第二十一章 ヴァンパイアの呪
帝国、東帝国、王国――
三国は連盟を結び、各地に発生した蟻塚ダンジョンの殲滅に兵を割いていた。
そのたび、前線に支援物資を届けるのは――決まってアルバだった。
アルバ
「……こういう任務、僕しかやってないのおかしくないですか?」
カルディ皇帝は玉座に深く腰掛け、渋い顔で腕を組む。
カルディ
「お前以外、転移できん」 「蟻塚周辺はモンスターが湧く。他の者を送れば死人が出る」
一拍、間を置いてから、ぽつりと本音が漏れた。
「正直なところだな……」 「お前を他国に取られるのは、痛すぎる」
アルバ
「……」
カルディ
「王国の隣に、王国規模の自治領をやる」 「残らないか?」
アルバ
「……持ち帰って、考えさせてください」
その返答に、皇帝は苦笑した。
ヘルメス教団の男が、情報を淡々と告げる。
「現在、クラッシャー(冒険者)は軒並み蟻塚ダンジョンに動員されていますな」 「第一層はほぼ制圧。しかし――制圧前に、羽アリを三匹取り逃がしたそうで」
アルバ
「……あんな奴か」
大通りの交差点。
そこに“それ”は立っていた。
全高二・五メートル。
人の胴ほどもある胴体に、禍々しい翅。
市民
「に、逃げられない……!」 「誰か……誰か助けて!」
次の瞬間――
蜂の巣を突いたような騒ぎが広がり、人影は一気に消えた。
アルバ
「ウルクの英雄も、襲われて戦わなかった戦士と一戦交える羽目になるとはね」
男
「刺激すると、何をされるか……」
――言い終わる前だった。
アルバは弓を引き絞り、速射。
「よしっ」
矢はクリティカルダメージの光をまとい、背中に突き刺さる。
翅が、爆ぜるように弾け飛んだ。
「で――」
アルバ
「オレ収納、オレ射出+瞬歩で……行けぇっ!」
クリダメを乗せた剣が、吸い寄せられるように甲殻の継ぎ目へ。
関節。弱点。
一閃。
腰部が、きれいに切断されていた。
「収納」 「転移」
瞬時に距離を取り、無傷で帰還。
魔導具店長
「そのモンスターの遺体、いただけるのかしら?」
アルバ
「もちろん。タダとは言いませんけど」
店長
「もちろんタダよ。貴方と私の仲じゃない」
コイン
「男女の仲みたいな言い方するな」
店長は肩をすくめ、スクロールを一枚取り出す。
「仕方ないわね。出血サービスよ」
――ヴァンパイアの呪。
有無を言わせず、アルバの手首を掴み、スクロールに触れさせた。
アルバ
「ちょっ、オレの承諾も無しに!?」
店長
「いつもの報酬は?」
アルバ
「あ、はい……コイン、お願い」
いつの間にか手元に現れた袋を、店長は受け取る。
「毎度あり」
去り際、軽く説明が飛んでくる。
「眷属は作れない」 「夜なら魅了で女を落とすことはできる」 「暗闇でコウモリに分かれて移動もできるし」 「音波で索敵、回避、気絶も可能」 「力は通常の十倍」
アルバ
「……」
店長
「弱点は、暗闇でしか力が使えないこと」 「マニュアルが欲しければ、別料金ね」
アルバ
「インドラの呪も使ってないのに……」 「今度はヴァンパイアの呪か……」
コイン
「アリの死骸の謝礼じゃなかったんだな」
アルバ
「あー……やられた」
夜風が吹く。
アルバの影が、わずかに揺らめいた。




