十三話 見えない人と負傷の刑事
スーマンは目を覚ますと、そこは警察の寮でも無ければ自宅でも無い。
白い天井、白いシーツ、白いカーテン。
外では子供の笑う声が聞こえる。
「目が、覚めたかね?」
スーマンの左側からの声。カーテンに遮られて見えない貫禄のある声は、痛むかね? と問い掛けてくる。
いえ、とスーマンが答えると、見えない人はそれはよかった。と大層暖かい声で喜んだ。
「君は、随分悩んでいるようだね。先刻来た君の上司が頼られないと寂しがっていたよ」
その言葉に、スーマンは少し苦笑した。
暫くして、彼は漸く話し出した。
「……僕は、熱情に身を任せて一人で走ってしまったんです。本当ならダニーさんに、話すべきだったのに」
そう、話すべきだったんだ。スーマンは少し、歯を食い縛った。
彼は今、あの時の愚かさによる痛みを噛み締めていた。
銃弾による痛みではない。傷痕による傷みではない。唯、あの時何故頼っていなかったのか。頼っていたら捕まえれたかもしれないのに。彼は、そう自分を責めていた。
「そう、僕は犯人に意見――いえ、文句を言う為に、それだけの為に僕は、単身であの青年に勝負を挑みましたっ」
スーマンはそこで黙り込んでしまった。
その様子も間も含め、見えない人は、ただ黙々と聞いていた。
暫くして、スーマンが歯を噛み締めるような音を立てると、見えない人は問い掛けた。
「後悔、しているのかね?」
その言葉に、スーマンははいと答える。
返事を聞いて、見えない人は一つ、話をしよう。と話の主導権を奪った。
「昔から人は、失敗する存在だと言われている。何故かわかるかね?」
スーマンはその問い掛けに答える事はできた。
実に簡単な、歴史のお話なのだ。
「それは、人は失敗から学ぶモノだから、ですよね」
見えない人はその通り。と言うと、語りを続けた。
「君が後悔する事は実にシンプル。簡単な事だ。だが、君はそれを失敗として、バネとしての道にするか、ただ後悔のまま終えるかは誰も決める事はできない。君にしか決める事のできない話だ。さて、君はどちらを選ぶのかね?」
その声はスーマンを落ち着かせる。
冷静になった自らが選ぶ道は、自らのみぞ知る。スーマンが選んだ道は、まずダニーに謝る事だった。
「ダニーさんに、謝ります」
そうか、と声が言うと、スーマンは再びはい、と返事した。
「そうそう、私からの忠告だ。君は実に危なっかしいから、首をよく突っ込むのだろうが、実に御節介だろうので止めた方がいい」
と言って、声の主はよいしょっ、と声をあげてベッドから降りた様子を見せた。
「では、私はそろそろ退院なのでね。帰るとしよう」
「あ、おめでとうございます」
「君も早く退院できる事を祈るよ」
「はい、頑張ります!」
簡単な会話を交わすと、声の主はカーテンに映る影を供にして、ゆっくりと去っていった。
がらり、とドアがスライドされる音が聞こえてから、スーマンは身体を起こして、自分の左足の付け根部分をさすった。
ずきずきと痛む足は、しばらくは退院させないと言わんばかりの傷みで返事した。
「こりゃ、しばらくは動けないなぁ……」
赤毛の刑事は、弱々しく笑って見せた。