第二十四章 頭首の死
帝国クラウディア家頭首は、戦場の最前線に立っていた。
「皆さん。本日で、この戦場を終結させましょう」
軍曹が頷く。
「それでは、開始してください」
クラウディア頭首は短く命じた。
「――注入」
黒水――石油が、蟻塚の穴へと流し込まれていく。
軍曹
「注入開始時刻、正午」
穴の奥から、低く重い地鳴りが響いた。
将軍
「……効いてきたようだな」
その瞬間だった。
地表が弾け、数百の蟻が一気に噴き出した。
ある蟻は石油を掻き出し、ある蟻は卵を抱え、ある蟻は牙を剥いて戦闘に躍り出る。
人間側が引いていた戦線は、瞬く間に一キロ後退した。
穴の至近にいた――
将軍、軍曹、そしてクラウディア家頭首。
三名は、巨大な蟻の群れに踏み潰され、非業の戦死を遂げた。
◇
父は、淡々と語った。
「帝国クラウディア家の“運び手”が、この騒動で全員、非業の死を遂げるとはな」
少し間を置き、続ける。
「あれほど危険な任務を嫌い、前線に出たがらなかった兄が……なぜ、今回は出たのか。
それは、我々にも分からん」
「帝国には、お前の兄弟を出す」
「お前は王国から婚約者をもらった。……そういう役割分担だ」
父の声は平静だったが、どこか寂しさを孕んでいた。
◇
叔父の葬儀は、将軍・軍曹と合同の国葬として盛大に執り行われた。
――もちろん、遺体は無かった。
墓地を歩いていると、コインが足を止めた。
「……エクスカリバーだ」
剣が、地面に横たわっていた。
本来、遺体が納められているはずの場所から、棺は掘り起こされている。
アルバは、剣が自分に握らせたがっているような、不思議な感覚を覚えた。
コイン
「ミナトという勇者が使っていた剣だ」
剣は泥にまみれ、まるで捨てられたようだった。
アルバが近づくと――
ふわり、と剣が浮き上がり、そのまま手元へ収まった。
コイン
「……不思議なこともあるもんだな」
◇
夜。
窓を叩く音がした。
「その剣は、僕のだ」
立っていたのは、グールだった。
アルバは、昼に泥を落し、綺麗になったエクスカリバーを、静かに差し出した。
グールは剣を握りしめ、叫ぶ。
「僕のエクスカリバーだ!
――決闘だ!」
切っ先が、こちらを向く。
アルバもまた、剣を構え、切っ先を向けた。
「――推して参る」
次の瞬間、エクスカリバーから眩い光が溢れた。
グールは一時的に、生前の姿を取り戻し――
やがて、光の粒となって消えていった。
カラン、カラン。
そこに残っていたのは、剣だけだった。




