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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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212/250

シーン2 「ミレイユ覚醒」

世界中の光が、

ミレイユへ集まり始めていた。


空が輝く。


風が吹く。


花弁が舞う。


空間そのものが、

彼女を“主人公”として演出していく。


崩壊する王都の中心。


瓦礫の街路。


泣き叫ぶ人々。


裂けた空。


その全てが、

まるで彼女のための舞台みたいだった。


運命律が、

最後の力を注ぎ込んでいる。


光演出。


涙演出。


救済共鳴。


空間BGM。


奇跡補正。


完全な、

主人公空間。


観測者たちの感情が、

空から洪水みたいに流れ込んでくる。


『ここで覚醒』


『自己犠牲ルート?』


『泣ける』


『世界救済エンド来る?』


『主人公ならやってくれる』


最悪だった。


期待。


期待。


期待。


誰もが、

彼女へ“役”を求めている。


ミレイユは、

震えていた。


ずっと、

分かっていた。


主人公とは、

祝福なんかじゃない。


“誰かの期待へ応え続ける役”。


泣かなければならない時に泣き。


苦しまなければならない時に苦しみ。


救わなければならない時に救う。


誰かが望む感動のために、

人生を使い続ける存在。


それが、

主人公。


ミレイユは、

空を見上げた。


裂けた観客席。


無数の視線。


期待。


熱狂。


全部が、

彼女へ向いている。


「ミレイユなら」


「主人公だから」


「きっと世界を救う」


その声が、

頭の中へ流れ込み続ける。


苦しかった。


怖かった。


逃げたかった。


それでも今まで、

彼女は応えようとしていた。


誰かを救うために。


期待を裏切らないために。


主人公であろうとしていた。


だが。


もう。


彼女は知っている。


それは、

“自分の人生”ではない。


ミレイユは、

涙を流した。


ぽろぽろと。


止まらない。


それでも。


彼女は、

初めて自分の意思で叫ぶ。


「わたしは――」


その瞬間。


世界が止まった。


風が止む。


光が止まる。


空間共鳴が凍り付く。


観測者たちの歓声すら、

一瞬だけ消えた。


ミレイユは、

泣きながら叫ぶ。


「主人公じゃない!!」


空が揺らいだ。


巨大魔法陣へ、

ノイズが走る。


観測層全体が、

軋み始める。


『……』


『シナリオ異常』


『補正維持不能』


『感情誘導失敗』


無数の声が、

混線する。


ミレイユは、

さらに叫んだ。


「わたしは!!」


胸を押さえる。


涙と嗚咽で、

声が震える。


それでも。


彼女は、

初めて“役”ではなく、

“自分”の言葉を選ぶ。


「わたし!!」


その瞬間。


巨大魔法陣へ、

亀裂が走った。


空が砕ける。


光が乱れる。


観測者側が、

明確に動揺する。


『シナリオ逸脱』


『主人公拒絶』


『感情収束失敗』


『補正不能』


運命律最大の矛盾。


主人公本人による、

脚本否定。


世界法則そのものが、

処理不能を起こしていた。


なぜなら。


運命律は、

“主人公”を定義できても。


“役割より自分を選ぶ人間”を、

定義できなかったから。


ミレイユは、

肩で息をしながら立っていた。


もう、

光は彼女を照らさない。


風も吹かない。


BGMも消えた。


それでも。


彼女は、

初めて自分の足で立っていた。


主人公としてではなく。


一人の人間として。

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