二話 街角のベンチにて
茜色に染まった街角のベンチで座っているスーマンに、ダニーはホットドッグをひとつ手渡した。
ホットドッグにがぶり付きながら、ダニーは言った。
「ほふ……お前の推理はあり得るが、刑事はあらゆる可能性を探る必要性があんだ。最初にその推理で第一印象をキメちまったら、疑う奴も疑えないって事だ。わかったか?」
「つまり、確証のない推理はやめろって事ですね」
「そうだ。スーマン。新人はなんだかんだでよく目が利いてくれていいが、推理は早とちりすんじゃねえぞ」
ほくほくとしているホットドッグにスーマンはがぶりつくと、頷いた。
「けれどダニーさん。ユランかリリア、どっちかが生きている可能性は高いと思いますよ」
「話を聞いてなかったのか? それも可能性のひとつでしかないつってんだ」
ダニーはそう言って、スーマンの頭を小突いた。
「とりあえず、アンジェラがそろそろ指紋鑑定まで済ませているだろうよ」
その言葉にスーマンはえっと驚きの声をあげる。
「もうそこまでできてるんですかっ!? まだ半日しか経ってませんよ」
まあ、アンジェラなら有り得るか、と、彼は再びホットドッグにがぶりついたその時。
「兄さん、オルゴールはどうだい?」
と、ベンチの裏から茶髪の青年は手乗りサイズの小さな宝箱を開けて鳴らしてみせた。
「フン、そんなちゃっちいモンはいら――」
ダニーのあしらう様な声を外に、スーマンは凄いな、とオルゴールを覗き込んだ。
「これ、君が作ったのかい? よくできてるよ」
やや興奮気味に、スーマンはオルゴールを手に取った。
おい、とダニーは呆れた様に声をかけるが、スーマンはオルゴールのピンを事細かに触れていっている。
「こんな小さな箱に21本ものピンが入ってるなんて、凄いなあ。いくらだい?」
「御代はいらないよ。あんたが興味を持ってくれたならそれはもう御代は戴いているのさ」
茶髪の青年は茶色の瞳を輝かせて、笑ってみせた。
スーマンはオルゴールの底を見る。
オルゴールの底にはこう書かれていた。
『12進数 13は?』と。
「チャーリーが僕を呼んでいるから、僕はこれで失礼するよ」
青年が颯爽と走り去る中、スーマンは後頭部に鈍い痛みを感じた。
「スーマン! さっさと行くぞ!」
ダニーの拳骨がスーマンの後頭部に飛んできた事を理解すると、スーマンははい、と言って苛立って歩いているダニーにそそくさと付いて行った。