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19 予期せぬ再会

先日のフロリナとフロリナモドキの騒動は、上級メイドから新人メイドへの嫌がらせの一環だった――と判明した。

新人メイド、つまり、私である。

カップに注いですぐに変化の現れるそのお茶が、本当に皇女殿下の口に入るとは思っていないだろう。

皇女殿下に出す茶葉を間違えた、しかもそれが毒性のあるものだった。

彼女たちにしてみれば、気にいらない新人が叱責されればいい、くらいの可愛らしい悪戯だ。


フロリナモドキの毒性はあまり強くない。

毒が溶け出した後の変化も分かりやすく、人的被害が出ても比較的対処も簡単である。

しかしながら結果として皇女を害そうとした罪は重い。

よって、皇女宮の上級メイド「全員」を解雇とする。


――それが、皇室側が出した結論だった。

ただでさえ人手不足なのに?という意見もあったようだけれど、上級メイドたちはもともとあまり仕事をしなかった。

私以外にも、彼女らの嫌がらせに迷惑しているメイドたちの証言もあり、全員サクッと辞めさせられていった。

今回の一番の被害者である私はといえば、彼女たちからの小さな嫌がらせを上に報告しなかったことをやんわり注意されたけれど、その程度。

これで平和に仕事が出来るなぁ良かったなぁと羽根を伸ばしていたところへ…



「ルルリエ・ベルフォート嬢ですね?」

「えっ……はい…」



メイド用の控室に現れた男性。

見慣れない顔だった。

襟元に輝くのは、王子宮の関係者を表す徽章だ。



「皇太子殿下がお呼びです」

「……はいい?」



――再会はいつだって突然に。



***



王子宮の近侍の話を要約すると、「メイドから侍女へ昇格させてやるので王子宮へ来い」ということらしい。

彼が去った後、休憩室の空気は酷くざわついていた。

そりゃ、就職して2ヶ月弱のメイドが侍女に昇格なんて珍しい話だろうけど、それにしたって騒然としすぎじゃない…?



「ちょっとルルリエ、あんた一体何したのよ」



くいくい、とメイド仲間に袖を引かれて尋ねられる。



「何って……仕事…?」

「たかだかメイドの異動の辞令にわざわざ皇太子が顔を出すなんて異例よ、前代未聞よ」

「え〜…?皇女殿下に身の安全に関わる話だからじゃないの?」

「……。」



その意味深は無言は何なの。

あんたの仕事は引き受けるから、とりあえず行ってきな、と送り出してくれた彼女にお礼を言いつつ、休憩室を後にする。

皆のその視線が痛いんだって!なんなのー!



案内された部屋の扉を開けると、既にマリアさんとセレスティア殿下の姿があった。

私を見て微笑むマリアさんと、ちらりとこちらを見ただけで視線を逸らす皇女殿下。

空気はどこか重く、その表情はどこか緊張しているように見えた。

……たかだか新人メイドの辞令じゃないの?

皇女宮に関する辞令であれば、侍女頭が取り仕切るのが通例らしい。

そこに皇女が同席しているだけでも異例なのに――

全く事態が把握出来ないまま、更に奥の部屋に通される。



「こちらへ」



張り詰めた空気が漂っていて、自然と背筋が伸びた。



「……殿下がいらっしゃいました」



マリアさんが一礼し、静かに告げた。

重厚な扉が開き、皇太子アレシオが姿を現した。

金茶色の髪、青い瞳。

伸びた背筋は15年前よりもずっと高く、更に引き締まって男性らしい洗練された体付きになっていた。纏う威厳はあの頃よりも更に増している。

けれど――。

その青色の瞳が皇女へ向けられることは一度もなかった。



「……、」



ちらりと斜め前方のセレスティアへ視線を向ける。

セレスティアはドレスの裾を握りしめ、わずかに手を震わせていた。

その横顔は強張り、唇はかすかに噛みしめられている。



「ルルリエ・ベルフォート」



名を呼ばれ、思わず背筋を正す。



「本日をもって、皇女殿下付きの侍女に任ずる。職務に励め」



それだけを言い渡すと、アレシオ殿下は手にした書類を侍女頭へと渡す。

形式的に署名と印を確認させた後、無駄なく踵を返した。



「……、はい。ありがたく拝命致します」



彼の表情を確認する間もなく、重々しい扉が閉じる。

部屋に残されたのは、私と皇女殿下とマリアさんだけ。

嵐のような緊張感を残して、皇太子は去ってしまった。



辞令そのものは確かに出された。

久しぶりに、アレシオ殿下の顔を見ることも出来た。

それなのに――



「……殿下」



恐る恐る視線を向けると、セレスティアは俯いたまま、力なく小さく首を振った。



「……よかったわね、ルルリエ」



祝いの言葉なのに、声音はどこか掠れている。

きゅっ…と噛みしめていた彼女の桜色の唇は、色が変わってしまうなほどだった。


「兄様!」と無邪気に笑っていた幼い皇女と、それを微笑んで眺め、時には美しい銀髪を撫でていた皇太子。

彼らのあの和やかさは影も形もなく、残されたのは冷たい沈黙だけ。



「……なんで…」



私の知るあの2人とは全く違うその姿に、自分が如何に無知かを思い知る。



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