。
そして撃ち放った銃弾はネオの胸に直撃した。
「か、かあさ……」
ネオはその場で倒れた。
「そ、そんな……」
ルークは目を疑った。……しかし10メートル先に倒れているのはネオであった。
「なぜだ? なぜネオを撃った?」
「いったろ? そちらが妙なことをしたらこちらも反撃す……」
「それがお前の息子だったとしてもかっ?」
その瞬間、フレアを含めたその場にいたすべての者が驚き静まりかえった。
「フレア大将、お、俺はルーク・アンジール少佐だ。そして彼の名はネオ・シャドゥール。あの一族、ネール族の……末裔です。……その証拠に今もペンダントを持っています」
フレアは戸惑いの顔を隠せなかった。
「まさか、サ、サーシャはあの子を一人で……し、しかし私はサーシャを殺してなどいない。わ、私は……」
「い、家を出て行ったんだろ?」
するとネオが起き上がった。
「ネオ。生きていたのか? ……ハァ」
ルークは未だに倒れ込みながら話した。周りの者は話にまったくついていけてなかった。
「あぁ、……どうやら母さんが守ってくれたようだ……」
ネオは戦闘服の中から弾痕のついたペンダントをとり出した。
「“オマエ”は母さんと七歳の俺を残し逃げて行った。そして俺を世話していた母さんは疲労とストレスで死んだんだ。……なぜだ? なぜあの時家を出て行ったんだ? 答えろ!」
ネオは泣きながら訊いた。
「それは言えないことだよ。……ルーク少佐、といったな。あなたの言う通り私はここから手を引かしてもらおう。一つだけ言っておくネオ・シャドゥール、私は悪くない。……それではまたいつか会おう」
フレアは最後にネオの顔を見た後、戦車の中に入って撤収していった。
「す、すまないネオ。……ハァ、お前の目的を邪魔してしまって……」
ネオは床に膝をついたまま動かなくなってしまった。
「しゃべらなくていいから、ルーク」
ミラは膝の上にルークの頭を乗せ、大量の汗を拭きとった。
「す、すまない……」
そういってルークは目を閉じた。
「おい。敵の戦車が帰っちまったぞ……って? こっちはもっと大変そうじゃねーか」
コゼットや他の上級生が城の中に入ってきた。
「私たちも詳しい事情はわかりませんわ。事情を知っているのはルーク少佐とネオ准尉だけのようなのですけど、少佐は怪我で意識が跳んでしまい、准尉は放心状態でございますわ」
マーガレットがコゼットたちのところにいき小声で答えた。
「? よくわからねえが、二人から聞くしかないって事か。……とりあえずルークの意識が戻るまでは俺が指揮する。……それから首都の安全は確保したから、あとは士官生で何とかなるだろ。俺たちはスタンピアまで戻り、ネオとルークの様子を見よう。ルークの方は急を要しそうだしな。他になんかないか?……よし、それでは急いで帰るとするか」
コゼットは士官生に後の事はまかせ、急いでCOCBのあるスタンピアまで戻った。
その頃、ネールランド軍上層部のとある部屋。
「あのブルー小隊が首都を防衛したそうだな」
「はっ、しかしおかげで作戦は失敗。フレアは撤退せざるをえなかったようです」
「おそらく彼の過去に関係があったのだろう」
「とりあえずはいかがなさいましょう?」
「フッ。ブルー小隊には特別に褒美をあげようじゃないか」
一人はそうニヤリと笑った。
――暗黒のオーラは動き出す――