第十六章 婚約
アルバがいつものように
バーミヤン、インドを一周して帝国へ帰還すると――
なぜか皇帝カルディは、玉座に正座する勢いで待ち構えていた。
アルバ
「ただいま戻りました。本日の収穫です」
床に並べられるのは
ラピスラズリのインゴット、香辛料、絹織物、ミンクの毛皮。
ユリアナ
「まあ……この毛皮、子ミンク?
すっごく……すべすべ……」
エマ
「絹織物も素敵ねぇ。
やっぱり、私たちを后にするべきよカルディ」
隣でエマの旦那である伯爵が、
胃が痛そうな顔をして黙り込んでいる。
ユリアナはアルバをまじまじと見て、
急に目を細めた。
ユリアナ
「あら……アルカディア?
私よ、おばさんよ? 覚えてない?」
アルバ
「(誰だろう……)」
ユリアナ
「まあまあ、こんなに立派になって……」
カルディ
「違う。それはアルカディアじゃない。
兄の子だ」
エマ
「じゃあ、この交易品――
一手に伯爵家で管理してみない?」
ラナ王女
「姉さんが独占したら、
今の流通が崩壊するでしょ」
エマ
「今回の分は私とユリアナで持って帰るわ」
ユリアナ
「ええ、旅費代わりね」
カルディ
「……まあ、今回だけなら」
ラナ
「あなた、甘いんだから」
するとエマが、
ズイッと身を乗り出した。
エマ
「それで――アルカディアの婚約の件だけど」
エマ
「うちの娘と、ユリアナの娘。
どっちがいい?」
ユリアナはいつの間にかアルバのすぐ隣に立ち、
頬にそっと手を当てる。
ユリアナ
「ねえ君。
私の家で“運び手”やらない?」
カルディ
「……!」
ユリアナ
「帝国も国家戦略級の運び手がいなくなって、
困ってるでしょう?」
カルディは珍しく声を荒げた。
カルディ
「彼は駄目だ!
国家戦略級商人ですら手に入れられない
ラピスラズリを持ち帰れる唯一の存在だ!」
ユリアナの目が、宝石のように輝いた。
ユリアナ
「つまり……
この名産品は、彼だけが?」
カルディ
「……そうだ」
ユリアナ
「じゃあいいわ」
エマ
「え?」
ユリアナ
「アルカディアは姉さんにあげる」
エマ
「え?」
ユリアナ
「私の娘を、この子のお嫁にするわ」
ラナ
「名産品は譲らないわよ?」
ユリアナ
「彼が婿に来れば、
うちの領地の名産品になるもの」
エマ
「……出遅れたわ」
エマ
「いいえ、私の次女も参戦させてもらう」
ユリアナ
「姉さんはアルカディアだけにしなさい」
ユリアナ
「だって言ってたじゃない。
“娘をアルカディアに送って、
私は東帝国に住む”って」
ラナ王女
「……そういうことなら」
ラナ王女
「ユリアナ姉さんの娘と、
アルカディアは婚約、決定ね」
エマ
「ユリアナ……
あんたが余計なこと言うから、
一番悪い方に決まったじゃない……」
アルバは、
自分のような者を貴族たちが取り合う光景を、
まるで他人事のように眺めていた。




