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06 アレシオ殿下の誕生日

「生誕祭?」



恒例になった皇女宮の庭園のお茶会。

穏やかな風に乗って、ふんわりと薔薇のいい香りがする。

私の言葉に、向かいに腰掛けたセティは大きく頷く。


今日のお茶会のお菓子はナッツとドライフルーツのパウンドケーキ。ぱくぱくと美味しそうに頬張りながら、



「来週、兄様の17歳のお誕生日なの」

「17歳…」



おお…同世代とは思っていたけれど。

私より年下か、アレシオ殿下…。



「それでね、真理恵に相談があって」

「ん?」

「兄様に、お菓子を作ってプレゼントを渡したいんだけど……作るの、手伝ってくれない?」



膝の上で握った手には、ぎゅっと力が入っているようだった。

いつになく真剣なその表情に微笑ましくなる。



「いいよ、何作りたい?」



私の言葉に、セティはパッと花が咲くような笑顔になった。



「レモンタルトも良いし、アイスクリームも素敵よね。今日のパウンドケーキもとっても美味しいし…」



と、指を折りながら楽しそうに語る。



「でも生誕祭って、セティと殿下は忙しくないの?」

「えっ?」

「スケジュールによってはアイスクリームとかは難しいかなって。どう?」

「ううう……忙しい…です…」



しょぼん、と効果音がつきそうな勢いで落ち込んでしまうセティ。

だよね、と苦笑しながら、私は彼女の頭を撫でる。

恐らくセティ以上に主役であるアレシオ殿下はゆっくりお茶してる暇なんかないだろう。



「じゃあ、クッキーにしようよ。それなら、少し時間が経っても美味しく食べられる」

「!うんっ」



私の提案にセティは目を輝かせて大きく頷く。



「じゃあさっそく、作りに行こう!」

「えっ、これから?」

「練習!」



椅子から立ち上がってニコニコしながら私の腕を引く彼女に、私も根負けして吹き出してしまった。



厨房に向かうと、突然のお願いにも関わらず皆さん快く場所と材料を提供してくれる。

アレシオ殿下の好みそうなクッキーを模索するべく、今使える材料をずらっと並べてもらう。

プレーン、紅茶、チョコチップ…。定番だとこの辺りだろうか。



「あんまり甘いのは好きじゃないんだっけ?」

「そうみたい。でも、真理恵の作ったお菓子を残してるのは見たことがないわ」



当たり前のようにそんなことを言われると照れくさい。

「だって美味しいもの」とセティは笑った。



「じゃあ、まずは定番のプレーンクッキーから作ろうか」

「はーい!」



セティの元気いっぱいな返事が厨房に響く。



***



城の外が歓声で湧いていた。

楽しげな音楽、人々のざわめき、笑い声。

いつもとは違う雰囲気の王城は活気に満ちていた。

朝から始まった皇太子殿下の生誕祭は、陽が落ちてからも続いていた。

このあと花火が上がってフィナーレらしい。


案の定、全て終わるまで戻ってこれなさそうなセレスティアに代わり、せっせと厨房に籠もってクッキーの準備をする。

型抜きはセレスティアにも手伝ってもらって、私は焼き上がりを確認するだけ。

プレーン、紅茶、それにアーモンドとナッツのクッキー。

検討した結果、プレゼントはこの3種類になった。



「マリエは、花火見に行かなくていいのか?」



料理長に声をかけられ、苦笑いと共に頷く。



「万が一、打ち上げ失敗なんてさせちゃったら目も当てられないですからね…」

「あー…お前さんの魔力妨害な…」



この厨房に出入りするようになったばかりの頃、水が出ない、オーブンが使えない…などのトラブルが多発した。

よくよく紐解いていけばそれは全て私が原動力となる魔法石のエネルギー伝達を阻害しているせいだった。

その結果、厨房の忙しい時間帯には立ち寄らない、厨房設備には一切触らない、などの取り決めをしてスペースを使わせてもらっている。



「まぁ本当は、広場のお祭りとか見に行きたかったんですけど」



私の力の影響力がはっきりしない今の段階で、大勢の人の中に入るのはリスクがあるということで断念した。

下手をすればお城の警備態勢にも影響しそうだし。大人しく城内でお留守番である。

セレスティアはかなり不服そうにしていたけれど、「殿下にプレゼントを渡すのは一緒に行こう?」ということでどうにか納得してもらったのだった。



「まっ、2ヶ月後の建国祭はもっと派手だからな、そっちは隙を見て行ってくるといいさ。露店も屋台も今より増えるぞ」

「建国祭?」

「この国の繁栄と加護を、女神様に感謝する式典だ。年に一度、皇女殿下が国に加護を与える儀式がある」

「へぇ…」



女神セリシアの生まれ変わり。

女神の加護を、天から国に降ろす少女。



「ただいまっ!」



無邪気な声と共に、セレスティアが厨房の私の元へ駆け込んでくる。

長い銀髪は編み込んでツインテールに。

身に纏っているのも、普段よりももっと華やかで美しいドレスだ。

水色を基調に、裾に向かうにつれて群青色にグラデーションを描き、髪色と同じ銀糸で細かな刺繍が施されている。

細かなダイヤモンドが散りばめられたその美しさは、まるで星空を纏っているようだった。



「おかえり。その格好で走ったら危ないよ」

「真理恵にも見せたかったんだもの。可愛い?」

「うん、可愛い。すごく綺麗」



私の賛辞に、セティは満足そうに口角を上げる。



「ねっ、クッキー出来た?」

「出来たよ。殿下はもう渡しに行けそう?」

「うん、花火も終わったらちょっとだけ時間が取れるって言ってたわ。皇女宮の庭園のテラスで待っててって伝えたから」



行こう、と軽やかに笑うセティに手を引かれ、私は籠いっぱいに入れたクッキーを持って庭園へと向かった。



***



既に辺りは薄暗い。

遠くに、華やかな喧騒が聞こえる。

王城の庭園とは違い、皇女宮の庭園は民衆の立ち入りは許可されていない。おかげで今この時間、ここは数少ない静かな場所だ。

ふう、と小さく息をつき、アレシオは礼服の襟元に指を掛ける。

ひとつ、ふたつと釦を外してようやく、張り詰めていた空気が緩んだ気がした。冷たい空気が身体中に巡る感覚になる。



「兄様!」

「セレスティア、真理恵」



無邪気な妹と、ぺこりと頭を下げる黒髪の少女。

セレスティアは走り寄ってくると、両手で抱えていた籠を嬉しそうにアレシオへと差し出した。

籠いっぱい入ったクッキーが、甘い香りを漂わせる。



「お誕生日おめでとう、兄様!真理恵と一緒に焼いたのよ」

「お誕生日おめでとうございます」

「真理恵と?そうか、――ありがとう」



セレスティアはくすぐったそうに笑う。

真理恵にも視線を向けると、彼女も小さく微笑んだ。

立場上華美な贈り物は多いが、こんなふうに「手間を惜しまない」贈り物は数少ない。

存外嬉しいものだな、とアレシオは目を細める。

「食べてみて!」と促され、ひとつ摘んで口へと運ぶ。

ほろりと崩れる口当たりと、アーモンドとナッツの風味が甘すぎずにちょうどいい。



「……美味いな」



思わず零れた感想に、セレスティアと真理恵が顔を見合わせる。

誇らしげに笑う妹の頭を撫でると、心地よさそうに目を細めていた。

そこへ、パタパタとセレスティアの侍女がやってくる。

軽く弾ませた息は、主人の姿をあちこち探し回った証拠なのだろう。



「皇女さま、お召し替くださいませ!礼装を汚してしまっては困ります!」

「はぁーい!……兄様、真理恵をお願いね」



悪戯がバレた子供のように舌を出してみせると、セレスティアはひとり先に歩き出してしまう。



「全く…お転婆が過ぎる」



やれやれ、とため息をつくアレシオに、真理恵は可笑しそうに笑う。



「私に見せたいって走ってきてくれたみたいですよ」

「……すまなかったな、式典に参加させてやれなくて」

「いえ、ちゃんと納得しましたし。皆さんに迷惑をかけるのは、私も本意ではないので」



穏やかに言う真理恵に、アレシオは黙り込む。

彼女の力は、彼女のせいではない。

セレスティアがそうであるように。



「真理恵」

「はい、」

「よければ、私と一緒に出かけないか?」

「へ?」



驚いたような視線が、こちらを振り向いた。


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