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第四十二章 追撃、そして終戦

翌朝――

伝令が駆け込んだ。

「強襲部隊が、東帝国の象兵の待ち伏せを受け壊滅しました!」

黃帝は舌打ちする。

「強襲部隊は全滅か。……やはり、帝国軍は正面からやれば殲滅できる」

「だが――こちらが掘らせた落とし穴のせいで、攻めきれずにいる」

苛立ちは隠しきれず、聲に滲んでいた。

軍師は額の汗を拭いながら進み出る。

「敵兵は本日中にも合流するでしょう。そうなれば、我が陣法で敵を殲滅できます」

「まずは敵を陣地から誘き出すべきです」

そのやり取りを聞き、エマが目を見張った。

「……なんで、君だけ来るのよ」

アルバは肩をすくめる。

「俺一人で五万人分の働きを――と言いたいところですが」

「兵は、ちゃんと潜ませています」

エマは一瞬呆れ、すぐに微笑んだ。

「君がそう言うなら……私も久しぶりに前線に出ようかしらね」

彼女は、ラナ姫の遺体の傍らにあった一本の杖を手に取る。

魔力を増幅させる、マーリンの杖――ラナの遺品だ。

アルバは、あろうことか敵陣の目前に姿を現した。

黃帝が嘲る。

「降伏しに来たか?」

アルバは答えず、無表情のままその場に腰を下ろす。

「――インドラの呪」

次の瞬間、二・五メートルを超える雷神インドラが顕現した。

全身に雷撃を纏い、ゆっくりと進軍を始める。

自然と、黃帝軍は後退した。

「――プタハの祝福」

振動七。

激震が周囲を襲い、大地が唸る。

地面から何かを引き抜かれる感覚とともに、周囲が二メートルほど沈下した。

兵たちは立っていられず、次々と座り込む。

揺れが収まる。

「弓兵、前へ! 矢の雨を浴びせろ!」

アルバのいた場所に、無数の矢が降り注ぐ。

さらに――

「魔法師、前進! 燃やし尽くせ!」

矢の山は一気に燃え上がった。

「……失敗か?」

「矢を七割も失って……」

だが、そこにあったのはアルバではない。

狙っていたのは、鉄のインゴットだった。

軍師が青ざめる。

「これは……どういうことだ」

「落とし穴が、すべて潰されているではないか!」

エマが冷静に命じる。

「穴から這い出てくる兵を、すべて討ちなさい」

やがてアルバが戻ってくる。

「五万人分の働きをするんじゃなかったの?」

エマが皮肉を言う。

アルバは指を鳴らした。

「――現れろ」

五万の兵が、異様な姿で出現した。

鎧も馬具も、すべて草原と同化するカーキ色。

「自慢の漆黒騎兵じゃないのね」

「この草原じゃ、溶け込む方が強い」

葦の茂る草原では、視認すら困難だった。

「帝国軍に続け」

そう言い残し、アルバは草原にごろりと横になる。

「この一か月、この部隊の鎧を作ってて……ほとんど寝てません」

「戦いなさいよ!」

「代わりにインドラが戦ってます」

エマは呆れつつ前に出た。

「なら、代わりに私が行くわ」

三メートル級の火球が、敵陣に叩き込まれる。

「……やっぱり、この杖最高」

主を失った杖は、完全にエマを受け入れていた。

黃帝は吼える。

「なぜだ……なぜ我軍が押されている!」

「兵力は帝国の二倍あるはずだ!」

軍師は頭を抱えた。

「策が……すべて裏目に出ている」

「落とし穴のせいで陣形が組めない」

「三万を失っても、七万――数では優勢のはずなのに……!」

兵が叫ぶ。

「敵兵が、増え続けています!」

軍師の目には、自国の旗が異様に多く映った。

「……違う」

「敵の半数は、この地と同じ色の装束だ。撹乱されている!」

「陛下、一時撤退を!」

黃帝は歯噛みする。

「後方一万はお前に任せる」

「陣法とやらで撹乱してみせろ」

「私は先に撤退し、後方支援と合流して立て直す」

三万の騎馬兵が黃帝とともに戦場を離脱。

歩兵三万も後を追った。

「アルバ様、敵軍が撤退を始めました」

だが――

谷の上では、軍師が待ち伏せの準備をしていた。

岩を落とす算段だった。 

「敵は逃げたわ。私たちの勝利よ、撤退しなさい」

エマの声が届く。

軍師は沈黙し、やがて呟いた。

「……我らも撤退だ」

その瞬間。

「――現れよ」

漆黒の騎馬五万騎が出現し、追撃を開始する。

「待ちくたびれたわ」

ソフィアだった。

歩兵三万は、瞬く間に蹂躙されていく。

「……漆黒の騎馬は、どこにいた?」

「なぜ……我は追われている?」

ソフィアの投げるバトルハンマーは雷を帯び、敵を打ち砕いては手元に戻る。

「お見事です」

落馬した兵に、容赦なく槍が突き立てられる。

黃帝は、辛うじて都へ逃げ込んだ。

「当分、この国は立ち上がれないでしょうね」

「トドメを刺せとは言われてないわ。撤退しましょう」

完全な勝利だった。

「お兄様に、完勝ね」

「皇帝も一報を聞き、大層お喜びです」

その傍らには、一万の捕虜。

「……それにしても、なぜ敵の軍師は抵抗もせず投降したのでしょうか」

終戦は、静かに、そして決定的に訪れていた


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