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第四話 復讐は燃え上がる 1995.11

 太陽が昇り、朝が来た。

 あのあと、敵は国境付近まで撤退し休息をとっていた。こちらから攻撃する手はあったが、COCB総司令官、オズ・ワトソンが誘拐され軍の混乱は極限まで達していた。そのため、戦闘訓練科への命令は、一時的に各部隊の隊長に任せるという決断を下された。そういうわけで、ブルー小隊新部隊長になったルークに悲しんでいる暇は与えられない。

 ルークは小一時間外に出て仰向けになり、何かをずっと考えている。

「……大丈夫かな。ずっとああしたままだけど……。」

 心配そうに遠くから見つめるのはミラだ。

「心配するな。あいつの心は強い。俺はお前のほうが心配になってくるぜ」

 応えたのはコゼットだった。

「やっぱり私いってくる」

「お、おい……。やめとけって」

 そういってミラはコゼットの制止を振り切って、ルークのところまで駆けつけた。

「……ほーら。何そんなところでウジウジしてるのよ。他の隊は出撃しちゃってるよ。……もうちょっと部隊長としてシャキッとしなさいよ」

「別にウジウジしてねえし、少佐の事を考えていたわけでもない。ただ、この部隊の隊長としてのけじめと、これからの事について考えていたんだ」

 ミラはいつも通りの表情をし、心配させる姿を見せまいとした。それに対しルークの声はなめらかで、優しくつつみこむようだった。

「あっそ。心配した私がバカだったわ」

 ミラはため息をつきながらそうボソッとつぶやいた。

「だから心配いらねぇって言ったろ?」

 コゼットもやってきた。

「それでルーク、これからどうすんだ?総司令でも追いかけていくか?」

「今はまだ動かない方がいい。総司令官を連れ去った理由がわかるまではここで待機しようと思っている。敵の目的はガルンで変わらないはずだから……」

 ルークはすっと立ち上がる。

「まずは情報収集に努める。特にこういう時に敵は何らかの作戦を練ってくるはずだ。そのまでは部隊で訓練を行う。今まで部隊での訓練はあんまりなかっただろ?」

 ルークはそれほど痛くはないが、違和感の残る右足首に負担をかけないように、そして誰にも気づかれないように歩いていた。ミラはその様子を無言で見ていた。

 ルークは部隊のみんなを部屋に集めて改めてあいさつした。ミラの姿は見当たらなかったが。

「今日からこの隊の部隊長に就いた。ルーク・アンジール少佐だ。今後君たちの指揮をする。よろしく頼む。……では早速だが、今後の予定を言っておく。今後は情報収集に努め、いち早く敵の動きを読む。敵が動くまでの間は、この部隊のチームワークを強める訓練をしていきたい。主な訓練内容だが例えば情報伝達の速さ、仲間とのコンビネーション攻撃などの習得を考えている。それから、指揮官が俺になったっていう事で、気にくわないやつが出てきたり、パレット少佐とはやり方が違うというところもあるかもしれないが、考えは同じだ。誰一人として無駄死になんかさせない。生きて平和な世界にする。っ……」

 ルークは何かを言おうとしたが微笑しながらあきらめた。

「……それでは訓練を始めよう。何か質問などはないか?」

「別に気にくわないっていうわけじゃないのだが、今まで通りの呼び方でいいか?年下に少佐とか隊長とかって言いづらいのだが……」

 上級生のフレッド・コーズだった。彼は茶髪にストレートな髪をしている。いつもお気に入りの飴玉をなめている。

「確かに、ここは軍じゃないんだしそれぐらはいいよな」

 続けて行ったのはフレッドの弟、クジャ・コーズであった。彼も茶髪ではあったが、少し髪はちぢれていてぽっちゃりした体づきをしていた。

「勿論だ。俺もそういう風に呼ばれるのには違和感がある。みんなはいつも通りの呼び方で呼んでくれ。他には……?」

「あのー。みんな訊かないのですが、……コンビネーション攻撃について知らないのは僕だけでしょうか?」

 周りを見ながら恐る恐る訊くのはクルガだ。

「いや、その名前は俺が付けたのだが、やっぱりコンビネーションアタックの方がかっこよかったか?」

「はー……。違うだろルーク。それはどういうものかって訊いてるんだ」

 コゼットはあきれた顔できつく言った。

「あぁ、なるほど……。確かに何の説明もしていなかったな。まぁ簡単に言うと、自分の得意としている戦闘方法が、状況に応じて他の奴とイキがぴったりと合いより効果的に敵を倒していくって事さ。そうすると今後の戦いで急な分隊にならなければいけない時に、どのように分ければいいのかがやりやすくなる。やり方とかは実際にやってみりゃわかるだろう。よし。今からやるか。まず、誰でもいいからペアを組んでくれ、仲のいい奴悪い奴、あまりしゃべった事のない奴でもいい。2人でも3人でも好きなようにやってくれ。それができたら各自訓練場で習得に努めてくれ。では解散……」

 そういうとルークは真っ先に後ろの席に座るネオの所に向かった。他の人たちもペアを組みはじめ、早速部屋の外に行くペアも見られた。そしてルークはネオの前に座り、ネオはルークを睨んだ。

「なに? まさか俺とコンビ組もうってか? 冗談じゃない……」

「なぜ断る?」

「なぜって、お前と組んで何の得がある?」

「お前からしたら得ならないのかもしれないな。……お前とは初めてだな、こうやって会話するの」

「……」

「お前にはいくつか聞きたいことがあるのだが、訊いてもいいか?……一つはここ部隊に来た一番の理由はなんだ?」

「そっちを聴き出すのが目的か?」

「いや、そっちは俺のただの野次馬根性だ。一番はコンビを組みたいと思っているよ」

「なら応える必要はない。俺は一人で動く。余計な心配はするな」

「別に心配なんかしてないさ。ただ、そういう考え方を持ったやつがいるとこの部隊が危険だからね。ほっとけないのさ」

「……」

 ネオはしゃべらなくなった。

「まっ、お互い仲良く行こうぜ。別にお前の事を嫌っているわけじゃないし……」

 ネオは部屋には自分とルークの二人だけになったのを確認した。

「ここだけの話だ……俺はある民族の末裔だ。……ネール族、聞いたことのない言葉だろ? もう何百年も前に繁栄した王族さ。……主にナウジ平原を中心に領地を治めていた。そして250年ほど前、まだこの国をネール族が治めていた時代。市民による大きな革命が世界中で起こった。市民は王への怒りから互いに団結しあい、そして王族である俺の先祖を次々と公開処刑としたのさ」

「お前が一人でいるのはそういう理由があったのか」

「さ、もう分ったろ。俺は勝手にさせてもらうぜ」

 そういってネオはゆっくりと部屋から出て行った。

「んー、まだ聞きたいことは聞いてないんだが。また次にするか。……ところでもう出てきてもいいぞ」

 するとガタガタッと音を立てながら、部屋のロッカーからミラが出てくる。そして服や髪についたほこりをふりおとす。

「えへへ、ばれてたか~」

 そう照れたそぶりを見せながらミラが言った。

「俺の耳は特別にいいからな。どんな小さな音でも見逃さない。……第一、ミラだけがさっきのブリーフィングにいなかったからな」

「……」

「それから、さっき聞いた話は誰にも言うなよ」

「うん……、わかった」

 ミラは部屋の中に、自分とルークだけなのに気づき、恥ずかしくなって顔をそらした。

「ん?どうした……」

 ルークがミラに近づいた瞬間、突然何かが堕ちてきた。


 ドッスーーン


 あたりは砂ぼこりがたち、ルークはとっさに武器を構えた。

「誰だ?」

 徐々に砂ぼこりが晴れ、一人の男が現れた。男は状況が理解できていなかった。服装は白い服に青いズボン。手には分厚く古びた本をもっていた。

「あれ?ここどこ?もしかして……戻ってない?っまさか……!!」

 男は一人でブツブツ言いながら、分厚い本をめくった。

「やっぱりー……。ここ1955年じゃないかー」

 男は肩を落とし、本を閉じた。そしてやっとルークたちの存在に気付いた。

「あっ、わたくし決して悪いものではございません。……ってこれ日本語通じているのかな?とりあえず、すぐにどこか行きますので僕の事は気にしないでください」

 男は慌ててそういうと、走って部屋から出ていった。次の瞬間、部屋の外からは青い輝きとともにその少年の姿は消えた。

 ルークとミラは固まったまま少年が堕ちてきた天井を見た。そこには傷一つなかった。

「何だったのかしら今の……」

「さぁ?……」

そして周りは何事もなかったかのように静まりかえった……。



 その頃ネオはルークと別れて部屋から出たあと、誰もいない屋上に来ていた。

「……俺の、俺の目的はただ一つ……。母さんを苦しめた“アイツ”をこの手で殺すことだ。“アイツ”のせいだ。“アイツ”のせいで母さんは……」

 そういって服で隠していた銀色のペンダントをとり出し、ギュッと握りしめていた。



 彼の復讐は大きく燃え上がる一方だった。

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