出会い
日常がいきなり変わった。空が歪んだ。
最初の異常は音。風がやみ、代わりに低い振動がこおきた。建物の窓ガラスが、びりびりと震えた。
「……なんだ、これは」
ファレストが空を見上げると、そこに“それ”はいた。
巨大な塊。形は定まっていない。
黒い影のようであり、光の塊のようでもある。
輪郭が、常に揺れている。
「……生き物、なのか?」
答えはない。代わりに、空間が動く。次の瞬間、塔の上部が音もなくなった。
崩れたのではない。“切り取られた”。一瞬で。
遅れて瓦礫が降り注ぎ、悲鳴が街を満たす。
「くそっ……!」
ファレストは腰の剣に手をかけた。
「……きみじゃ無理だよ」
剣の手を小さな手に上から押さえされた。小さな少女だった。
「は?」
「あれはリックルを使ってる」
「……使者が、か?」
「普通はありえないけどね」少女は肩をすくめた。
「大砲くらいなこうげきをしないと傷つかない」
リックルと呼ばれる神秘的な力は、すべての生物が作り出すエネルギー。
リックルを使うものは常に自分を守るバリヤをはってるらしい。
リックルの使い手は、平均的な人口に比べて数が非常に少ない。
帝国はどこからか送られている使者を今まで駆逐していた。希少なリックルの使い手、攻撃力の高い武器で。
「くそっ、なんで使者がリックルを使えてるんだ」
「あいつは別格なのかもね」
少女は冷静に返した。髪は白銀、瞳は紫。
彼女もリックルが強いのか。
リックルが強い者は、訓練や瞑想によって、さまざまな超能力(予知能力、テレパシー、物理的エネルギーの操作など)を発揮することができる。
だが…
ファレストが少女の腕を掴む。
「撤退だ! あれは人間が相手にするものじゃない!」
「そう?私はルネ。じゃあ私は人間じゃないかもね」
ルネはあっさりと振りほどき楽しそうに笑った。
そう、笑ったのだ。この異常な光景を。
ルネが懐から、銃を取り出しおでこに銃を触れた。
刻まれた紋様が、淡く光を帯びた。
「おまえ、もしかして…」
「ファースト、起動」
その瞬間、空気が変わった。
ルネの周囲だけ、世界から切り離されたように静まり返る。
空の“それ”が、初めて反応した。
揺らいでいた輪郭が、わずかに収束する。
まるで――
“敵”を認識したかのように。
リックルの使い手が最大限に活かせる武器はある。ネームドというものが作った武器である。この武器は片手の数しかない。
このネームドの武器の力は規格外だ。だが、この武器は使い手を選ぶ。
たしか2年前、ついにネームドの武器ファーストがついに使い手を選んだ。
その使い手はわずか8歳の小さな小さな少女であったはずだ。
その人物が今目の前にたっている。
「ルネでもファーストでどっちで呼んでもいい」
少女ルネは不敵に笑った。
ファレストは思わず息を呑んだ。
「……来るぞ」
ルネはただ、銃口を空へ向ける。
その指が引き金をひいた瞬間、世界が変わった。
凄まじい光と音と衝撃でフォレストは思わず目を瞑り膝をついた。次に目を開けた瞬間、空にあった“それ”が――消えていた。
跡形もなく。
まるで最初から存在しなかったかのように。
数拍遅れて、風が戻る。
瓦礫の落ちる音。遠くの悲鳴。
「……は?」
ファレストの口から、間の抜けた声が漏れた。
ルネは銃を下ろし、軽く息をつく。
「ん、こんなものか」
「……なんなんだ、お前は」
フォレストは声を絞り出す。これが彼女と初めての出会いだった。




