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24 侍女の休日

教会からの手紙が届いて以来、皇女殿下はどこか元気がないようだった。

手紙は神殿への来訪を打診するものだったようで、今日は殿下が1人で外出している。

護衛や侍女の1人もつけないのか、とやんわりマリアさんに聞いたところ、送迎は全て教会主導、皇室には携わる術がないらしい。

時間になると神官直々に迎えにくるのだとか…。

女神の生まれ変わりだから、替えのきかない大切な存在だから、と言われてしまえば返す言葉もないのだけれど…。



「(なんか、息苦しいな…)」



第三者の私ですらそう感じるのだ、皇女殿下本人が疲れた顔をするのも無理もないのだろう。



「ルルリエ、今日はお休みね」

「へっ?」

「最近、殿下はあなたにベッタリでしょ?不在中の業務は私ひとりで十分回るから、たまには休みなさい」



ふんわりニッコリなマリアさんの圧に負ける。



そんなこんなで、急遽、休日。



「……お菓子でも焼こっかな…」




城下町で材料を買い込んで、皇女宮の厨房の隅っこを借りる。

久しぶりだし何作ろうかな〜とわくわくしながら卵黄を泡立て器で混ぜていると、懐かしそうにこちらを見ている料理長と目が合った。



「なんです?」

「いやー、懐かしくってさ。昔も、そうやってそこで手間暇かけてお菓子作ってる娘っ子がいたんだよ」



身に覚えのあり過ぎる話に、思わず手が止まる。

そんな私を知ってか知らずか、彼は楽しそうに当時の話をしてくれた。


マリエという、皇女殿下の歳の離れた友人がいたこと。

魔法が上手く使えず、また何故かキッチンの魔法設備をよく壊していたこと。

彼女の作るお菓子が、皇女の大のお気に入りだったこと。


他人が他人に語る自分の話、というのはとてもむず痒い。

それでも、可愛がってくれていたのが感じられて恥ずかしいやら嬉しいやら。

どうして「マリエ」がもうこの城にいないのか、に触れられることはなかったけれど。

15年も経った今でも心の中に留めておいてくれる人がいるというのは、とても幸せなことだった。



そんな話をしながら、クッキー生地から型を抜き、

ドライフルーツ入りのバウンドケーキをオーブンに入れる。

両方とも焼き上がって粗熱が取れる頃には、皇女殿下も帰っているだろうか。



「おー、美味そうだ」

「ん…料理長、なんか甘くて良い匂いがしますね」

「ルルリエも飲むか?」



差し出されたグラスを少しだけ口へと傾ける。

びっくりするような甘さと、その奥にある僅かな苦さ。



「っ、!」



ピリッと舌先に《祝福》の魔法陣が発動したことに驚いて、思わずグラスをひっくり返す。

これが発動するのは、毒あるいは薬だ。

料理長がこんなに堂々と毒や薬を差し出すわけもなく、……っていうか、本人もガバガバ煽ってるし…ということは…。



「これ……お酒?」

「なんだ、初めてか?最上級品のセリム酒だよ」

「お酒は初めて……」



熟したセリムの実や、砂糖漬けなどのおやつは食べたことがある。

そのどれとも違う、濃厚で独特な甘さだ。



「(ていうか、《祝福》に「毒」認定されるってどれだけアルコール度数の高い酒なの……)」



体内に入れた瞬間に“解毒”されていくアルコール。

体質的に、私が酔っ払うことはなさそうだけど。



「仕事中にそんなに飲んで、またダリアさんに怒られますよ〜」

「なーに、嫁が怖くて酒が飲めるかっての!」

「全くもう…」



そこへひょっこりとマリアさんが顔を出す。



「なんか良い匂いがするわね」

「クッキーとケーキ焼いたんです、マリアさんもいかがですか?」

「ありがとう、いただくわ」

「俺たちも食べたいっす」

「お、お前ら買い出し終わったのか。食え食え」



買い出しに出ていたマリアさんと調理班の皆さんも加わって。

甘い香りと、賑やかな笑い声。

切ない懐かしさと、新たな居場所への愛着が同居する。

いつか、彼女ともこうしてまた笑ってお茶が出来るような相手が出来ればいい、と。

そう願わずにはいられないのだ。



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