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十二話 大人と子供

「まず、君の家で起こったあの男の事件だ。君は彼を、どうやって殺した?」

「あぁ、あの悪辣な変態の事か。あの下種でクズで愚かで最低な男は、リリアに手をかけたのさ。それだけじゃない。あの穢れた腕でリリアに触れて、あの穢れた眼差しでリリアを視て、あの穢れた舌で、リリアを舐めたっ! なんて重い罪だ! 殺さなくては! 殺さなくては! 殺せ! 殺せぇっ! ……あいつは、凄く、クズだったのさ」


 彼は何度も足で踏み潰す動作を繰り返し、やがて足を止めて、むなしそうにスーマンに微笑んだ。


「アンジェラは、アンジェラは何故だ!」

「アンジェラが誰かは知らないけれど、チャーリーが言ったのさ。川沿いの夜の小道、冬の寒さに凍えながら考え込んでいる女性。それがアンジェラだと言うのなら、僕はアンジェラを殺したんだろう。彼女は僕に必要だった。それだけの事さ」


 スーマンはぎゅっと右手で拳を作る。

 先程まで静まっていた憤慨が、今再び湧き上がってくる感覚が自身でよく判る程、彼は憤っていた。


「なら、ならジェイクさんは何故だ!」

「彼も同じさ。とは言っても、あの両腕とかやったのはさっき吹き飛ばした時に逃げたあの女さ。僕の知った事じゃないね」


 ぎり、とスーマンは歯を食い縛る。

 殴りたい憤怒の感情を押し殺し、唯、知る為に。


「君は、何をしようとしている」

「それは極上の秘密さ。君に知る権利は無い」


 青年はそう言って、声高に笑い出した。

 知る権利は無い、知る権利は無い、知る権利は無い! 何度も繰り返しながら、笑っていた。


「そう。君には彼等を殺す権利なんて無い様に、僕にも知る権利は無いんだろうね」


 スーマンはそう言って、欄干から背を離す。


「君も、クズだ」


 声高に笑っていた声がぴたりと止んで、青年はスーマンをじっと見た。


「人は容赦無く虫を殺すよね。容赦無く豚や牛を殺すよね。なのに人は殺せないというのは可笑しい話じゃないか」

「それは人が作ったルールの中で生きているからだ。君もそのルールを守らなければならない」


 ハッ! と彼は鼻で笑うと、にやりと笑みを浮かべた。


「それは大きく違うよスーマン。僕は国のルールなんて知った事では無いし、生き物は多種多様だ。君に合わせる必要性は無いし国に合わせる必要性も無い。何より、君達警察や国に、僕達を裁く権利なんか無い」

「ああそうだ。裁く権利は無いよ。だけどね、人は天誅を待っていたって落ちないんだ。落ちても偶然だ。なら人誅、天が裁かないなら同じ人が裁くしかないんだ」


 スーマンは両手に握り拳を作る。

 彼は青年を真っ直ぐ視て、物事を話した。


「僕達に正当性はあるか無いか、これは無いだろう。それと同時に君にも正当性は無い。僕等が言う事なんて君の対象としている世界にとってはどうでもいい事なんだ。ほんに小さな、砂粒よりも小さな事なんだ。罪、罰、そんな観点はいらないだろう。けれど人が生きている今の世界にとって、人は人の決めたルールに合わせて生きなきゃならない。文句があるならルールを変えてみろ。それで死んだら新しいルールは間違っていたという事になる」


 青年は、笑みを止めて、真顔になる。

 欄干から背を離した青年は、一歩、スーマンへと近付いた。


「ぺちゃくちゃとほざくな。僕はルールを認めていないという話をした。何ならあの女の様にお前達の作った武器で殺してやろうか?」


 赤毛の刑事は、尚それを物怖じせずに言った。


「君は僕を殺せないんだろ? ルド=ハミルトン、アンジェラ=シューヴァルツ、ジェイクさん。僕には彼等の様に過剰な執着が無いと言ったのは君じゃないか」

「傷付ける事はできる」


 青年は、また一歩歩み寄る。

 それでも彼は物怖じせずに続けて言う。


「自分の主張だけを言って相手の主張を聞かないのは子供の言い分だ。自分の話に正当性を思わせたいなら、僕の話も聞け」


 そう言って、彼はずいっと身体を前に出して、青年の肩に手を置いた。


「君が奪った命は、すごく、重いんだ」

「――ッ!」


 轟くような銃声と共にスーマンの左足に、風穴が空く。

 青年の右手には、短めのショットガンが握られていた――。

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