第二十二章 蟻塚集中指令本部
東帝国皇帝は、地図を机に叩きつけた。
「やられたのは帝国だけじゃない。我が領土にも――アリ塚を作られた」
赤い印が無数に打たれた地図は、もはや戦況図というより刺繍のようだった。
アルバ
「……私は、何をやれば?」
皇帝は一息も入れずに言い切る。
「今まで通りだ。戦地に食料を届けろ」
「私と王妃は、前線でアリ塚殲滅に当たる」
「昨日は出入口に大岩を叩き込んでやったが、いつまでもつとは思えん」
「ギルは私と王妃の援護」
「アルカディアは食料の荷運びだ」
一気に言い終え、ようやく息をついた。
アルバ
(……相変わらず人使いが荒い)
アルバは帝国側――蟻塚集中指令本部に到着していた。
物資の山。怒号。
血と土と汗の匂い。
そこには、戦場の“裏側”がむき出しで存在していた。
兵
「毎年ご苦労様ですな」
そう言いながらも、視線は忙しなく周囲を走る。
「そこに置いといてくれ」
「朝は忙しいんだ。夜のうち巣に戻ったアリが、日の出と同時に一斉に出てくる」
「それを五人一組で押さえ込む仕事だからな」
淡々とした口調だが、どこか誇らしげだった。
「死傷者も出る」
「だが誇りある仕事だ」
「どうだ、君も? 誇りある仕事だぞ」
「お国の為、人の為だ。召集令状も出てるだろ?」
アルバ
「いえ、私は東帝国の商人でして……」
兵の動きが、ぴたりと止まった。
「……は?」
次の瞬間、兵の顔が歪む。
「こんなご時世に商人だと?」
「剣も握らず、金袋抱えて逃げ回る根性――叩き直してやる!」
剣が放り投げられ、地面に突き刺さる。
アルバは、おずおずと柄を握った。
アルバ
「えっと……」
兵
「行くぞ! トリャァァ!!」
勢いよく斬りかかる兵。
アルバは、深いため息をついた。
アルバ
「あーあ……」
次の瞬間――
――キィンッ!!
火花が散った。
アルバの剣が、わずかに動いた。
それだけで。
兵は五メートル後方へ吹き飛ばされ、砂袋に突っ込んだ。
本部が、一瞬で静まり返る。
コイン
「……また化物になったんじゃないか、お前」
アルバ
「いや、たぶん……軽く受けただけなんだけど」
周囲の兵たちは、剣とアルバを交互に見て、
そして、そっと視線を逸らした。
誰も、もう剣を投げてくる者はいなかった。
吹き飛ばされた兵
「連隊長……商人を替えてください……」
連隊長
「我国の国家戦略級運び手は、ここまで来る途中で二人亡くなっている」
「彼を失えば、この戦線は維持できん」
「貴様は飢え死にしたいのか?」
兵は、言葉を失った。
連隊長
「軍曹。コイツを後方支援に回せ」
「国家戦略級運び手と問題を起こすな」
兵は肩を落とし、去っていった。
軍曹
「普段はいい奴なんだ」
「少し……熱くなりやすいだけでな」
そう言って、アルバの肩を叩き去っていく。
そこへ、アリ兵を押し返していた兵が戻ってきた。
兵A
「やるねぇ。ミハイルの奴を押し切るとは」
「正直、国家戦略級ってのは名前負けだと思ってたが……」
ニヤリと笑い、背を向ける。
「どうだい。アレ、相手してみるか?」
指差された先では、アリ兵がこちらに背を向けていた。
アルバは、弓を構え、速射する。
「……こんなもんかな」
矢は、首と胴体の関節を正確に貫いた。
――ズズン。
首が落ち、胴体が静かに崩れ落ちる。
「初めてアリ兵を倒したぞー!!」
兵も、クラッシャー達も大騒ぎになった。
兵Aが振り返る。
――そこに、アルバの姿はなかった。
「……国家戦略級」
「ヤバいほど、強ぇ……」




