第十章 稀代のトリックスター
アルバは、ヘルメス教団研究所に来ていた。
外観は神殿、中身はだいたい理系の悪ノリである。
案内役の男が胸を張る。
男
「ここでは錬金術の研究を行っています。鉛などの金属から金を生み出す――」
壁には元素配列表、
理解を拒否するレベルの数式、
そして誰も説明できない謎の落書き。
アルバ
(あ、これ“雰囲気で賢そうに見せるやつだ”)
フロアを移動。
男
「こちらは旅の神ヘルメスの名にふさわしく、世界中の地図を集めています」
下は南極、東は極東の島国まで。
とにかく細かい。無駄に細かい。
男
「皇帝でも、ここまで把握していないでしょう」
アルバ
(いや、把握しなくていい情報まである気がする…)
さらにフロアを変える。
男
「そして――我神ヘルメスは“盗賊の神”でもあります」
アルバ
(急に誇るな)
男
「生まれてすぐアポロンの天牛を盗み、冥界を出入りし、
なお罰を受けない。まさに――」
男
「稀代のトリックスター!」
最新式の鍵モデルがズラリと並び、
「どうやって開けるか」だけが研究されている。
アルバ
(この研究所、方向性がだいぶアウトでは?)
ふとアルバは思い出す。
アルバ(小声)
「……確か、魔法店長にかけられた“白霧のスペース”って、
鍵そのものが無効になる魔法だったような……」
男
「……今、簡単に無効にできるとか言いました?」
聞き逃さないタイプだった。
男
「では試しましょう。この扉へどうぞ」
係員
「施錠します」
ガチャ。
次の瞬間――
アルバが**スゥ〜…**と、何事もなかったかのように扉から出てくる。
係員
「……そんな馬鹿な」
確認すると、扉は確かに施錠されたまま。
男
「……もう一回」
その後、三枚の扉で再検証。
結果は全部同じ。
男
(理論が…理論が泣いている…)
男は最後の切り札、金庫の前へ。
男
「では、この最新式金庫に金を入れます。取り出せますか?」
アルバは金庫を見て、コインに聞いた。
アルバ
「あの中にいるの、君の仲間?」
コイン
「当たり前だろ。新コインはオレたちが作ってる」
アルバ
「じゃあ、そこから抜け出すのは?」
コイン
「簡単だ」
次の瞬間――
金庫から転移したコインたちが、
目の前でジャラジャラ山積みになっていく。
男
「…………」
男
「あなたこそ、稀代のトリックスターだ」
男は急に神妙な顔になる。
男
「今や世は、神の世から人の世へ……
我々は表立って神を表立って信仰できなくなりました」
アルバ
「……秘密結社?」
男
「そう。金も堂々と集められず、やむなく秘密結社に」
アルバ
「で、資金源にしたいと」
男
「バックアップは惜しみません。
我々の援助で王になった者もいます」
そこへ――
魔法店長
「あら? あなたも入会したの?」
全員
「え?」
魔法店長
「ここの資金で、この建物買ったのよ」
男
「……会長、お知り合いでしたか」
魔法店長
「お知り合いもお知り合い。大のお得意様」
さらっと爆弾発言。
魔法店長
「そうそう、新しいスクロールができたの」
コインが、タイミングよくコイン袋をアルバの掌へポトリ。
魔法店長
「準備いいわね」
スクロールを渡す。
魔法店長
「“エジプトの神・プタハの祝福”って呪よ」
コイン
「呪なんかい」
魔法店長
「魔法使うと、顔色がちょっと緑になるだけ」
アルバ
「それ、わりと致命的じゃ…」
魔法店長
「地下の鉱物を引き抜いて、即生成できるの。
建物? サクサク建つわ」
袋とスクロールを交換。
魔法店長
「盗まれると困るわね。
ここ、盗みの神の研究所だし」
周囲の視線が一斉にスクロールへ集まる。
魔法店長
「じゃ、私がかけちゃうわ」
サクサクッと詠唱し、店長は去っていった。
アルバ
「あの人、いつもあんな格好なんですか…?」
ボンテージファッションに完全に意識を持っていかれていた。
男
「男たちの、いい目の保養です」
鼻の下が、伸びていた。




