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第1章 1-7 思い

王族の姫として、豪華で広い部屋が与えられているものの、何処にも行けないリリアーナにとっては、小さな世界だった。

バルコニーから外を眺める度に思うのは、癒しの魔法などではなく、空を飛べる魔法であれば、ここを自由に飛び世界は広かったのにと。


そんなある日の夜も、バルコニーで外を眺めてると、少し遠くに明るく光る魔力がこちらに向かって飛んでくるのを感じた。

ここは魔法大国。

この城周囲一帯は、魔法の障壁があり例えチリひとつであっても、外部の魔法は通らない。

それはどの国も知ってること。

なのに、その光りは迷いもなく飛んでくる。


「何でしょう…?」


もしもの事を考えて部屋と戻り窓を閉めて、窓からその光を見つめた。

恐らく既に障壁に影響があるだろう位置を越えてるものの、何も周囲がざわめいた様子もないことからすり抜けてきたように思う。

リリアーナは思わず窓から目を背け窓を背にその場に座り込んだ。

この大国の障壁を何もトラブルなくすり抜けることが出来る力なんて、あるはずもない。

ということは、余程の力、だと。


そう、頭で考えてると、目の前に気づくと光る白い鍵が浮いてそこに居た。

何故か疑問にも持たずに手をそっと伸ばすと、鍵は自然と手に収まった。


「これは…?」

『これはって、見てわかるでしょ?王の鍵だよ?』


急に頭の中に直接響く声が聞こえ、鍵を見ていた視線をかばっと上げると、目の前に猫のような白い獣がこちらを見てそこにいた。

黄金の瞳…。


「あなたが、これを?」

『そうだよ?私が届けた。君は選ばれたんだよ。』


ふふんと鼻を鳴らして、得意げに獣は言った。


王の鍵に、選ばれた?


「私が王の鍵に…?」

『私はクローネ。鍵を導くものだ。君の力を貸してくれる?君の名前は?』

「リリアーナです。」

『リリアーナ。今日からよろしくなっ!』


まるで人間と話してるかのように話すクローネ。

にかっと笑った口元からは牙を覗かせており、獣であることを証明している。

月明かりに照らせれた黄金の瞳が無数の光に輝き、恐ろしくも美しい光だと思った。


これが、クローネとの始まり。

次の日、王に謁見を申し込み、直ぐに出立の話がまとまった。王妃がやや燻ったものの、癒しの力が離れるより、王の鍵が手に入った事の欲の方が大きかった。

幸い兄も討伐に出て不在だったので、事が早くすんなり決まって、王命として城の外に出れることになった。


――


洗面所から出ると、まだスノウはぐっすり寝ているようだった。

昨日は鍵の力をも使うことになったから、思ったより疲れたのかもしれない。

近寄って顔を覗くと、ぐいっと腕を引かれてスノウの上に覆い被さる形で倒れ込んでしまった。


「スノウさん、起きて…!?」

「あ?あー…そうか。悪い。」


そう言うと、スノウはリリアーナを抱えて床に降ろした。

スノウはソファから降りると、そのまま洗面へ行き、水の音が聞こえてきた。


リリアーナは、ぽかんと洗面所を見た。

というのも、男性の手に引かれ、上に覆い被さってしまった。

自分と違って鍛えられた身体は固く、腕の力も強かった。

改めて男性なんだ、と意識してしまうほどに。


そう、内心はビックリして時が止まっていたと思う。

兄以外の男性に触れられてしまうというのは、無いこと。

城では徹底されてたし、そのせいか外に出てからも、自分から何か渡す際や、声をかける際に触れることはあっても、触れられるのは避けて来たと思う。


慣れていた感じを考えると、部屋に女性を招き入れていた時と、勘違いしていた、ということだろうか。


しばし立ち尽くしていたものの、スノウが洗面所に行ってる間にと思い、支度を始めた。

と言っても、王族の姫様とはかけ離れている準備。

さっと服を来て、整えるくらいの。

城にいた時は、メイドが数人ついて朝から全身の身体拭きに、クリーム塗って、服もコルセットを締め上げてドレス着用に時間をかけて、更にヘアメイクに同じくらい時間がかかる。

しかもこれ、王と王妃と食事を取るためだけの用意。

客人をもてなすためではないのだから、着飾る必要性をいつも感じていなかった。

今はその分楽で仕方ない。

外でも気品をと、使ってる素材は一級品なものの、気軽に着れる服に、ヘアメイクも自分なりで済んで気楽だった。



リリアーナとスノウは宿屋の主人にお礼を言ってから、村長の家を訪れた。


「ああ、お二方、昨日はありがとうございます。」

「俺たち、出てくから挨拶と思ってな。俺はしばらく滞在してたし。」

「いつも助かっておりました。」


ペコペコと何度か頭を下げる村長。

小さなこの村にそもそも傭兵が来てくれること自体が奇跡に近かったのに、解決までしてしまうのだから。

ただ、これから、というのもある。


「村長さん、これから苦しい先もあるかもしれませんが、私達は根本を解決出来るよう頑張ります。だから村長さんも頑張ってください。」

「はい…!」


今この世の中、小さな村は地図上には存在しないところは点々とある。そして、存在しないからこそ、消えてしまっても、見た目上何も変わらない。

でも確かにそこには、人々がいて生活をして、毎日を生きている。

その全てを救う、ということは難しいことだから、根本を解決すること。

これが鍵を与えられ、手を差し伸べ助けてあげられる唯一の方法。

そうやって幾度となくこの鍵は世界を救ってきた。

リリアーナを同じ思いを感じて、強く手を握った。


そう、同じ思い…を。


―カチリ、コチリ…

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