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第十二話 花と木と動物と     1955.12

 その後ブルー小隊はなんとか国境を渡り、ピンク小隊とパープル小隊に合流した。


「とりあえずブルー小隊がここまで戻ってこれたという事で、この作戦は成功したと言えるでしょう」

 エディがブリーフィングルームにほとんどの隊員を集めて報告会を開いた。

「また、新しく入隊を志願した子がいるんですが……来てくれるかね」

 すると後ろの方にいたマックスが不安と自信に満ちた顔で席を立って前に出た。

「彼の名前はマクシミリアン・ロウズ、12歳で……」

「13歳ですっ!」

「……それは失礼。……彼には親や親族はおりません。つまり孤児、というわけなんですが、どうでしょう?」

「どうでしょうって言われても……」

「彼はまだ若い。戦いをする年齢には適してないのは一目でわかるのですが……、彼がどうしても入りたいと」

「僕はぜったいに強くなっていつの日か仇をとるんだ」

 マックスは自信満々でみんなに言った。そして部屋は妙に静まりかえる。

「……仇をとるってことはそう簡単なものじゃない。必ず大きなリスクが伴ってくる……」

 ネオが立って話しだした。

「もしもお前がその仇を打つ前に死んでも、俺たちは決してその続きはしない。……意味は分かるか?」

「……僕が死んでも誰もじいちゃんを殺したやつを殺さないってことだろっ。そんなことわかってるよ……。でも、でもこのまま放っておいたら……じいちゃんが」

「その覚悟があるのなら俺は反対はしない。俺だってその年のころにはライフルを握ってたし」

 ネオはそういうと一人だけ部屋から出て行った。

「……俺には夢がある。そのうちいつかきっと、僕たちの民族が笑って暮らせるっていう夢が……そのためにも僕は戦う」

「フゥ……わかりました。本人の意思がこれほど固くては我々ではどうすることもできませんね。……では本日よりあなたをこの部隊の隊員として認めます」

 エディがあきらめた表情をしながらそう告げると、マックスの顔からは微笑みがこぼれ一目散にネオのところに向かって走っていった。

「……えーと次に、ルーク・アンジール少佐の件ですが。彼はもう戦線にもどってもよさそうですね。……現在彼は隣の部屋で怪我の具合を確認しているところです。それで予定通り今後の全指揮権を彼に引き継いでもらいますが、何か異議がある方はいらっしゃいませんか?」

「……」

「いらっしゃらないようですね……。一応言っておきますが彼の戦歴は浅いです。が、彼の指揮には死角がないように思えます。……まぁ一つ強いて言えば自分を犠牲にしてまで隊員を護るところですかね。……そのほかで言えば指揮で彼の右に出るものはいないでしょう。私を含めて……。……ということで今後は彼にこの戦闘訓練科の中隊長についてもらいます。……なのでこれからの事については後々アンジール少佐から報告してもらえると思いますのでその時になったらまた集まってください。それでは解散とします」

 そういうと各隊の隊員は次々と部屋から出て行った。



「イテッ! も、もうちょっと優しくやってくれよ」

 その頃隣の部屋ではミラがルークの足首に包帯を巻いていた。ミラはふくれっ面をしていて、ルークはそれに怯えるような形だった。

「何言ってるの。あれだけ無茶したんだから今度はしっかりと巻き付けと、か、な、きゃっと」

「イッテェ! 今のはわざとだろ!」

「へへへ、ごめんごめん。……あれ? 見てルーク。ルークの足の小指の関節が3か所あるよ」

「? それって変なのか?」

「んーとね。数千年前ぐらいから足の小指の関節が2つに退化しだしたんだって。つまり3つある人は退化前の人間ってことかな。……今になったら9:1の割合で2つ:3つなんだって」

「へー。それは知らなかったな」

「えへへ。それにしてもきれいな脚ね」

「……そんなにジロジロ見ないでくれよ」

 ルークが少し照れた顔で言った。

「……さてと、包帯も巻き終わったし。そろそろ仕事に戻りますか……次期中隊長殿」

「おうサンキューな。これで少しは無理しても――」

「だから無理したらいけないっていってるじゃない」

 ルークが軍靴を履き、ミラが怒っているタイミングでコゼットが部屋に入ってきた。

「決まったぜルーク。これからはあんたが中隊長だぜ。……? なんだもっと喜べよ。全会一致だったんだしよ」

「あぁ、だが素直に喜べそうにもないな……少なくともこんな状況じゃあ」

「……で、早速今後の予定を考えておけってエディが言ってたぜ」

「そっか。今後の予定か……まだ白紙だけどな。コゼット。どこか行きたいところはないか?」

「ルーク。あんた慰安旅行なんて考えてるんじゃないでしょうね」

「ハハッ。そんなこと考える余裕なんかないよ」

 ルークがミラに笑ってつっこんだ。

「……少し行きたいところがあるんだが……」

 コゼットが妙な顔で応えた。

「どこだ?」

「南の都市、サンタレーゼだ」

「サンタレーゼ……? あそこにはSOCBと大きな研究所ぐらいしかないのに? っ! やっぱりバカンスでしょ! あそこは冬でも暖かいからね……」

 ミラがルークに訊ねた。

「うん、かまわないよ。ここにいるのも少々不安になってきた頃だから……」

「……すまないな。現地についたら行きてぇところがあるんだ」

 そういってコゼットは部屋から出て行った。

「……」

「バカンスじゃなさそうね……」



 日も暮れ夜の寒さが強くなってきたころ、ルークは全隊員をブリーフィングルームに呼び出した。それほど大きくないその部屋には五十人を超える隊員が集まった。

「……まず自己紹介からだな。俺の名はルーク・アンジール少佐だ。ルークって呼んでくれたらいい。……それで早速だがこの後すぐに南部にあるサンタレーゼへと向かう。出発時刻はこれから一時間後の午後十時ごろだ。到着時刻は午前五時ごろを予定している。出発までの間、各自準備をしていくように……。ここまで質問はないか?」

「えーと、サンタレーゼに行く目的はなんですか?」

「今のところ目的は極秘事項とする」

 ルークはその質問に応えなかった。というより応えられなかった。……彼もなぜコゼットがサンタレーゼに行きたいといったのか理由を知らないからだ。

「……それから、ピンク小隊とパープル小隊から何か報告はないか?」

「……し、信ぴょう性はありませんが……」

 そういうとパープル小隊の隊員が立ち上がった。

「敵の指揮官一人が正規軍に紛れ込んでいるという情報を入手しました……一応報告しておきます」

「指揮官一人か……ありがとう。よしそれでは出発時刻まで解散とする」

 ルークがそういうと部屋の出口には人が集まった。


「すまねえな」

 コゼットがルークのところに近づいて詫びをした。

「別に俺は何に言ってないけど……」

「いや、いいんだ」

「……それよりどう思う? 敵の指揮官のこと……」

「上層部があれだけ怪しいんだ。一人ぐらい正規軍に紛れていてもおかしくはないな」

「……そうなるとやはり怪しいのがカーネルっていう女性か……」

「さっ、俺もケーニッヒ号の整備でもやりにいこっかな。おそらくこれで最後だろうし……」

 コゼットは最後の言葉をルークに聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさでしゃべった。ルークはその言葉が耳に聞こえていないようだが。




 午前五時 

 戦闘訓練科は南の都市、サンタレーゼの周辺に到着した。冬と思えないほどの暖かな明朝に虫たちの声が聞こえ始めた。

「すごい。たった少し南に来ただけなのにここまで環境が変わるって……。白い花に赤い花……他にもたくさんある!」

 ミラが地面から生えた冬の草花を手に取ってそれをかいだ。


「よし、とりあえず街の中には入らずにこのあたりでテントを張ろう……」

 ルークが森の中にある少し広めの平地で指示を出した。すると乗っていたケーニッヒ号から降りたコゼットがルークのそばまでやってきた。

「……ルーク。あと三十分ほどしたら一緒についてきてほしいところがあるんだが……」

「あぁ、目的の場所だね……。いいよ、その時になったらまた教えて」

「すまねぇな……」

 コゼットは再びケーニッヒ号の方に向かい中に入っていく。

「なんか様子が変だよね……コゼット大尉」

 ミラが色とりどりの花を摘んでルークの方に近づいてきた。

「きっと思い出の場所か何かだろう……。それよりもその花はフユブキソウかい?」

「うーんと、よくわからないけど綺麗だったから摘んできたの……」

「そうか……この辺の花は綺麗だからね。……あっでもフユブキソウと同じようにこの地域の冬に咲くアカノブキという花は触らない方がいいよ……」

「へ? ……なんで?」

「触るとかぶれが治まらないからさ……。赤くて綺麗なんだけど触ると後悔するよ」

 するとミラは腕いっぱいに摘んであった花々を放り投げた。

「ゲェー! そういうのを早く行ってよね。しかも赤色って結構生えてたような……」

 ルークはミラが落とした花々の中からアカノブキをつまんでミラに見せた。

「ほら! これがアカノブキ……」

「な、何平気に触ってんのよ! 触ったらかぶれるんでしょ!」

「ハハッ。ミラが触ったらかぶれるだろうね。……でもちゃんと花と会話して、意思を通せばつながりあえるんだ」

「……? あなた頭でも打った? 花と会話するって……」

「連れ去られていたときに、その道中にある花や木や動物たちが話してくれた気がしたんだ。だからこっちも心を開いて話をすれば通じ合えて……おかげでさびしくはならなかったよ」

「……何のこと言ってるのかさっぱりだわ」

 ミラがルークから一歩距離をとった。


 ―東の空から太陽の明かりが拡がり出しす―


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