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第十九章 ガリンペイロ

アルバ

「――というわけで、婚約者を拾ってきてしまいました」

コイン

「どんな人生送ったら、そんな“わけ”になるんだ」

アルバ

「それより、この国の国庫の内情は?」

コイン

「自転車操業だな。お前が持ち込んだ貢物も、すぐ底をつく」

そのやり取りを、ジェシカは宝石を見るような目で眺めていた。

きらきらと輝く瞳が、コインに向けられる。

ジェシカ

「……これ、面白いわ。喋るの?」

アルバ

「分からないことがあったら聞いてごらん。だいたい何でも答えてくれる」

ジェシカ

「じゃあ……シグレットは、今どうしてるの?」

コイン

「相手がハンサムで細マッチョな紳士だったらいいのに、って今も夢見てるだろ」 「現実は年中ワイン臭い、ハゲたデブだが」

ジェシカ

「……かわいそう」

少し間を置いて、彼女は小さく息を吸う。

ジェシカ

「ごめんね。私がアルバを取っちゃったから」

アルバ

「取ってないよ。彼女、僕を生理的に受け付けないらしいし」

その瞬間、ジェシカは突然、両手でアルバの頬を包んだ。

指先が温かい。

ジェシカ

「この顔のどこが嫌だったのかしら……」 「こんなに綺麗なのに」

そう呟きながら、視線が右へ左へと泳いでいる。

照れているのが、隠せていない。

アルバ

「……コイン。ユリアナ様は?」

コイン

「泣き止んではいる」 「今、その扉の向こうで覗いてるぞ」

ジェシカ

「きゃあっ!?」

本気の悲鳴と同時に、扉が開く。

ジェシカ

「ちょ、何やってるんですか! おばさん!」

アルバ

「……邪魔者もいるし、移動しようか」

次の瞬間、二人の姿は消えた。

ジェシカ

「……今の、何?」 「ここどこ?」

アルバ

「僕の家。アルバ邸」 「……君のこと、さらってきちゃったな」

ジェシカ

「さらって、さらって」

即答だった。

アルバ

「じゃあ、目的を聞いておこうか」

ジェシカ

「バレた?」 「君の地下資源採掘法を見て、真似できるなら真似したいの」

アルバ

「国の立て直しのため?」

ジェシカ

「その通り」 「……でも、好みっていうのも本当よ」

少し照れたように、視線を伏せる。

ジェシカ

「あの近衛隊長を、二回待って、三回目で倒した時……」 「手に汗握ったもの」

アルバ

「あの時から見られてたのか」

ジェシカ

「ごめん」

アルバ

「一時的にでも、僕のカノジョになってくれたなら……まあ仕方ないか」

ジェシカ

「“一時的”なんて言わないで」

ほんの一瞬、胸を刺すような寂しさがその顔に浮かぶ。

アルバ

「……じゃあ、もう寝ようか」

ジェシカ

「今夜、私が“好み”だってこと」 「ちゃんと証明するから」

アルバ

(この国の再建計画……思ったより厄介かもしれない)

採掘場。

コイン

「ガンペイロは言うなよ」 「正確にはガリンペイロだ」

アルバ

「雰囲気壊れるなあ……」

ジェシカ

「何の話?」

アルバ

「ちょっと地面が沈むから、注意して」 「――プタハの祝福」

ズズン、と大地が鳴る。

金、銀、銅、鉄のインゴットが、音を立てて積み上がった。

ジェシカ

「……えっと、これで終わり?」

アルバ

「あとは帰るだけ」 「東帝国領に納めて、家に戻る」

ジェシカ

「仕事時間、短すぎない?」

アルバ

「転移できる前は、移動だけで大変だったからね」

ジェシカ

「なるほど……時間は移動に食われてたのね」

アルバ

「採掘法はこんな感じ」

ジェシカ

「……これは真似できないわ」

アルバ

「すぐ真似されたら困る」

次の瞬間。

ジェシカ

「……ここ、どこ?」

アルバ

「東帝国執務室」

ジェシカ

「公邸!?」

ラナ王女

「あら。その子は?」

アルバ

「王国で拾った――婚約者です」

ラナ王女は一瞬、不機嫌そうに眉をひそめる。

ラナ王女

「その娘が、ユリアナの……?」

アルバ

「いえ。第三王妃の娘には振られました」

ジェシカ

「第二王妃の娘、ジェシカです」

ラナ王女

「……ぷっ」 「ユリアナ姉さん、思い通りにはいかなかったのね」

ユリアナ

「失礼ね」

その場に現れた気配に、ジェシカが肩を跳ねさせる。

ジェシカ

「……神出鬼没ですね」

シグレットが連れてこられる。

ラナ王女

「とりあえず、アルバに謝りなさい」

シグレットは一歩前に出た。

けれど、すぐに足が止まる。

喉がひくりと鳴り、言葉が詰まる。

視線の先には――アルバの腕に、自然に寄り添うジェシカの姿。

それだけで、胸の奥がぐちゃりと音を立てた。

シグレット

「……ごめんなさい」

声が、震えた。

シグレット

「本当は……本当は、貴方が好きで……」

その瞬間、胸に溜め込んでいた感情が決壊した。

コイン

「爆弾発言きたー」

シグレット

「……追いかけてきてくれると思ったの」 「冷たくすれば、気にしてくれるって……」

両手を強く握りしめる。

指先が白くなるほど。

シグレット

「男の人に慣れてなくて……」 「“あの子でいいでしょ”って、美少年を差し出されて……」

視線が、アルバから逃げる。

シグレット

「嬉しかったのに」 「怖くなって」 「だから……合わないわ、なんて言って……」

言葉が、途中で崩れ落ちる。

シグレット

「……最低よね」

涙が、ぽたぽたと床に落ちる。

シグレット

「好きなのに」 「好きって言えなくて」 「突き放して……」

声が裏返る。

シグレット

「気づいたら、隣に……その人がいて……」

ジェシカを、見てしまう。

シグレット

「もう……遅いって、分かってる」 「なのに……」

嗚咽が混じり、言葉にならない。

シグレット

「私……何を言ってるの……」 「本当……馬鹿……」

そのまま、肩を震わせて泣き崩れた。

アルバは何も言わず、そっとシグレットの頭に手を置いた。

アルバ

「……もう、謝らなくていいよ」

その優しさが、

いちばん残酷だった。

シグレットは、縋るようにアルバへ手を伸ばす。

――届く、と思った。

その瞬間。

ジェシカが、絶妙な間でアルバの腕を取った。

自分の胸元へ、引き寄せる。

それは、宣言だった。

シグレット

「あ……」

言葉が、消える。

シグレット

「……ごめんなさい……」

何度も、何度も繰り返しながら、

彼女は床に座り込み、泣いた。

誰にも、触れられない距離で。

ユリアナ

「……もう役割は終わったんでしょう?」

ジェシカ

「わかってたんですか」

(中略)

ジェシカ

「それじゃ……私は……」

言い切る前に、アルバの手が口を塞ぐ。

アルバ

「……ちょっと待って」

そして、アルバはシグレットの肩を抱いた。

シグレットは一瞬、期待してしまった。

けれど――

アルバは、ジェシカを引き寄せる。

耳元で、低く囁く。

アルバ

「……逃がしたくない」

その言葉は、

シグレットの胸に、決定的な刃を突き立てた。

息が止まる。

シグレット

(ああ……だめだ)

(もう、居場所がない)

ジェシカ

「……これじゃ、私、逃げられない」

アルバ

「ずっと一緒にいてくれるんでしょ?」

ジェシカが、うなずく。

その光景を、

シグレットは、泣きながら見ていた

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