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第四十一章 開戦

コインは机に広げた報告書を指で叩いた。

「黃帝は筆談を徹底している。外部に一切、情報を漏らさないためだ」

「部下どもは十万の兵を集め、数で押し潰す気満々らしい」

「それに――食料を秋口にまとめて予約買いしている。決行は秋だな」

ソフィアが腕を組んで唸る。

「本国の兵を総動員しても、十万は無理だな」

アルバは静かに言った。

「……この事実、帝国内で“噂”にできないか?」

コインは肩をすくめる。

「やってみるさ。ただし、成功する保証はない」

――数日後。

コインの目論見は、思わぬ速さで広がった。

「黃帝が帝国に向け進軍。十万の兵を準備中」

帝都では人々が囁き合い、恐怖が膨らんでいく。

壁に耳を当て、他人の情報を欲しがる者は多い。

帝国は“黃帝に襲われる”という噂で持ちきりだった。

ほどなくして、正式な書簡が届く。

「黃帝、帝国へ侵攻の構えあり。

帝国および東帝国の安定のため、連合軍を編成し迎え撃たれたし」

アルバは頷いた。

「象兵は、どれほど集められそうだ?」

象兵隊長が答える。

「本国へ戻ってかき集めても、二万が限界でしょう」

「二万も集まるのか……」

するとソフィアが一歩前に出た。

「ならば、私は五万を出そう」

「帝国も五万を用意すると言っている」

アルバは戦力を頭の中で組み上げていく。

その時、コインが低く笑った。

「……黃帝の奴、草原に象兵対策の落とし穴を掘っているな」

アルバは即座に判断した。

「なら、最初は歩兵五万を投入して様子を見る」

「罠を把握した後、漆黒の騎兵と象兵を叩き込む」

――開戦。

前線では、エマが指揮を執っていた。

「アルバはまだ来ないの?」

「私が将軍だった頃、娘婿はいつも最前線にいたものだけど」

兵が報告する。

「敵は着々と集結しています」

「敵兵十万、こちらは五万です」

戰場は異様だった。

草原の至るところに不自然な窪みがあり、その中に兵が潜んでいる。

落とし穴――黃帝の罠だった。

一方その頃、黃帝は苛立ちを隠せずにいた。

「なぜアルバが来ない」

「……東帝国の強襲部隊が露見したのか?」

その懸念は、現実となる。

東帝国の強襲部隊三万は、谷間を抜けようとしていた。

そこへ、待ち構えていた象兵五十騎が姿を現す。

「進め――!」

谷は狭く、象が二頭並ぶのがやっとだった。

前線を塞ぐように、装甲象が押し寄せる。

隊長が歯を食いしばる。

「……我々の計画は読まれていたか」

「後続が詰まっております! 後退できません!」

「伝令を出せ! 何としても下がらせろ!」

だが、前から象兵、後方にも象兵五十騎。

完全な挟撃だった。

「……投降する」

強襲部隊は壊滅した。

――同時刻。

エマは前線を死守していた。

「よく耐えたわね。前線は維持できている」

守りに徹した戦い。

数で劣るがゆえの選択だった。

ふと、エマが呟く。

「……なぜ騎兵が来なかったのかしら?」

部下が答える。

「落とし穴から這い出してくる敵兵が確認されています」

エマは納得したように頷いた。

「もし騎兵を使っていたら、全滅していたわね」

「だから歩兵だけで攻めてきた……」

そこへ通信兵が駆け込む。

「東帝国より戻りました!」

「理由は?」

「東から黃帝に攻められ、こちらへ兵を回せなかったとのことです」

「敵兵三万を討ち取った、と」

「――明日には合流できる見込みだそうです」

エマはため息をついた。

「……こちらの戦果は?」

「小競り合いで、敵十名。こちらは十二名です」

エマは地図を見つめ、口角を上げた。

「十分よ」

「今日で落とし穴の位置はすべて把握できた」

兵が力強く頷く。

「敵兵が這い出してきたため、完全に把握しています」

エマは剣を握りしめた。

「明日から前線を押し上げる」

「――全面戦争よ」

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