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㊙抹消された孤児たちの部隊  作者: 飛守 ツヨシ
立ち上がるマエストロ
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第六話 首都防衛戦発令     1955.12

 十二月に入った頃。結局、敵は国境から少し下がった大きな都市まで撤退していた。未だに誘拐されているワトソン総司令に代わり、新たな総司令を就けるべきだという軍上層部の声が高まってきた頃だ。


 朝の五時すぎ、外はまだ暗い。冬至に近づくにつれて日が昇るのが遅くなった。


 突然ミラは目を覚ました。

「ハァハァ……ハァハァ……」

 息を大きくきらしながら唾をのみこんだ。

「何だったのだろ?今の夢。思い出せない、でもなんか心が……むなしい?」

 ミラは何かの夢にうなされていたのだが、本人は何の夢を見ていたのか思い出せないらしい。

「五時か。なんか目が冷めちゃったな。……外にでも出よ」

 そういうとミラは部屋から出て寮の廊下を歩き出した。そして歩きながら必死に夢の内容を思い出そうと努力した。

「あれ? あそこはルークの部屋? こんな時間に明かりがついてる」

 ミラはルークの部屋から明かりがもれているのに気づき、部屋の前まで来た。


 コンコン


「ルーク、起きてるの?」

「ん、ミラか? どうしたんだこんな時間に……」

 扉の向こうからはルークの声が聞こえた。

「ちょっと目が覚めちゃって」

「外は寒いだろ?入ってもいいぞ」

「えっ?でも……う、うん、わかった。お邪魔するね」

 ミラは恐る恐る部屋の扉を開けた。中には机に向かって勉強をしているルークの姿があった。

「ごめんね。いきなり来ちゃって、部屋の明かりがついていたから」

「ハハッ。別にいいんだよ」

 そういってルークはペンをおろしミラの方に体を向ける。

「……いつも勉強しているの?」

「あぁ、朝五時に起きて二時間ほど……。朝は気持ちがいいからな」

 ミラは勉強のことを始めて知って驚いた。

「それで、こんな時間にどうしたんだ? 悪い夢でも見たのか?」

「うーん。悪い夢だったかは覚えてないからわからないのだけど、起きたら心がむなしいっていうか。さみしいっていうか」

「そうか……。ま、好きなだけここにいたらいいよ。ほら座って座って」

 そういってルークは体を机にまた向けて、ペンを動かす。

「今どんな勉強しているの?」

 ミラはベッドに腰をおろしてあたりを見渡しながら訊いた。

「うーんと、命令とか状況に応じた戦い方とかかな」

「へー。意外と真面目なんだね」

「そうでもないよ。……ただしなきゃいけない事をしているためさ」

「ふーん」




 時間はゆっくりと流れた。その間、ミラは勉強しているルークの姿をじっと見つめた。

「ねえルーク?」

「ん? なんだ?」

 ルークは顔をミラに向けたが、ミラは慌てて顔をそむけ、赤くした。

「え、えーと。何言おうとしてたんだっけ? ……あ、そうだ。そろそろ帰るね。ほらみんなが起きてきちゃう。いろいろとまずいでしょ」

「え? ああ、そうだな。じゃあまたあとで」

「うん。お邪魔したね。そ、それじゃあ……」

 ミラは忍び足で、素早く部屋の外にでた。

「フッ……何言おうとしたのかバレバレなんだよ。……昔から」

 ルークはそうつぶやくと、また勉強に集中した。


 一方、部屋の前に立ったままでいるミラは自分に罰を与えている。

「バカだな、私。……さっきなら絶好のチャンスだったの…。昔から言えないままで終わっちゃうのかな? そんなの……いやだよ」

 ミラは扉の前にしゃがみ込んだ。

 空は徐々に明かりを取り戻しつつあった。




「フレア大将、まもなく夜が明けます。各隊作戦準備完了しました」

「うむ、ご苦労」

 東の空からは薄く黄色い光が拡がってきた。

「こちらフレアだ。全員聞こえてるか。我が隊は捕虜から得た情報により作戦を組んできた。……そしてただ今よりネールランド共和国の首都、グリフィード奇襲作戦を開始する。まず、空から敵軍を蹴散らす。そこにレオン中佐率いる陸部隊が進軍。おそらく敵は兵力を集中させるだろう。その間に私が自ら、逆サイドから敵首都に奇襲をかける。私は首都に近い国境から敵国に進軍する」

 フレアはマイクを手に取りミッションの大まかな流れを確認した。その声は、全部隊にいる通信兵から聞こえてくる。

「大将、陽動戦もそろそろばれ始めるぜ。いいかげん別の作戦にしなきゃ」

 レオンが忠告した。

「ふむ。だが敵は油断しているに違いない。……あの捕虜がいろいろ教えてくれたおかげだ。首都は今ガラ空きだって」

「日が昇りました」

「よし。全軍出撃。すべての敵を蹴散らせ!」

 フレアの合図とともに一斉に待機していた敵が出撃した。




「緊急警報、緊急警報。たった今敵軍3部隊および空軍1部隊が国境付近に出現。我が軍と交戦状態に入ったという情報が入った」

 COCBにも情報は伝わり、兵士が集められた。また、現在もブルー小隊を指揮しているのはルークだった。

「ねえルーク。私たちはどうするの? COCBも他の戦闘訓練科の部隊も出撃しちゃったよ」

「それだけじゃない。首都にある中央作戦総司令部(CSTC)もナウジ平原の南にある南部作戦司令支部(SOCB)も出撃を決定している」

 ミラとコゼットがルークに問いた。

「地図を持ってきてくれ。……状況を確認する。交戦中と情報が入ったのはこの戦域、ナウジ平原の南部だ。部隊は陸三と空一の小規模だ。……多すぎる」

 ルークは地図を見ながら疑問を感じた。

「どういう事?」

「敵は前回より少ない四部隊だ。前より半減している。……なのに味方はどの部隊も出撃している。そしてナウジ平原の南部に集まっている。いくらなんでも多すぎだ。こんなことをしたら……。まさかっ! 敵は陽動をしているのか?」

「また? なら敵の狙いはなんなんだ?」

 コゼットが訊いた。

「わからない。ガルンを狙うのなら南部なのだが……。マーガレット、CSTCとSOCBの残存部隊の数は?」

「……まずSOCBが中隊四、小隊十三と主にガルン防衛隊が配置されていますわ。それからCSTCは……そんな。CSTCに配置されてあるのは士官学校の学生部隊で三小隊だけですわ」

 マーガレットは驚きながら応えた。

「そんな。首都を士官生だけに任せるなんて……。よし、敵がどちらを攻撃するかわからないが我々は首都、グリフィードへ出撃する。何としても首都を守りきらねばならない」

挿絵(By みてみん)

 ルークは地図にかかれた首都の位置をさし、急いで準備するよう伝えた。


 ――首都防衛戦が勃発――


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