第四十五章 絞首刑
ユリアナ
「……話が違うじゃない」
エマ
「何が?」
ユリアナ
「兵を貸すだけ、そう言ったはずよ」
エマは肩をすくめる。
エマ
「あなた、兵が“ただ”で動くと思っていたの?」
「戦費が払えないなら、仕方ないじゃない」
帝都は凱旋パレードに湧いていた。
「東帝国に勝ったぞ!」
「あの難攻不落の王国を陥とした!」
「次は東帝国だ!」
「エマ様、黃帝戦に続いて二連勝だ!」
「女帝様、万歳!」
エマ
「元国王ヒルダーの打首をもって、完全勝利を宣言するわ」
ユリアナ
「……彼は、もう引退していたじゃない」
その言葉は、歓声にかき消された。
コイン
「だとさ」
ソフィア
「だから、あれほど言ったじゃないですか」
「領地を縮小するのは、危険だって」
アルバ
「……君の言う通りだった」
ソフィア
「じゃあ?」
アルバは静かに答える。
アルバ
「反撃だ」
コイン
「王国領を取り戻すのかい?」
「あそこ、民衆運動が根付いてて厄介だぞ」
アルバ
「通り越す」
コイン
「……は?」
アルバ
「王国ではない。帝国領を攻める」
夜半。
アルバは帝国領の穀倉地帯近くへ転移した。
帝国側へ、およそ五十キロ。
完全に内陸だ。
アルバ
「この辺でいいか」
彼は地面に手を置く。
アルバ
「――プタハの祝福」
「現れよ」
大地が鳴動し、
三十万の兵が、麦畑の只中に姿を現した。
アルバ
「ここに朝方には、魔法で高さ四メートルの城壁が出来る」
「城壁を守り抜き帝国兵、一兵たりとも通すな」
コイン
「万里の長城ならぬ、百里の長城だな」
シグレット
「かしこまりました」
その頃、帝都。
ヒルダー元王は、絞首刑を待たされていた。
部下
「エマ様! 帝国領が、東帝国に攻め取られました!」
エマ
「……何ですって?」
一瞬、女帝の顔から余裕が消える。
エマ
「守備兵は何をしていたの?」
部下
「深夜だったため、気付くのが遅れたものと……」
エマ
「王国守備に回していた兵は?」
部下
「帝国側の麦畑に、円状に倒された麦があり」
「そこに、全員寝かされていたそうです」
「兵に被害はありません」
エマ
「なら、その兵で東帝国を攻めなさい」
部下
「それが……兵装がすべて使用不能です」
「我が方は五十キロ以上、内陸まで侵入されています」
「敵は、そこに強固な城壁を……」
部下は言葉を詰まらせる。
部下
「……とても、人間の技とは思えません」
アルバ
「王国領は、元老院に任せよう」
「民の怒りは、彼らに鎮めてもらう」
エマ
「この件は、国民には伏せなさい」
部下
「しかし、この状況で……」
エマ
「まずは、ヒルダー王の絞首刑よ」
「王国は“陥落した”」
「そう、国民に刻み込むの」
部下
「ですが、すでに王国は奪還されています」
エマ
「知っているのは、私たちだけでいい」
「中途半端が一番良くないの」
エマ
「三日後」
「三日後に、帝国が攻め込まれたことにするわ」
部下
「行商人が……」
エマ
「今日から三日間、祭りよ」
「出入国禁止令を出しなさい」
処刑台。
ヒルダー王の絞首刑は、静かに執行された。
ユリアナは、
夫の亡骸の傍らで、声もなく泣き崩れていた。




