四話 ダニーとアンジェラ
演習場の様な広い間取りの部屋。紅髪の女はダニーを投げ飛ばした。
「いてて、アンジェラ、もうちょっと加減をしてくれたっていいんじゃねぇか!?」
「武術に手加減は必要ないわ。立ちなさい」
ダニーが起き上がると、アンジェラの手はしなやかにダニーを吹き飛ばす。
受け止める姿勢で挑んだダニーを見て、追撃を仕掛ける様にアンジェラは走り出した。
「そもそも遅いのよ! 来るのが遅すぎて練習が遅れたじゃない!」
「おめぇは強いがちょっと武道にこだわり過ぎてんじゃないのか」
アンジェラの回し蹴りをかわすと、ダニーはアンジェラの髪を掴んで頭突きをかました。
「武道ってのが全て正しいと思ってんじゃないだろうな」
頭突きによろめくアンジェラの胴衣を掴んで、ダニーはアンジェラを引き寄せて後ろ回し蹴りをかます。
だが、アンジェラはそれを受けても怯まなかった。
「……力が無い奴に、正義を騙る資格すら無いのよ」
ダニーの胸倉を掴んで、彼女は自分の服を掴まれたままダニーをこかす。
その衝撃でダニーは手を離してしまい、彼女を放してしまった。
「力が無ければ、それは只吠えるだけの負け犬なの――」
「そりゃあ違うぜ。正義ってのはな、力を振るう事が、正義なんじゃねえ。もっと解りにくいもんなんだ」
ダニーが立ち上がると、彼女は掴んだ手をそのままにしてダニーを投げた。
何度投げられても立ち上がるダニー。
「再び、訊いてやる。武道が、正義だとでも言うのか?」
「そうよ」
「ならその力、蹴落とす為に使うんじゃねぇ。守る為に使え」
今度はダニーがアンジェラの胸倉を掴んで、投げた。
「……解らないわ」
「いずれ分かるさ」
ダニーはにやりと不敵の笑みを浮かべた。