三話 荒ぶるアンジェラ
清楚な棚がいくつも並び、パソコン一式と電話一台が置かれたその部屋で、紅髪の彼女は苛立っていた。ダニーの闊歩する音が聞こえてくると、彼女は安全ピンで留められた書類を右手に持って、構えた。
紅い髪の鑑識は、スーマン達が入ってくるなりいきなりダニーに書類を投げ渡し、出て行った。
「遅いわよ、バカ」
スーマンはたじろぐような仕草をとると、ごめんと呟く。
暫くして書類を見ているダニーが、スーマンににやりと笑いながら言った。
「お前の言う可能性もちょっとは上がったってもんだ」
そう言われてスーマンもその書類の一頁を見た。
男の名前は、ルド=ハミルトン。36歳。職業は小説家。三日前より〆切を守らず編集者が会いに行った所、行方を晦ましていた。娘のルナに電話で聞いた所、ルカナーン家とは全く関連性も無いという。
文章書いたのウォッキーだな、とスーマンは呟くととりあえず疑問を考えてみた。
「どうしてルド=ハミルトンは全く縁も無いルカナーン家に行ったんでしょうか。今の調査段階では彼等が接触していた可能性はわかりませんけど……」
「どちらの可能性もあるな。他にも、ルドを殺す為の工作、とも考えられるんじゃないか? あの男の死体が暖炉の前においてあって死体は痛んでた。死後時差を隠す為とも考えられる」
ダニーは書類を置くと、スーマンにその書類をじっくり見ておけと言って、ドアを開けた。
「ダニーさんは?」
「アンジェラの相手をしてくらぁ」
と、ため息を吐きながらも外へ出て行く。
暫くして、スーマンは書類を手に取ると、気怠そうな眼差しで書類を読み直す事にした。
「――13人の儀式だね?」
と、茶髪の青年は木陰にいる金色の瞳を持つ青年に問う。
茶髪の青年は近くにあったベンチに腰掛けると、眠たそうに欠伸をした。
「13人の儀式は、13人、過剰とも言える歪んだコンプレックスを持つ者を殺す事で、愛する者を蘇生する儀式と聞いた事がある。お前なら知っているんだろう、トム」
金瞳の青年はトムと呼ばれた青年を睨む。
トムは軽くあぁ、と答えて、続けて説明した。
「13人の儀式は、過剰なコンプレックスを持つ者を一人殺してから、普通の人を殺さずに13人死ねばいい儀式だね。君はもう一人目を殺してしまっているから始まっているんだろう。この儀式は君の人生で一度しかできないし、覚悟がなければならない。そして13人を超える数を死なせてはいけない。これが条件だよ。払う代償の覚悟をしておいてね」
にっこりとトムは笑うと、金瞳の青年にオルゴールを投げ渡した。
餞別だよ、と言って、彼は笑った。