十一話 金色の瞳を持つ青年と赤毛の刑事
「――ジェイクさん!」
新米刑事、スーマンはジェイクの後始末を手伝い、別れた後に財布を忘れた事に気付いた。
そして戻ってくると、華奢な娘が男を軽やかなステップで引き摺っていく姿を見て、追いかけたが途中で見失ってしまったのだ。
両腕をもがれた男は、眼を見開きながら、月明かりを隠す、曇天の雲を見上げて、黙したまま、何も語らなかった。
男の瞼を瞑らせると、冷たい身体を置いて、スーマンは唯一つの使命感により、行動を起こした。
金の柄を持つナイフが、金色の髪を掠る中、彼女は見た。
階段の物陰から、赤毛の男がこちらを視ている事に。
「盗み見?」
彼女は赤毛の男に裾からナイフを取り出して投げる。
男は階段を駆け上ってナイフをかわすと、彼は拳銃を胸元から取り出して、彼女に銃口を向ける。
「指名手配犯、アリシャ=ルミナス。何故ここにいるっ!」
「やぁねえ、刑事さん? あんな大きいだけの檻、抜け出せないって思ってたのぉ?」
アリシャと呼ばれた娘は嘲笑う様に刑事に言葉を返す。
「……ルド=ハミルトンの事件、アンジェラの事件もお前、なのか?」
金色の瞳が、刑事を睨む。
たった一瞬の、睨んだ隙にアリシャはナイフを青年の右肩に突き立てた。
アリシャの身体が、宙に浮く。
青年の蹴り上げは実に速く、ナイフを相打ちで刺した後、それを押し込むようにピンポイントで蹴り上げたのだ。
「やめろっ!」
物怖じする刑事は、拳銃を青年に向ける。
青年は刑事に振り向いて、笑った。
金色の短く整った髪、金色の瞳。長袖の白いシャツと群青色のジーンズ。
質素、シンプルだが綺麗な顔立ちはスーマンですら、どきりとした。
「君は殺せない。幸運だったね。過剰なまでの執着がなくて」
スーマンの顔から、血の気がすぅ、と引いた。
『過剰なまでの執着がなくて』、この言葉に、彼は冷静という秩序へと戻された。
導き出される答え。全ては彼の犯行だったのだ――と。
彼は、拳銃のトリガーを引く指に、力を込めようとする。
「君の名前は、ユラン、ユラン=ルカナーン。18歳。……そうなのか?」
「その通りだ。君が僕の事を知っているだけでは不公平だ。君は?」
妙に落ち着いた青年は、欄干にもたれ掛かってスーマンに問いかける。
どくん、どくん、と血が滾る想いを抑えて、彼は冷静に答えた。
「スーマン=クリストフ。20歳。君が殺したアンジェラの同僚だ。さあ、これで君の方が一個多く知った。これに見合う情報を貰おうか」
青年はくすくすと笑って、君はバカだね、とスーマンを指差した。
「僕は『君が僕の事を知っているだけでは不公平だ』とは言ったけれど、『君が僕より二個多く知っているだけでは不公平だ』とは言ってないだろう? 三つ目は君が勝手に話しただけさ。バカだね、スーマン」
そう言って、青年は欄干から離れて、スーマンの持つ拳銃を払った。
「君と僕の間にそんな物はいらない。スーマン、夜明けまでまだ時間はある。少し話そうじゃないか」
青年はスーマンの左腕を引っ張って、欄干へと突き飛ばした。
そして対岸の欄干へ彼も腰掛けると、彼は何を聞きたい? とスーマンに問いかけた。